表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デーモンおじさんは無茶をしない  作者: 伊藤 金平
おじさんは定職に就きたい!
1/27

おじさん、大地に投げ出される



うーむ、どうしてこうなったのでしょうか?


私、自分の仕事が片付いたので帰路につく途中でした。

突然の光に目が眩んだかと思ったら……



いえ、それはまぁ100歩譲って許します。


しかし、手違いで異世界転生させられた上に、宿す肉体がないとは。


15人で十分だった、と申されましても現に私はここにいますし。


手違いで人を殺めておいて、それは如何なものなのでしょうか?



えっ。そんな。

私の肉体は用意していない。自分で勝手に身体を探せ?


この世界がどういう世界かも知りませんのに、それはあんまりでは。

あまりに無責任ではないでしょうか。



そうこう考えていると、頭に霧がかかるように思考が纏まらなくなり、目の前にいた絶対的存在が霞んでいくのでした。



 ■ □ ■ □ ■



霊体?幽体?アストラル体?

言い方はわかりませんが、私、今透明人間です。


掌の向こう側に街が見えます。

おおよそ日本とか違う街です。

イメージの中の中世のヨーロッパ、という感じです。


近づいてみましょう。



おおっ。大きなお屋敷から真っ直ぐ門があり、その道で市が開かれています。

縁日の出店やフリーマーケットのお店のようです。

たくさん人がいますね。


私はその人達を認識できますが、彼らは私を認識出来ていないようです。

この世の者ではないのでしょうね、私は。


この人達は生きて、今、生活をしています。

この人達から身体をもらうわけにはいかないでしょう。



場所を変えて探すことに致します。

少し、身体が薄くなっているような気がします。



 ■ □ ■ □ ■



街のはずれにあった墓地、思ったより広かった下水道、スラム街を彷徨ってみました。


が、どうにも身体を頂戴して良さそうな人はおりませんでした。

そもそも生きている人から奪うのは如何なものか、とも思いました。


それならば死体を、と思いましたが、うまく私とフィット致しませんでした。


何かが根本的に足りない感じなのです。

鍵が鍵穴にハマらない感じ、と申しましょうか。



街での身体探しを諦め、街の外へ移動することに致しました。


その途中、市場の人達から「15人の聖者の誕生」についての噂を聞きました。

おそらく、私以外の、正規ルートで異世界転生した人達でしょう。

用意された肉体、とは聖者のことだったのでしょう。


いいなぁと思いつつ、街の外へ出ていきます。



フヨフヨと宙を漂いながら門を越えた時に、自分の手を見てみましたが、もう目を凝らさないと空気なのか分からないくらい透けてしまっています。


何となくですが、完全に見えなくなったら、自己が保てなくなるのではないか?と予想しています。

完全に空気と一体化し、取り返しのつかないことになるような気がしてなりません。



なんとしても身体を探さなくてはいけません。

手違いで異世界に連れてこられた上に、何もせずに消えていくなんて、余りにも惨めですから。



 ■ □ ■ □ ■



街を抜けると、森に至りました。


生命力に溢れた場所ですが、私にフィットする肉体を見つけるには至っていません。


鹿やウサギ、キツネと色々な動物がいます。

そっと触ってみますも、何も起こりません。

時間だけが無為に過ぎていきます。



そうこうしていますと、夕方です。


もう目を凝らしても、自分の手と後ろの景色との境界が分からなくなりました。


日没がタイムアップのようです。

なんだか、昔やったゲームのようです。

あのゲームは良かったです。うまくロケットを組み出せ直せた時は感動したものです。

私もあのゲームのようにこの世界から脱出できたら良かったのですが、それは叶いそうにありません。残念です。



夕焼けに黄昏れていますと、後ろの木々の間からメリメリ音がしました。


熊もいるかもしれませんね。自然の豊かな森ですから。



そう思い振り返りますと、そこにいましたのは、人ならざる者でした。


頭に角があり、尻尾もあります。

人間に似た容姿ですが、なんと申しましょうか、相容れないような、嗜虐性をお持ちの面相です。


ああ、そうだ。悪魔です。

そう悪魔。

なんで思い出せなかったのでしょう。


そう言えば、この世界に来てから自分が誰だったの思い出せなくなっています。

自我の虫食い化と言いますか、積み重ねてきた知識が希薄になってきているのがわかります。


空気になるのでしょうね、もうすぐ。



ああ、いけません。今は目の前に集中致しませんと。


目の前の悪魔さん。そうですね、悪魔さんと呼称しましょう。

彼は息も絶え絶えです。


よくわかりませんが、心ここに在らず、な感じです。



「もしよろしければ、その空いている心の隙間を、私で代用致しませんか?」

声に出ていたかはわかりません。

しかし、それが聞こえたのか悪魔さんが私の方へ視線を向けました。


私は手だった場所を悪魔さんに近づけます。



……あら?あらら?


なんだか手がスーッと悪魔さんに吸われていっている気がします。

それに伴い、心なしか悪魔さんの顔色が良くなったような気も?



最後に誰かの役に立てるなら、それが人間でなくても良いでしょう。

この世界に連れてこられて、ただ消されるよりは幾分かマシというものです。



だんだんと私の全てが吸い寄せられていき、遂には私という存在は消えてなくなったのでした。




いいね、ブックマーク、評価、ありがとうございます。励みになっております。この場を借りて感謝申し上げます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ