第3話 縁談話
リリーシャ視点です。
コンコン
「入れ」
「失礼します」
ドアの奥から低い声で返事が来たので、ドアを開け部屋に入る。
「副団長リリーシャ=フォン=アルデンヌ、グリード騎士団長に本日の報告書を渡しに来ました」
「いつも、悪いな」
「いえ、私は騎士団長の補佐なので」
騎士団長室の奥で椅子に座って、大量の書類仕事をしているのは、我らが騎士団のリーダーでもあり、私の上司でもあるグリード=ワーグナー騎士団長だ。
いつも決まった時間に報告書を騎士団長室に届けに来ている。副団長は貴方、騎士団長の補佐なので書類仕事も分担しているのだ。
書類を机に起き、報告書を読み上げ……
「そういえば、リリーシャ副団長、今はいくつだったかね」
ていたが、今回もお決まりのパターンらしく、私の歳を聞いてきた。その理由も嫌というほどに知っている。
「…………25です」
この後の展開を想像すれば、答えたくはないが、上司の命令には逆らえない。
「そうかそうか、25か」
うっ?!この、満面の笑顔………。きっとあの話に違いない……
「リリーシャ副団長、貴殿は結婚する気はないのかね」
「けっ、結婚ですか……」
やっぱり、その話だ。この人は歳が43と離れていることもあって自分にとって父親みたいな人ではあるのだが、それが影響しているのか、年頃となった途端に……
「そうだ、結婚だ。ちょうど、知り合いの息子が今嫁探しをしているそうでな。今はたしか、26だそうだ。リリーシャ副団長と年も近いと言うことでどうだろう?」
これで何度目か分からない縁談の話だ。一体どれほどツテを持っていれば数えきれないほどの縁談話を持って来れるのか……
「何度も申し上げましたが、私は結婚する気などありません」
「そうはいってもだな、リリーシャ副団長ももうすぐで結婚適齢期を過ぎてしまうではないか」
結婚適齢期、この国では18歳から25歳までとされているが、結婚する気のない私には関係ない話だ。しかし、騎士団長は娘のように思っている私が結婚して子供ができる姿をどうしても見たいらしく、何度も結婚の話を切り出してくる。心から心配してくれていることはわかっているのだが、正直言って有難迷惑だ。
「そうだ、リリーシャ副団長、レイノルトから今だに毎日のように求婚されているが、いっそのこと彼と結婚したらどうだ?」
レイノルトと結婚?
「ハッ、本気ですか?」
確かにレイノルトは誰が見ても分かるぐらいに私を好いている。だが、それは彼が私のことをもっとよく知らないからで……
「彼は、平民出身だがリリーシャ副団長をきっと一途に大切にしてくれるだろう」
「……」
「リリーシャ、もしあのことを引きずっているのなら、それはお前が気にするこのないことだ」
気にすることはない?他の誰でもないこの私が当事者だったのに?そんな話はきっと嘘だ。
「……失礼します」
騎士団長の顔をうまく見れず、持っていた報告書を手渡し、騎士団長室をあとにした。
リリーシャにとって騎士団は二人目の父親的な存在です。