契約の終わり
「さてと、ザックさんも帰って来た事だし、私もそろそろ帰りますね」
ひとしきり泣き続けたシスターがしばらくして平静を取り戻した頃、カトレアさんはそう言いながら立ち上がった。
「あ……そうですよね。俺がいない間、色々とありがとうございました」
彼女がここにいてくれるのは俺が帰るまでの間だけの契約だった。シスターとの再会を見届けて、ここにいる理由もなくなったというわけだ。
俺は深々と頭を下げて感謝する。なんだかんだ言ってこの人だって俺が戻って来やすいように尽力してくれていたんだから。
「私は結構楽しかったから、そんなに気にしなくっていいんですよ。お友達もできましたから」
お友達、と言ってカトレアさんは改めて着席していたシスターへ視線を向ける。
シスターも微笑み返しているので、友人となったのは彼女なんだろう。
「へえ、何か気の合う話題でもありました?」
「はい! 私の知らない夫の一面、いっぱい教えてもらいました」
「へぇ……夫の……?」
シスターが会った事あるっぽいのは女神の方のはずだが、そっちで何をしてたのかはカトレアさんでも知らないことだったのかな。
「女の子には手を出しちゃダメって言ったのになあ。私ちょっぴり悲しいです」
(あ、修羅場だな)
若干眉を曲げるカトレアさんを見て、俺は直感的にそう思った。
あいつやっぱりシスターに何かしてたのか。お嫁さんがいるというのに何てことを。
これ、帰ったら喧嘩とかになるのかな。銀の災厄とその妻の夫婦喧嘩か……想像しただけで大規模な破壊が確実に起きそうだ。この人もとんでもなく強いみたいだしな。
「カトレアさん、あの方はそこまで悪意を持って行ったわけではないと思うので、どうかご容赦してあげてください」
「アーレットさんの頼みでもそれは聞けないですねー。流石にこれはちゃんとしたお説教をしてきます。男の人ならともかく、女の子に目を奪われたとあっては黙っていられませんので」
「申し訳ありません……」
「アーレットさんはいいんです! 今度また一緒にお茶しましょ?」
浮気してた対象っぽいが、シスターは別に恨まれたりしてないみたいだな、良かった。
銀の災厄がどうなるかは知らないけど、この感じだとこっぴどく叱られるんだろうな……。
そう思っていると、俺の前にカトレアさんが立つ。
「それでは、ザックさん」
「あ、はい、さよならです、カトレアさん」
別れの挨拶……だと思ったんだが、そうでなかったらしく彼女の手が俺の肩に置かれる。
「? あの……」
「私は関係ないからどっちでもいいんですけど、ザックさんも悪い子ですねー、こんなに女の子ばっかり集めて」
「えっ!?」
やれやれ、って顔をしながら言われ、思わず俺は振り返る。
リィンと、ヴェナと、シックス。全員女子だ。
そして今俺の背中にいるカーナも女子。あと、庭にいるバハムートもそうだな。
……うん、言われてみると、確かに女の子ばっかだ。カトレアさんと初めてあった時は俺だけだったし、ここに来てあの3人を集めたのが俺だとも知ったのだろう。
直前の話も踏まえると、俺が色んな女の子に手を出してるように見られているのかもしれない。
「あの……でもそういう意図は別に、なくて。ほんと、気が付いたらこういう偏りが生まれていたと言いますか」
「悪いとは言ってませんよ? 私は別に関係ないですし。……でも、カーナちゃんを泣かせるような事、しちゃダメとだけ言わせてもらいますけどー!」
そう念押しし、カトレアさんは去っていった。「あ、他の3人の子も泣かせちゃダメですからねー!」と追加で言い残していく。
すると、当然のように全員の視線が俺に集中する。
「私もお話はカトレアさんより聞いています。ザック……その子と将来を誓い合ったそうですね?」
「何を聞かされてたんですか!?!?」
どうやら彼女はだいぶ酷いでたらめをシスターたちに残していったようだ。まったく事実に即してないんだけど。
「リィンたちにも言っとくけど、カーナはただ殺されそうになってたのを助けてきただけで、カトレアさんが何吹き込んでたか知らないけどそういうのじゃないからね!!」
「お、おぉ……そうなのか……? あたし結構ショック受けてたんだけど、そっか、嘘だったのか……」
「安心した」
『そ……そうだよね、ザックは私の事放り出して、あんなことしてたりしないよね!』
どんな話を聞かされていたのか、全員それぞれに安心したように息を吐く。
おかしいな……カトレアさんは俺の姿が変貌した事を説明してくれて、誤解を解いてくれてたと思ってたのに。
余計な誤解を生んでいる気がするが……まさか彼女からはそんなふうに見えていたとでも言うんだろうか。
「では、ザックが自分の事を「魔王様」と呼ばせているのも事実無根ということでいいのですね?」
「いえ……。ザック様は、魔王様です……」
「っ!?」
「やっぱり」
『そ、そんな……!』
「カーナ!? 今その話するとややこしくなるから!!」
みんなの勘違いを解消しかけたタイミングでデカい石が投げ込まれたような波紋が生まれてしまう。
その後俺はどうにかしてみんなに正しい経緯を1から説明し直すのだった。




