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プロフェッショナル~仕事の流儀~

作者: 遠野音

こちらも3000字以内を規定としてSS作品。詰め込み過ぎかつオチが弱いことは否めず。

剣銃双流(デュアルウエポン)のクリス・ロジャー氏またまた大手柄! 北方の魔竜を討滅!

 剣と拳銃を同時に扱う剣銃双流の使い手として知られるクリス氏が、北方にて長年君臨していた魔竜を見事討滅した。本誌の取材に対して氏は「プロとしてやるべきことをやったまでです」と答えてくれた。今回の活躍に、氏のスポンサーであるサムライソード社、フロンティアバレット社の両社より特別報奨金が支給される見通しだ。』



「ふぅ」

 自らの仕事ぶりを大々的に報じる新聞をクリスはデスクに放り投げた。デスクチェアの背もたれに体重を預け、高い天井を見上げる。

 ここは王都の一等地に設けられた彼の事務所だ。十五の頃に魔物退治を職業とすることを志してから、早十年。ようやくここまで来た。いまや自分は王都で最も勢いのある魔物退治者(ストライカー)だ。

 憧れていた地位に達したことの満足感。それを味わいながら、しかしクリスの表情は優れない。それはいま現在彼が抱いているある悩みのせいだった。

 コンコン、と扉がノックされる。クリスが応えるより前に扉は開き、サラ・エヴァンスが顔を見せた。

「あら、どうしたの? いつもは自分の記事を切り抜いて、後生大事にスクラップしてるのに」

「サラ。まずきみはノックの意味を知ろう」

 秘書兼マネージャーであるサラに、クリスは渋い顔をして注意する。しかし彼女はそんな注意など意に介さず、デスク上の新聞を拾い上げた。

「さっき両方のスポンサーからちょうど同じタイミングで電話があってね、もう大変だったわ。他の業者と違って二社スポンサーが付くと、こういう時大変よね。まあ、贅沢な悩みなんでしょうけど」

「スポンサーね……」

 そう。そのスポンサーこそが目下のところクリスの悩みだった。

「なあサラ。俺――魔物退治者クリス・ロジャーを一言で説明しようとすれば、どうなる?」

「剣銃双流の使い手」

 サラは即答した。予想通りの回答に、クリスは「だよなぁ」と頭を抱える。そうしてから彼は、恐る恐るといったように口を開いた。

「それ、やめちゃダメかな?」

「……は?」

 サラの手から新聞が滑り落ちた。彼女はゆっくりとした所作で再度それを拾うと、筒状に丸め、ぽんぽんと片方の掌に打ち付ける。

「どうしたのクリス。ずいぶんつまらない冗談を言うようになったじゃない」

「冗談じゃない。俺は本気だ。本気で剣銃双流を止めて、剣か銃のどちらか一本に絞りたいと思ってる」

「ありえないわね」

 ビシィ、とサラが新聞を鞭のようにデスクに叩きつけた。蚊が止まっていたらしい。

「どちらか一本に絞るということは、もう一方を捨てるわけでしょう。そうなれば当然、その会社とのスポンサー契約は打ち切り。収入は半減。ほらありえないでしょ?」

「聞いてくれサラ。きみの言い分はわかる。確かにスポンサー料は半減するだろう。だけど実務上の観点から言って、これは必要なことなんだ」

 クリスは剣術と射撃それぞれを習得し、その腕前は王都でも指折りだと自負している。だからこそ彼は剣銃双流という流派を打ち立てることが出来た。

 しかしそれは、剣銃双流に強さを見出したから、ではない。

 目立つためにだ。

 王都では数多の魔物退治者が活動し、はっきり言って供給過多なレベルだ。魔物をただ退治しても、政府より支給される報奨金は微々たるもので、到底それだけでは食っていけない。だから魔物退治者には、活動を支援してくれるスポンサーが必須になる。

 スポンサーの多くは、武器や防具の製造会社だ。魔物退治者はスポンサーの製品を装備して戦うことでその宣伝をする代わりに、活動費を支給してもらう。

 だがスポンサーになってくれるような武具メーカーの数には限りがあり、その枠に滑り込むにはただ強いだけでは足りず、強烈な個性が求められる。

 その個性としてクリスは剣銃双流を打ち立てた。

「でもあんた、記事では偉そうに語ってるじゃない。『近距離の剣、遠距離の銃といかなる状況にも対応できるこの流派は、まさに実戦向けです』とかなんとか」

「いや無理でしょ」

「ぶっちゃけるわね、あんた」

「人間そんなに都合よく出来ないって。迷っちゃうもん。『あ、いま剣と銃どっち使おう』って。その一瞬の迷いのせいで、何度危ない目にあったか」

 剣だけならば、間合いを詰めることに集中すればいい。

 銃だけならば、間合いを保つことに集中すればいい。

 どちらにせよ、どっちつかずの現状よりも戦いやすくなるのは明白だ。

「……で?」

「だから、武器を剣か銃のどちらか一本に絞ろうと思う」

 スパン、とサラの新聞鞭がクリスの頭を叩いた。

「また蚊が止まってたか?」

「馬鹿がいたのよ」

 サラは「はぁ……」と嘆息し、脱力したようにデスクにもたれ掛った。

「わかった。あなたの言い分は理解したわクリス。身体を張るのはあなたですもの、最大限の配慮をすべきだとは私も思う」

「それじゃあ……!」

「でもね、現実問題としてそれは無理なの」

 腰を上げかけたクリスの出鼻を挫くようにサラは言い放った。

「この事務所を建てる時に作った借金、固定資産税をはじめとした税金、あなたの給料、私の給料、その他経費諸々。それら全てを賄いきるには、スポンサー一社じゃ足りないの」

「ぐっ……」

 淡々と告げられる事実にクリスは眩暈がした。こんなことなら事務所を建てる際、身分不相応な見栄を張るんじゃなかった。

 だがそれはもう過ぎたことだ。一度上げた生活水準を下げることは容易ではない。というか下げたくない。しかしこのまま剣銃双流を続けていけば、そう遠くない未来、クリスは大きな痛手を受けるだろう。

 二律背反。あちらを立てればこちらが立たず。地位か命か。そのどちらかを選択しなくてはならない。

「――違うな」

「クリス?」

 漏れ出た呟きにサラが首を傾げる。クリスは勢いよく腰を上げた。

「どちらかを選ぶだけなら、誰にだって出来る。そんなのはアマチュアのやることさ。だが俺はプロだ。プロフェッショナルだ!」

「クリス、あなたそれじゃあ……!」

「ああ、そうだ。どちらか片方じゃない。両方とも選んでやろうじゃねえか!」

「……よく言ったわ。それでこそ私の相棒よ、クリス!」

 サラが差し出した右手を、クリスは力強く握り返した。二人の熱い視線が交錯する。

 やるべきことは極めてシンプルだ。その方法も、いまのクリスにはハッキリと見えていた。

 剣か銃、そのどちらか片方を選ぼうとするから問題なのだ。

 現状は、半ば無理やり両方を選んでいる状態。しかしその継続は不可能。

 ならば残る選択肢は一つだ。

 ふとクリスの目に、サラの手に握られた新聞が留まった。そこに書かれた『東方に悪鬼出没』の記事。

「やれやれ。なかなか世間は俺を休ませてくれないぜ」

「いってらっしゃい、クリス」

「見ててくれサラ。これが俺なりのプロフェッショナルだ」

 多くの言葉は不要。それだけを言い残し、クリスは戦場へと赴くのだった。



『クリス・ロジャー氏入院! 東方の悪鬼に返り討ち!

 王都有数の魔物退治者であるクリス氏が、東方に跋扈する悪鬼に返り討ちされた。全治一か月の重傷を負い、王立病院への入院が決まったという。剣銃双流の使い手として名を馳せている氏だが、今回どちらの武器も使用せず、素手で悪鬼に突撃した。この実に不可解な行動に、氏のマネージャーであるサラ・エヴァンス氏は「これがクリスにとってのプロフェッショナルだったのよ……」とこれまた不可解な声明を残している。なお昨夜、氏のスポンサーであるサムライソード社とフロンティアバレット社は合同記者会見にて、氏とのスポンサー契約の打ち切りを発表した。』



終わり


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― 新着の感想 ―
[一言] そういうノリの作品だからとは分かっていても よくこれで今まで生きてこれたなぁ、 と思わずにいられない残念具合。 サラさんのこれまでの苦労を思うと……
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