おじさん、心よりお詫び申し上げる
朝、斥候さんからの情報で騎士団の皆さんは騒然としていました。
なんとマタンゴの集落がもぬけの殻になっていたのだそうです。
そして言われました。
「おまえの魔術の練習の際のプレッシャーが、マタンゴたちを刺激し、逃走させたのだろう」と。
マタンゴは胞子が脳や脊髄に入ると、そこで増殖し、宿主を乗っ取る怪物なのだそうです。体内から菌糸が溢れ出るほどになったのが、いわゆるキノコの姿形のマタンゴ。もともとは人間だったり、動物だったりなのだそうです。
キノコなので火に弱いのですが、それよりも怖がるのが、自分たちでは乗っ取れないような強い個体らしく、天敵の存在を感じるとしばらく姿をくらますのだそうです。
……年単位、で。
「この度は私の浅はかな行動が、マタンゴの集落の駆除の失敗を招いてしまったことを心よりお詫び申し上げます」
■ □ ■ □ ■
街への帰還の途中、馬上で領主ロジャーと騎士団長ゼーバッハは語る。
「駆除は出来ませんでしたが、被害なしでマタンゴの集落を落としましたな、閣下」
マタンゴは元の生き物の動きが反映される。人間が元のマタンゴなら鋤や鍬も使えるし、投石も出来る。
しかして最も恐ろしいのは、傷口から胞子が入ることだ。
決して攻撃を受けてはいけない怪物、マタンゴ。
少しの傷でも出来ようものならば、どれだけ信用できる人間であっても人里から隔離させられる。
怪物に脳が乗っ取られているかもしれないからだ。
対応する騎士たちのこれまでの忠誠と努力を水泡に帰すことからマタンゴは『騎士殺し』と呼ばれている。
安全な対処として堀を作り、上から火をかけ、燃やし尽くすこと。
おおよそ騎士の戦い方ではない。これもプライドを傷つけられる。
しかし、これも完全ではない。反撃はある。
その上で、数の不利を感じるとマタンゴは森に撤退する。そして数年は身を隠す。
どのみち倒しはきれない。
そう考えれば、数を減らすことは出来なかったが、今回は快勝と言っても過言ではない。
誰一人欠けずにマタンゴを撤退させたのだから。
「デーモンにこのような使い方があったとは、思いつきませんでしたな。マタンゴへの牽制になります。他領へ派遣すれば、それだけで閣下の名が上がりますな」
ゼーバッハに言われ、そうだな、と返すロジャー。
そのロジャーの頭にあるのは、別のことであった。
かのデーモンの謝罪やこれまでの口調だ。
礼節のレベルの高さが平民のそれではない。
指摘された問題点への対応の早さ、仕事への真摯さは貴族並みの素養がある証左であった。
人間であれば素直に良い教育を受けたのだろうと考える。
しかし、デーモンである。
暴力で解決できるのに、それを選択しない。
暴力を理性でコントロールできている。それが出来るだけの知性や教養を持っている、そう考えられた。
―――興味がある。あのデーモンが持つ知性、教養に。
きっとあの知性や教養は、バーンズ子爵領の更なる発展に繋がるだろう。それも飛躍的な発展に。
既存の考え方では時間をかけるしかない。しかし、この停滞した環境を変えるには、これまでになかったことが必要だ。新風が、嵐のような新風が。
劇薬と分かっていても、選択したくなる何かがあのデーモンにはある。
「……あれは貴重だな」
「はい、閣下。代えがありません。あれが騎士になれば、バーンズ騎士団は王国随一の騎士団となります。閣下が伯爵、いえ侯爵となる日も近いやもしれません」
ゼーバッハの発言も的を射ている。
結局は力がものを言うからな。
だが、あれを戦力として使うことに、すでに私は惜しさが出ている。
戻ったら、皆で話し合おう。今後について。
「ところで閣下。バートとコリンズについてですが」
ああ、今回は2人ほど小姓がついて来ていたな。
戦いはなかったが、結果は出ている。
「従騎士に上げてやりなさい。運も重要な要素だ。彼らにはそれがあった」
■ □ ■ □ ■
バートとコリンズは小姓から従騎士に昇格した。
デーモンを除いた他の小姓たちが騎士寮の一角に集まっている。
1名を除いた全員から祝いの言葉をもらっていた。
「やったな、コリンズ」
「おめでとう、バート」
「受任式の後の御前試合では、ボコボコにしてやるぜ」
「はっはー!返り討ちにしてやるよ」
「言ったなバート!ははは!」
従騎士が騎士に叙任される際に、12歳の小姓が従騎士に昇格する。
その際に新たに従騎士になった者は、その実力を示す為小姓たちと領主の前で試合が行われる。
当然、年齢と実力は比例するので、勝利する。
自信をつけさせて従騎士に至らせるのだ。
「あれ?ならバートもコリンズもデーモンに勝たなくちゃいけないの?」
小姓部屋は忽ちお通夜モードとなった。
いいね、ブックマーク、評価、ありがとうございます。励みになっております。この場を借りて感謝申し上げます。




