おじさん、出撃の準備をする
騎士寮に帰り着くと、日頃は遠目でしか眺めて来なかった小姓の先輩や給仕のお姉さま方が話しかけてきました。
「デーモン!出番だ!荷物だ!荷物を馬車に載せろ!」
「あっちにあるものも載せて載せてちょうだい!水とパンと燻製した肉よ!」
おそらく、冒険者ギルドからの連絡に対して、領主さまがマタンゴの討伐命令を出されたのでしょう。
従騎士の皆さんが馬や装備品の準備をしていますし、その上司たる騎士さまたちは何やら作戦会議を開いています。
小姓の私ですが、微力ながらお手伝いを致しましょう!
「……すげえな。道具の積み込みが後10分くらいで終わるぞ?」
「小姓の方が早いなど、従騎士の恥だ。早く終わらせるぞ!」
そんな準備で慌ただしい中、先輩小姓の2人が、稽古の時の革の防具や、自身の荷物をまとめています。あれは馬小屋の掃除をいつも私よりも先になさっているバートさんとコリンズさんですね。
「バートさんとコリンズさんは、何をなさっていらっしゃるのでしょうか?」
私の後ろに、軍馬が食むための藁を持った方が歩いてらっしゃったので聞いてみます。
そんな、えっ、俺?みたいな顔されないでくださいよ。
あなた以外いないじゃないですか。
「あ、あいつらは、そろそろ従騎士にあがれる年齢と修練実績だと判断されたんだ。だから、今回、従騎士さまたちについて、どういうことをするのか見るんだ。その支度だよ」
なるほど。
日本でもありました。
次にその職につく前に、現職先輩社員の業務についていき、現場の雰囲気や職務を学び、顔を覚えてもらう。屋根瓦式といいましたかね。
思わずうんうんとうなづき、不思議な顔をされました。
「頑張って学んできてもらいたいですね」
「あ、ああ。そうだな」
■ □ ■ □ ■
「お前はどうする?」
不意に声をかけられました。
振り返ると騎士さまがいます。牢を見張っていた方の1人、ロイドさまですね。
「どうする、とは?」
質問に質問に返すのはいかがなものかと思いますが、分からないものは分からないと答える方がトラブルにはなりません。
「お前はマタンゴの駆除に参加はしないのか?」
これはどう答えるべきでしょう。
年功序列があることを知りましたし、出しゃばるとこれまでコツコツやってきた先輩小姓の方々が不満に思うかもしれません。
一方でこれは愛国心や忠義を示す為のテストのようにも思えます。領地を守る意志はないのか!と返されるかもしれません。
しかし答えによっては「身の程知らずめ!」とも言われそうですし……。
……ここは、どちらに転んでも大丈夫な玉虫色の回答をしてしまいましょう。
「どうぞご命令下さい。ご命令に沿えるよう、全力を尽くします」
■ □ ■ □ ■
1km先にマタンゴの集落が見えて来ました。
いよいよ作戦が発表されます。
作戦のキモは、今、私が手に抱えている油の樽だそうです。
マタンゴの集落に投する油入りの樽を馬車から降ろしながら考えます。
ロイドさまに玉虫色回答をした後、すぐに騎士さまたちが集合しました。
そしておっしゃりました。
「化け物に化け物をぶつけよう」と。
中身は繊細なおっさんです。
あまり酷いことを言わないで欲しかったです。
その後、集合した騎士さまのうちの1人から衝撃的なことを言われました。
「お前はどんな魔術が使えるのだ?」
■ □ ■ □ ■
なんでもデーモンは『悪しき魔術』が使えるのだそうです。
何をもって悪しきなのかはわかりませんが、おそらく人類を傷つける魔術が悪式魔術なのでしょう。
「だから悪魔と言うのだ」と言われました。
自分の魔術がわからないと答えましたところ、急いで鑑定水晶を持ってこられました。
領主さまのお屋敷あったものだそうです。
これでスキルが分かるのだそうです。
便利ですね、鑑定水晶。
その結果『空気を操る魔術』と『飛行』のスキルがあることが分かりました。
2つあったからレベル2だったのですね。
そして言われました。「もしかすると、お前の魔術が作戦の一部に組み込まれるのかもしれん」と。
使ったことありません。
安全性が保障できないプランです。
作戦が発表されましたら、即座に拒否しましょう。
もしくは練習時間をいただきましょう。
……マタンゴの集落を前にして練習出来るかは定かではありませんが。
■ □ ■ □ ■
「デーモンくんに、空から油を降らさせてもらう。油にまみれたマタンゴに火矢を放ち炎上させる。炎上するマタンゴに、魔術で絶えず空気を送り込んでもらい、マタンゴの集落が燃え尽きるまで燃焼させる作戦だ」
と領主さまから作戦命令を与えられました。
……主軸ですか!?
「いけそうか!?」
騎士団長のゼーバッハさまが訊ねてきます。
皆さんが期待した目で見てきます。
ふう、と一呼吸おき、用意していた答えを言います。
「申し訳ありませんが、私、魔術を使ったことがありません」
空気が凍りました。
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