アネモネ
毎日路地裏で残飯を探し、街で盗みを働き必死に生き繋いでいた幼い頃。
少しでも安定した生活がしたくて職を探していた時に知った魔力がないとなれない「魔道士」という職。
僅かな人に産まれる時に発現すると言われる魔力。僕はたまたまその魔力を持っていた。しかし、名の知れた有名な人達のように強い魔法が使える訳でもない。僕が使えるのはせいぜい魔力を探知すること。
精霊を操ることも、誰かを癒すことも、人を守ることも、敵を倒すこともできないハズレ能力。
帝国1のギルド「ヘイズ」の人たちのように強い魔法を持っていない自分には、魔道士として稼ぐことなど夢の話になってしまった。
「リヒト!何してるのよ!」
「ミリス、どうしたの?」
魔道士になって初めて出来た歳の近い友達のミリス。
ミリスはパン屋の娘なのに、魔道士に憧れの人がいるらしく魔道士の道を選んだらしい。
「あのヘイズが外部魔道士に大きな依頼を出すんですって!急がなきゃ取られちゃうわ!はやく見に行きましょ!」
「あぁ…!待ってよミリスってば…!」
僕の手をとって走り出したミリスの表情は輝いていて。まるで彼女が使う光の魔法みたいだと思った。
ヘイズの依頼が張り出された掲示板の前につくと既に人だかりが出来ていた。
見慣れた魔道士の仲間や見かけたことの無い強そうな人達が何やらザワザワとしていた。
「何か変ね、依頼なのにみんな顔色があまり良くないわ」
「そんなに難易度の高いものなのかな、」
「とりあえず見てみましょ!…ごめんなさい!通してくださいな!!」
人混みをかき分けて依頼書を見れば何よりまずその報酬の異様さに目がいく。
「み、ミリス…!みてよ、報酬!10億ゴールドだって、!一生遊んで暮らしてもあまるほどの金額だよ…!」
「……」
「…?ミリス…?どうしたの?」
返事のないミリスの方へ向くと顔色が真っ青になっていて。
「ミリス?返事をしてよ、どうしたっていうのさ?」
「…な、んで、」
「え?」
「なんで…、今になってレティ様を……」
レティ様…?って、確かミリスの憧れの…?
もう一度依頼書へ目を向け、次は依頼内容を見る。
そこにある文字は、
「『北の魔将軍を見つけ可能ならば捕縛もしくは討伐せよ』…?北の魔将軍って…?でも見つけるだけなら簡単なんじゃ…!」
「…だめ、」
「え、?」
「ダメよリヒト、これは受けちゃダメ!!」
「な、なんで…?魔将軍はよく分からないけど僕の魔力探知なら見つけれるかもしれないんだよ!?」
「ダメ!!!」
「おや?何がダメなんです??」
ふと後ろから聞こえた知らない声に殺気を感じゾワッとした。
「あんたは…!ヘイズのアルディオス!!」
「で?何がダメなんです??そこの坊やはせっかくこの依頼に適した能力を持っているんでしょう?」
「なんであんた今になってレティ様を…!何考えてるの…!?」
「…ハッ、汚らしい雑魚が…、俺のレイの名を気安く呼びやがって…」
今、何か言ったような…?それに目つきも一瞬鋭く…
「何よ、ボソボソ言ってんじゃないわよっ」
「いえいえ、なんでもありませんよ。しかしそこの坊や。魔力探知が得意だとか?是非話をしたい。一緒に来て貰えませんか?お茶でもしましょう」
「だめよリヒトっ!あいつは…!」
ミリスはなんでこの人をこんなに嫌って…?
「あいつはレティ様を…!」
「チッ、うるさい女ですね。坊や、はやくこちらへ…」
そう言って謎の男が近づいてきた瞬間、僕の意識は途絶えた。