【災厄】のシルバー
「殺されますって!!!!!!!!」
夢から覚める前に、俺は女神様に胸元へ掴みかかってブンブンに首を横に振った。
前回はまあ、自称ゴールド級だっただけの雑魚なのだろう。だが今度はプラチナ級ときた。
間違いなくゴールドより格が上だし、魔獣となれば人間のように自分の力を偽って誇示するようなことはしないはずだ。
つまり、今度の相手は確実に、俺より二回り以上は強い相手だという事になる。
「わあっ、や、やめろよ、どこ触ってるんだよお前っ……♡」
「うわっ!? す、すみません!!!!」
命の危機を訴えるためだったので思わず詰め寄ってしまったが、思いっきり女神様の体を触ってしまった。とても夢とは思えないような感触を手の甲に感じ、慌てて手を離す。
俺だけでなく、向こうも顔を真っ赤にしており、夢の中とはいえ結構すごい事をしてしまった、と心の中で反省する。
しばらく荒い息を吐いていた女神様は、俺が距離を開けたままでいる事でそれ以上何もする気がないと理解してくれたのか、少ししてコートの襟を直した。
「……ふーっ。なんだよ、今朝の盗賊は問題なくぶっ殺せただろうが。何がそんな不満なんだ?」
「いや聞くまでもないでしょ! 敵の強さですよ!!」
「あー、もっと強い方がいいか。でも別に俺があいつの所に来る敵の強さを決めてるわけじゃないからなあ」
「弱くしてくれって話ですよ!!! 俺はシルバー級ですよ!?」
体を触ってしまった仕返しなのかそんな事を言われ、俺は思わず思い切り叫んだ。
どうして俺にそんな格上の相手ばかりさせようと言うのか。この人はもしかして俺の実力を勘違いしているのではないだろうか?
と思っていると、女神様は首を傾げて不思議そうにする。
「は? だからお前にやらせてるんだろうが」
「えッ!? な……なんでそうなるんですか、俺はゴールド級以下の弱い人間ですよ!?」
「何言ってんだ? お前の方が上じゃねえか」
「は……??」
当たり前の事のように言う女神様に、俺は思わず声を漏らした。
どういうことだ? 普通ランクを決めるとして、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド……みたいな順に強さの格付けをしてるんじゃないのか?
俺が思っているのとは逆なのだろうか。……でもブロンズとかアイアンがトップクラスの格付けって、なんか納得がいかないんだけど。
「お前が今生きている世界の事を考えてみろよ」
「この世界の事……?」
「おう。……それで、この世界で最も強いのはなんだ?」
「そう言われても、俺は孤児院でずっと育ったので、誰が強いだとかそういうのはまったく知らなくって……」
「……だからさ、そんなお前でも知ってるものが、あるだろ? 抗う事のできない絶対的な力が」
知ってて当然、みたいな雰囲気で答えを出させようとしてくるが、何の事か分からない。
俺でも知っているこの世界の事ってなんだろう? せいぜいシスターの事とか、街の事とか、孤児院付近の地理くらいなんだけど。
他には……天気? それも大体地球と同じようなものだし、そんなに差はないような。
後は、災害とかだろうか。台風とか、雷とか、火事とか。それと……!
「……銀の災厄の事ですか?」
「……やっと出たか。なんか悲しくなるな」
言われて、ようやく俺も思い出した。この世界における一般常識レベルの災害。
それは銀の災厄の事に他ならない。特定の個人が引き起こしているその災害は、確かに誰も止められていない以上この世界で最も強いものであると言える。
「……という事は、もしかしてシルバー級の俺って」
ようやく出た結論を確かめるように見ると、女神様は「やっと気付いたか」と言いたげな笑みを浮かべていた。
「そうだよ、お前は、この世界においてとんでもなく強えんだ」