おじさん、魔術の美しさに魅せられる
レイスという怪物がいる。
精神干渉の魔術を使用し、幽体のため物理攻撃が効かない。
浄化の魔術が使えるものがいなければ、一方的に精神を汚染される冒険者キラーである。
発見の報告があれば、高位の司祭、もしくは浄化の魔術の使える冒険者が派遣される。
ベテラン冒険者のグンターはレベル2の冒険者で、冒険者パーティ『タフガイズ』のリーダーだ。
スキルは『剣術』と『浄化』。
物理攻撃も対霊的攻撃もできるバランスの良い戦闘スタイルの彼が率いるパーティは、新人指導を行なっている。
今回、新人というには破格過ぎるパワーを持ったデーモンに『討伐クエスト』がどういうものかを見せるための指導が組まれた。
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「新人だっていうのに貫禄がありやがる」
リーダーさんから理不尽なことを言われました。
そう申されても、私、怪物の討伐など初めてです。見た目だけです。
「頼もしい新人が出来たもんだ」
「何かあったら、守ってくれよ?」
逆ですよ。ベテランなんですから新人を守って下さい。
よく見ると、このお二人はよくギルドの酒場にいる方ですね。受付のジュリさんに絡んでは、その都度言い負かされているのをお目にかけます。
グンターさんのパーティの方だったのですか。
「今日はレイスの討伐クエストを行う。お前は後ろで見ていれば良い。わかったな?」
「何卒、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします」
「おう。俺がリーダーのグンターだ。で、そっちがシリウスとレイヴンだ。よろしく頼む」
シリウスさんとレイヴンさんですね。
「俺とレイヴンは『剣術』と『鉄壁』のスキル持ちだ。護衛クエストで引っ張りだこだ」
「今回は討伐クエストだ。大事なのはグンターをいかに守るか、だ。何しろレイスには『浄化』じゃねぇと太刀打ち出来ねぇからな」
「準備は出来たな?では行くぞ!」
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墓場に来ました。
以前幽体で見てまわっていた時は、何の変哲もない墓場でした。
今は濃霧で良く分かりません。
「レイスが出ると霧が出るんだ」
「数もだが、上位種のグレーターレイスが出ても濃くなる。まぁ、この濃さだ。複数のレイスがいると思って間違いない」
視界の悪さは、思わぬ事故を招きかねません。
不用意に接近したところを魔術で食らわせてくるのでしょう。
いやな怪物ですね。要注意です。
それに墓場という環境のためか、虫も多いようです。さっきから耳元でモスキート音がうるさいです。
「精神干渉とはどのような魔術なのでしょうか?」
「人による。トラウマがフラッシュバックし恐慌状態になったり、仲間が敵に見えるパラノイア状態になったりするらしい。『魔術耐性』を持っている奴や厳しい修行を行った高位の聖職者だと、少しビビりやすくなったり、イライラしやすくなるくらいで済むようだ」
ふむ。
精神の強さ、みたいなのが必要なのでしょう。
だいぶ歩きましたが、全然レイスに遭遇しませんね。虫が増える一方な気がします。
「レイス、見当たりませんね」
タフガイズの皆さんに声をかけてみます。
「うむむ。この濃霧だから複数はいそうなんだが」
「グンター、墓場の端まで来ちまったぞ?」
「もう1周回ってみるか?」
「そうだな。デーモン、お前もそれで、いい、か、あっ」
一旦方向性カンファレンスを行うために、先を歩いていた3人が私の方を振り返りました。
明らかに顔色が悪いです。
「どうされましたか、グンターさん!?」
「いや!どうしたもこうしたもねえよ!後ろを見ろっ!!」
……後ろ?
……!?、ヒイッ!おばけ!!
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後ろを大人しく着いてきていたデーモンの頭の上にはレイスが3体も浮いていた。
魔力をこめた呪詛を浴びせまくっているためか、デーモンの周りだけ少し霧が黒い。
こんな気持ちの悪くなる魔力、いや、ここまで来ると瘴気と呼ぶレベルか。こんなのは初めてだ。
こんなのを浴びて、よく平気だな、こいつは。
やっぱり最強の怪物種は伊達じゃねぇってことか。
だが、まぁ、本当にそうは見えないんだよな。
レイスにビビって、効かねえって教えたのに斧で空を切りまくっている。
いや、とんでもねぇスピードで振り下ろしてるな、お前。
レイスじゃなきゃ真っ二つだ。
振り下ろすたびに空気の壁の爆ぜる音までしやがる。
お前が味方で良かったよ、本当。
さて、ここからは俺の仕事だ。『浄化』使いの技のさえを魅せてやるぜ。
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魔術とはなんとすごいものなのでしょう。
斧では手も足も出なかったレイスが、グンターさんの『浄化』でだんだんと薄くなっていきます。
霧も心なしか薄くなっているような。
これが魔術。
私も魔術のスキルがあるのですから、使ってみたいですね。
このクエストが終わりましたら、グンターさんに魔術のテクニックを教えてもらいましょう。
年甲斐もなくワクワクしていますよ、私。




