おじさん、草をむしる
さて、知らない人からいきなり攻撃をされました。長く生きてはいますが、やはり不機嫌にもなります。
こういう時は草毟りに限ります。
名もなき雑草への八つ当たりでの憂さ晴らしと、終わった後の達成感。
前世で得たアンガーマネージメントの中でも中々に有用なものでした。
今世でも利用しましょう。
ー ー ー
「なんと愚かな」
娘から報告を受けたロジャーは絶句した。
「デーモンはどうしている?」
「ハッ。憂さ晴らしに、と騎士寮の裏庭の草毟りをしております」
「どちらの方が人間が出来ているか考えるだけ無駄だな。フランシス司祭は?」
「応接間で待たせております。案内中に浅はかな行動で我が領が危険に晒されたことを教えてさしあげましたわ」
「何をどう考えたら、司祭のレベルでデーモンに立ち向かおうとなるのか、理解に苦しむな」
「仰るとおりですわ。お父さま」
「おおかた、都合の良い暢気な話題だけを聞き、脅せば如何とでもなると考えられたのではないかしら」
「まぁ、あれがデーモンでなければ、ただの物知りな小市民であるからなぁ」
「閣下。油断はなさいますな」
重い腰を上げるロジャー。
教会と対立するつもりはない。
だが、騎士団に手を出して、有耶無耶にも出来ない。前例を作れば、今後の対応が難しくなる。
かと言って、教会の上に報告するわけにもいかない。同じような考えの者ならば、聖騎士を派遣してきかねない。
いかに温厚とはいえ、生命に関わる事態になれば、全力で抵抗するだろう。
『浄化』の効かないデーモン。
冒険者ギルドが知らない事実として、デーモン種に『浄化』を行使することで、弱体化を図ることが出来る。
これは教会や貴族が持つ情報。
そのため、国や教会は『浄化』の力を重要視し、聖騎士と呼ばれるデーモンハンターを常に配置している。その派遣が政治的要素となるレベルだ。
その優位性を覆す事態。
弱体化できてなんとか聖騎士2名と同等なのがレベル2のデーモン。
『浄化』が効きにくく、デーモンの倍の聖騎士が必要になるグレーターデーモン。
だが、デバフ無効のデーモンとなれば、換算が出来ない。
化け物中の化け物。
「国を滅ぼしうる怪物が、幸いなことに友好的なのだ。これを奇跡と言わずなんとする。神の名の下に、この奇跡を踏みにじるのであれば、私は改宗も辞さないぞ」
ー ー ー
ふぅ。
だいぶ気持ちが落ち着きました。
やはり、草毟りは良いですね。
普段手入れをしないところを毟りましたので、こんもりも雑草が積み上がっています。
デーモンパワーですと、ドクダミやカヤツリグサを根っこごと引き抜けるので、ちょっと楽しかったです。
こやつら、どうしましょう。
こっそりと教会の花壇にでも植えてやりましょうかね。
十薬と呼ばれる程の薬草ですから、きっと喜んでくれるでしょう(暗黒微笑)。
「少し良いかね?」
アルカイックスマイルを浮かべる私を呼ぶ声がします。
振り返ると、そこには先程私に魔術をかけてきた盲信者のご老人。
「先程は失礼なことをした。ワシの無知が招いた失態じゃ。このとおりじゃ。申し訳ない」
頭を下げられました。
戸惑う私に、ご老人の後ろにいたドロシーお嬢さまが声をかけてきます。ドロシーお嬢さまの後ろには領主さまとゼーバッハさまもいらっしゃいました。
「謝罪を受け入れてもいいし、受け入れなくても良いですよ、デーモンさん。あなたの判断に任せます」
おおっ?
先程ドロシーお嬢さまがつれていってからの、この謝罪。よほどお灸を据えられたのでしょう。
自分より年上の方の謝罪は心苦しいものがあります。
そうですね。ここは受け入れましょう。
ついでに娘であるドロシーお嬢さまの中の領主さまの株を上げるくらいしておきましょう。
頑張る父親は応援するタイプの人間なのです。
「謝罪を受け入れます。私も初めてこの領地に来た時に、領法を知らずに迷惑をかけました。しかし、領主であるバーンズさまは、私を許して下さったばかりか働き口をも用意してくださりました。私もかくありたいと思います」
ー ー ー
「ゼーバッハ。聞いたか?私の行動が巡り巡って領地を守っておるぞ」
「ハッ。流石でございます、閣下」
「社交辞令だと思うわ、お父さま」




