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俺もマッサージくらい受けたかったな

「く、クイーンの知人であるとは知らず……ご無礼を致しました……!」


 目を覚ました俺が部屋から出ると、受付の人まで思いっきり謝罪してきた。この人もサキュバスだったんだろうな。

 普通にあのまま続けてくれてもよかったんだけどな、と言おうとするが深く頭を下げると逃げるように俺の前から去っていく。


「グッ……! あの女神、せめてあと30分遅く……いや1時間は後で来ればよかったものを……!!」

『そんなに遅れたら一通り終わってたと思うけどな』

「一通り終わらせたかったんだよ!!!!」


 しかしこの状況ではもうそれも叶わないんだろうな。

 多分食堂のあの子を通して村に連絡とかされて、もう俺はこの村でサキュバスに襲われる可能性はなくなったのだろう。


「もういいか、さっさと帰ろう」

『……確か安全かどうか確認しに来たんじゃねぇのか? さっきしっかり襲われてただろお前』

「別に襲われたからって死ぬわけじゃないし、いいだろ。そんなに危ないもんでもないって」

『お前……』


 非難するような声色のジルだが無視する。

 ともかくこの村に滞在する理由は消えてしまった。危険もないし、早くカーナと一緒にバハムートの所へ戻ろう。


「カーナ! もう起きてる!?」

「はぅ……!」


 隣の部屋に入るとカーナはもう状態を起こしていた。

 俺がいきなり入ったせいかちょっと驚いてるみたいだ。あと、なぜか顔色が赤い。


「あっ、ごめん、着替え中とかだった?」

「そういう……わけでは……。……その、夢を……」

「夢?」

「っ……。お、お忘れください……」


 なんだ、変な夢でも見たんだろうか。……え? 夢?

 ま、まさか……。


「カーナ、もしかして夢の中にサキュバスが……!?」

「いえ……その、う、受付の、方が……」


 その返答に俺は驚愕する。サキュバスはカーナの夢の中にも入り込んでいたようだ。

 しかも現れたのはついさっき俺に謝り倒していたあの人。


「な、何をされたんだ!?」

「……村を歩いている中で会った方々と一緒に、わたくしを囲んできまして……」

「複数人で!?!?!?」


 今日1番デカい声が出た。そんな、俺の方には1人だけだったのに。

 いや、それはあのコックの子が俺の事気に入ってたっぽいからかもしれないな。うん、多分あの後、上手く進んでいれば俺もカーナみたいに視界を埋め尽くすような数のサキュバスに翻弄されていたのかもしれない。


「くぅぅッ……」

「そんなに悲しまないで下さい、ザック様……。夢ですし、ただ、体を揉み解されただけですから……」


 いや、それだけでも正直滅茶苦茶羨ましい。俺は触れることすらほとんどできていなかったんだから。

 ……それにしてもおかしいな、女神はカーナが襲われてはいないと言ったはずなのに、どうして彼女はサキュバスに弄ばれていたのか。


「……具体的に何されたか聞いてもいい?」

『おい!!』

「ち、違う! 聞いた話と矛盾があるから確かめてるだけだよ!!」

「詳細、と言われましても……ただ、凝り固まった体を、解されていただけでして……」

「……うん? ただマッサージをされてた、って事?」

「そう、ですね……」


 ああ、なんだそういう事か。

 どうやらカーナは卑猥な触られ方をしただとかではなく、単にサキュバスたちによるマッサージを受けていただけみたいだ。

 それなら襲われた内には入れないかもしれないな。精気を吸うのは男からだけ、という事なのかもしれない。

 ……じゃあ俺にもそういうのでいいからしてほしかったな。


「夢の中の出来事ではありましたが……、不思議と、現実の身体も、影響があるような気がいたします……」

「……うん、それじゃあ疲れとかも取れたかな?」

「はい……。短時間でしたが、とても、心地良くなれました……」


 そう言ったカーナは、とてもふにゃっとした顔で、リラックスしていたのが見て取れる。

 ……思えば彼女は『血の雨』の魔女と呼ばれるようになってからずっと孤独だったはずだ。近寄る全てが敵だと思い、その全てを破裂させてきた。

 酷く疲れる生き方だったに違いない。そんなこれまでの緊張が全部ほぐれたようなカーナの顔を見て、思う。

 俺がここに来たのは、カーナを連れて来たのは無駄じゃなかったのかもしれないな、と。


「それにしても……、マッサージなるものは初めて受けましたが……あんな場所まで触られるのですね……」

「……カーナ、あんな場所って?」

「それは……ふふ。いくらザック様でも、言葉にするのは少々……ためらわれます」

「ッ!?!?」


 カーナは最後にそれだけ言って笑う。

 そのちょっと恥ずかしそうな微笑がどんな事が起きていたがゆえのものだったのかは、結局俺には教えてくれないのだった。

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