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デーモンおじさんは無茶をしない  作者: 伊藤 金平
おじさんは定職に就きたい!
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おじさん、異世界の軍靴を語る



ドロシーお嬢さまからの質問「最強の軍とは?」とは大変難しい質問です。



私が元いた世界においてもですが、答えはケースバイケースでした。


陸なら、海なら。平原なら、山なら。


……と言っても私も歴史学者ではありませんでしたから、教科書レベルの知識です。

マケドニア軍だったり、モンゴル帝国騎馬軍だったり、イギリス海軍だったり、ですね。



しかし、歴史的に分かる勝っている軍の共通点は1つです。



「お嬢さま。『富国強兵』と言う言葉があります。それは―――」



 ■ □ ■ □ ■



デーモンさんはやはり私とは違う視点をお持ちのようでしたわ!



領民の生産性が、領地の強さとなり、領地の強さが軍事力となるとのこと。

物資輸送力、補給線の強固さ、つまり『兵站』が軍事力において重要であると、デーモンさんはおっしゃいましたの。

必要な場所に必要な物資を、最適なタイミングで過不足なく配置する。


そのような神憑りな配給配置ができれば、それはとてもとても強い軍でしょう。



そして驚かされたことに、それを採用した国にデーモンさんの国は敗北した歴史があるとのことでしたわ。


―――デーモンの国を敗る国家戦略を図れる軍。それは最強の名に相応しいでしょう。



そして、その国の名。まさか、亡き母の名が、そんな覇国の名とは思いもしませんでしたわ。

思わず、お父さまの方をみてしまいましたが、その時の父の表情が忘れられませんわ。


……もしや、母の名はそこからつけられたのでしょうか。



祖父に、カーチス•ケーソン男爵に、由来を聞かねばなりませんわね。

母の死後に、『神敵』であるデーモンさんからそんな話を聞くとは思いもしませんでした。



 ■ □ ■ □ ■



「では、デーモンさん。『兵站』を専門とした部署と強い輸送隊を作れば、領軍は強くなる、とおっしゃるのですか?」

「補給線を維持する生産力が領地にあれば可能と思われます」



ドロシーお嬢さまがどんどん質問をしてきます。


大変利発でらっしゃいます。それは結構でございます。

この領地の未来はきっと明るいのでしょう。

ですが、私のレベルでは答えられない質問が次から次にくる、この地獄めいた問答。


これを何とか切り抜けたい。


結局『最強の軍』への答えとして、知りうる中での最強の国としてアメリカ合衆国をあげて説明しました。現実の日本も大敗を喫しましたし、ゲームでも人工島を作るチート生産性国家です。


あんなもの勝てるか、とコントローラをなげたことが何度ありましたことか。



いやしかし、『兵站』や『補給線』という考えがまだ乏しい時代でしたか。うーん。中世には、もうあった気がしたのですが。この世界ではその考え方にはまだ至っていなかったのでしょう。


―――戦略は分かった。難しいが実践の価値はある?

―――次は戦術?


何なのでしょうか、ドロシーお嬢さま。知識欲がドレスを着ているような方です。

あ、失礼いたしました。


うーん、そう申されましても。何かありましたっけ……。期待した目をしていらっしゃる。



「……大砲はありますか?」

「もちろん。攻城戦に必須ですわね」

「その国では野砲、つまり対兵用に使っていました」



 ■ □ ■ □ ■



デーモンさんの国を敗った国、母の名の国は、貴重な火薬や砲弾を湯水のごとく使っていたそうです。そんな国が弱いはずがないじゃないですか!


冗談ではないのでしょう。

生産性の向上の意味が分かりましたわ。

使い捨ての兵器の使用による領地の資金の消耗に耐え得る資本が必要なのですわね。


デーモンさんから教えてもらったブドウ弾は想像するだけで恐ろしいですわ。

重騎士で無くては耐えられない。……いえ、重装騎士でも耐えられないかもしれません。

ちらっと見たゼーバッハが苦虫を嚙み潰したような顔をしていましたもの。



また『榴弾』という考え方もありませんでした。

爆弾を敵陣に打ち込み、爆発させる戦術プラン。そのための砲兵という戦科。

……砲撃練習のためだけにいくら支払う必要があるのかしら。


導入するためには、領地を栄えさせなくてはいけない。

なるほど。これが『富国強兵』。


―――つまりは金貨で殴りあう戦争なのですね。


ああ。お父さまの顔色が悪い。目があったのに逸らされました。

いえ、逃がしませんわよ。今後のバーンズ子爵領の繁栄の話ですもの。


いつかどこかの領主が思いつくはずなのです。

おそらく、それは母の名前の国の情報を知った者が先導をするはずです。


でしたらば、私がしても良いのではないのかしら?そうでしょう?お父さま!



 ■ □ ■ □ ■



デーモンくんが娘と話しているのを聞いていたが、何とも恐ろしい話だ。


未来の国家の戦術戦略なのではないか、と思うほどだ。


―――だがデーモンくんは「かつて、私の国を倒した国家」と言った。


つまり過去の国家である。

早急に王都の図書を利用しなくてはなるまい。

何か資料が残っていれば良いのだが……。


しかし、妻の名前が覇国の名であったとは。


妻の実家であるケーソン男爵家も素晴らしい名を与えたものだ。確かに名前に負けぬ女傑であった。

娘によくよく受け継がれていると思わされる。



そういえばケーソン家の祖先は、別の国より来られた勇者であり、私はその末裔と言っていたな。

だからと言って私よりも剣が強くなる必要は無かったが……、うむ。



―――ほう。覇国アメリアの対人攻城兵器部隊『野砲隊』には勇ましい曲があるのかね、デーモンくん。我が屋敷には風琴がある。奏でられるのかね?素晴らしい教養の持ち主だな、君は。是非に聴かせて欲しい。


ん?

アメリアの野砲隊の歌の別名?ただのうんちく?だが君の知識は実に実用的だ。うんちくでも良いので教えてくれたまえ。


『ケーソンの歌』というのか。ふむ。



ケーソンの歌!?



 ■ □ ■ □ ■



オルガンがあるとのことで、戦車少女アニメで培った付属高校のテーマソングを弾こうと、領主さまとドロシーお嬢さまにお伝えしました。いいぞ!とおっしゃられましたので、ついでにうんちくも語ったのですが、その途端に何やら早急に手紙を書く必要があると言われ、お開きになってしまいました。


練習の成果をお見せできず、残念です。




いいね、ブックマーク、評価、ありがとうございます。励みになっております。この場を借りて感謝申し上げます。



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