おじさん、ラムネを作ろうとする
凍った空気から回復した騎士団の方々がもう一度話し合い、結局、私が参加する以前に練られていた作戦が実行されることになりました。
堀を作り、接近してきたマタンゴが落ちたら、上から火をかける作戦です。
急ピッチで堀を作っていきます。
集落に近づきすぎました。いつ気づかれてもおかしくない状況のため、早急な準備が必要となっています。
しかし、この世界のスコップ?シャベル?は大変掘りにくいですね。
デーモンのパワーがあっても中々進みません。
元日本人ゆえ、農耕民族魂がなんとかしてくれるかも、と思いましたがなんともなりません。
「デーモンさん!そこだけ深くされても困ります!深さを合わせて下さい」
……怒られてしまいました。
■ □ ■ □ ■
「予定の半分で掘り終えたか」
「はい。あの怪力は脅威ですが、あくまでもこちらへ敵意をもって向けてきた場合。あのデーモンは人類に協力的なためか、魔術が使えないためか、危険度が下がっており、騎士団の中にはコミュニケーションを取るものも出始めました」
天幕で作戦の進行状況を確かめていた領主ロジャーと騎士団長ゼーバッハ。
部下の騎士から持ってこられた進行状況にロジャーは驚いていた。
「うむ。魔術が使えない、というのは驚いたが、な」
「スキルは持っているようですので、そのうち使えるようになるのではないかと思います。もちろん、真実を語っているのであれば、ですが……」
含みがあるようにゼーバッハはロジャーに告げる。
「デーモンが魔術が使えることを隠すメリットがない。使えないことを隠す方がむしろ普通なくらいの衝撃だ。……おそらくは真実だろう」
「領主さま。デーモンは狡猾と聞きます。ゆめゆめ信用致しまするな」
「……うむ」
■ □ ■ □ ■
おお。あれだけの時間でかなり掘りましたね。
穴を掘るだけでなく、掘り出した土で土塁も作れました。
まるで第二次大戦の塹壕のようです。
かなり頑丈です。
「明日、朝よりマタンゴの集落に攻撃を開始する。攻撃にて堀まで誘導し、作戦どおりに駆除を行う。決戦に備え、しっかり身体を休めよ!」
どうもマタンゴは夜間は動きが鈍るようです。
しかし、鈍っているところを叩くほどの照明がないため、誤爆やブルーオンブルーの可能性があるそうです。それらを予防するため、しっかりと太陽が上った時間に作戦を開始する方針となりました。
解散しました。それぞれ従騎士さまは、その上司たる騎士さまについていきます。
小姓の先輩であるバートさんとコリンズさんは、もう自分の上司となる従騎士のアレックスさまのところに行ってしまいました。
あれ?私、1人ぼっちですか。
うーん。
そうですね。
魔術とやらの練習でもして時間を潰しましょう。
せっかくスキルで持っているのですから。
……しかし、魔術、ですか。
実にファンタジーです。
呪文とかあるのでしょうか?詠唱とか、そういった儀式めいたやり取り。
『空気を操る魔術』と言われましたね。
昔やったRPGですと、真空魔法がありましたね。かまいたちで攻撃する使い勝手の悪いアレ。懐かしいです。
空気。空気ですか。
空気の主成分は窒素、続いて酸素にアルゴン、二酸化炭素。後はよく覚えていません。
それにアルゴンって結局なんだったのでしょう。変身怪獣しか出てきません。
良くわからないものは操れないでしょう。
となると選択肢は『窒素』『酸素』『二酸化炭素』ですか。
それらを操るってのもよくわかりませんが……操れるなら便利ですよね。
炭酸水が飲み放題です。ハイボールが安く作れるって言うのは心が躍ります。
まぁ、ウイスキーに巡り合うのが先ですが。
ものは試しに、目の前の水をシュワシュワの炭酸水に変える練習からしてみましょう。
うまくいけば、ラムネを販売してお小遣い稼ぎです。
……もしかしてもうラムネあるんでしょうか。重曹とクエン酸と砂糖だけですもんね、必要なものは。いやしかし、あれは明治時代のちょっと前の発明品のはずです。
ということは、今売り出せば、知識チートが出来るやもです。
魔術が使えれば、ですが。
試行錯誤です。
うむむ~、ハァッ!!どうだ!?
■ □ ■ □ ■
悪寒が走った。
馬たちも震えている。
これは恐怖だ。
怪物狩りでも、戦場の空気にも慣れている俺の馬が震えている。
「アレックス!何が起きている!」
俺は自分の従騎士を呼びつける。
もしかしたらマタンゴがすでに移動を開始しているのかもしれない。斥候からの情報が欲しい。
「申し訳ありません、ロイドさま!現在のところ、何の情報も入っていません。しかし、この禍々しい空気。プレッシャーの強さ。もしかするとグレーターマタンゴが出たのかも知れません」
グレーターマタンゴ。マタンゴの統率者か。厄介だ。
だが
「それよりも強いもののオーラだ、これは。マタンゴロードのレベルかもしれん!」
「そんなものが、バーンズさまの領地で!?」
「わからん。斥候からの情報が頼りだ。他にこのようなプレッシャーやオーラが放てるとならば……、あっ」
「あっ」
身近にそれ以上の脅威がいたのだった。すっかり忘れていたが。
あのデーモンが何かしでかしたのかも知れない。
アレックスとアレックスの従者となる小姓の2人を連れ、デーモンのテントに向かう。
すでに人集りが出来ていた。
皆、考えることは同じか。
見るとデーモンが正座をしている。
領主さまとゼーバッハさまが何やら苦言を呈しているようだ。
魔術の練習?
……何も今しなくとも良かろうに。
期待されたのにできなかったので自主練を、と。
まぁ、心意気は良いが……。
結局、空気は操れず、周りに魔力を放散させたのみだったか。
うーむ。魔力の放散だけで、このプレッシャーか。
流石デーモンと言わざるを得ないか。
しかし、あのデーモン。
どんどんと残念な感じになっていくな。
思わず警戒心が緩んでしまう。
これが意図したものであるならば、脅威も脅威なのだが。どうも、な。
「……ロイドさま。あのデーモン、本当に強いんですかね?」
俺も思った。
「……力はあるし、魔力も持っている。それに、人間の行動を観察する力にも長けている。強い怪物の要素は満たしているな」
「あんなのでも、油断は禁物、と……」
「そうだ」
領主さまから説教を受けているデーモンをみながら、自分に語るつもりでアレックスに考えを語るのだった。
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