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バハムート教団

「えっと……それで、その銀の女神龍? ってのがこの国の守護神とかなんです?」


 どうも逃がしてくれるような雰囲気ではなかったので、俺は食事をしながら彼らの話を聞くことにした。

 肝心の食事は味がよく分からない。やけに息の荒い集団に囲まれて食べたらどんなものだって美味しくなく感じてしまうだろう。

 カーナも同じく食が進んでいないようだ。そこまでポテトの量が多いわけでもないのに顔を青くしながらもさもさ食べてる。

 厄介なのに絡まれてしまったのかもしれない。これなら別の店を探した方が良かったかな。


「いいえ、あのお方はメルキオだけでなく、世界の守護者であらせられます!」

「あの美しき翼、一目見ればその貴さがお分かりいただけるでしょう!」


 とりあえず俺が彼らの言う女神龍の使いでない事は説明したのだが、1つ聞くたびにこのありさまで信仰対象の素晴らしさを勝手に聞かせてくれる。

 ……そんなのが世界を守ってる神様だなんて初めて聞いたので、多分俺が知ってるあの女神の話な気がする。

 銀の災厄と女神は元から同一の存在として語られてる、なんて話も前に聞いたし、この国ではその2つが完全に同じだと断定して統一した呼び方になってるんだろう。龍の部分はよく知らないけど。

 しかしそうだとしたらこの国の人は勘がいい。実際に銀の災厄と女神は同じやつだって、この間カトレアさんと話してハッキリしたしな。


「さ、貴方も、そこのお嬢さんも是非に我ら『バハムート教団』の一員になりませんか? きっと女神龍様の慈悲を賜れますよ」

「いやぁ、俺はちょっと」

「わたくしも……」


 熱心に勧誘までされるが、流石に断る。あの女神に気に入られてるっぽいのは間違いないんだが、教団に入るのはちょっとな。

 ていうかあいつ、バハムートなんて呼ばれてるのか。……そんな顔じゃない気がするけどなぁ。全然ドラゴン感ないし。


「左様ですか。……そんな美しい銀のつるぎをお持ちだというのに、不思議なものですね」

「……これ、なんか関係あるんですか?」


 俺の腰の魔剣を見ながらそう言われ、つい聞き返してしまった。するとバハムート教団とかいう教団の信徒は嬉々として口を開いた。


「我々は女神龍様に見付けて頂きやすいよう、女神龍様の体の一部とされている銀を身に付けるのです。我々はこの小さな彫像しかありませんが、あなたのその剣は実に見事なものです。大きく、美しく……必ずや女神龍様に出会えるでしょうに、勿体ない」


 なるほどな。女神の、そして災厄の象徴でもある銀を持ってれば女神に会えると信じてるわけか。

 正直会ったからってあの女神が人を助けるとは思えないけどなぁ。どうも人間の事嫌いっぽいし。

 そもそもこの魔剣だって女神に出会った後に貰ったものだし、これ以外にあいつからは慈悲も加護も貰った覚えなんてないぞ。


「教団に入らぬというのも貴方の自由ではあります。ですがここで出会えたのも何かの縁という事で、我らの教団の塔へ見学などしていかれてはいかがです? 気持ちが変わるやもしれませんよ」

「いや、俺は……。この子と、デート中なんで」

「……!」


 ついに教団の施設まで連れて行かれそうな雰囲気だったので、そう言って俺は拒否する。

 デートしてるつもりはなかったんだけど、こう言えばこいつらも退いてくれるだろう。……駄目だったら、まあ最悪実力行使に出るしかないけど。


「我々は、お邪魔と?」

「そ、そうです……。これ以上、わたくしたち2人の時間を、奪わないで頂きたく……」


 急に俺が言い出してしまった事だが、カーナも戸惑いつつ合わせてくれた。むしろいきなり胸の中にしなだれかかってきたので俺の方が驚きそうだった。

 やけに熱の入った演技をするカーナに圧されたのか、教団の5人はおとなしく引き下がってくれるようだ。


「それも1つの選択でしょう。限られた時間をどう過ごすかは個人の自由でもありますから。ですが気が変わればいつでもご来訪ください。メルキオの最も高い塔が我らの本拠地です」


 そう言い残し、彼らはすんなりと店を出て行った。

 最悪この場で戦闘になるかと構えていたものの、そこまでは至らず済んでよかった。


「……はぁ。変なのに絡まれて料理を味わう暇もなかったな。……どうしよっかカーナ。もう少し追加する?」

「いえ、お店にご迷惑もかけてしまいましたし、早く出ましょう……」


 まだ何か注文しようかと思ったが、カーナの言葉も一理あるな。

 静かな店内ではさぞ響いてうるさかった事だろうし、これ以上居座るよりは手早く退店するべきか。


「じゃあ残ってるポテトだけ片付けちゃおうか」


 そう言い、俺はカーナが食べきっていなかった料理を口に運ぶ。

 俺が頼んだものはもう完食済みだが、これだけはしっかりと味わえることだろう。


「……、あんま美味しくないね」


 しっかりと味わった結果、俺の口からは正直な感想が出てしまう。

 カーナは静かに頷きを返した。







「……じゃあ、次はどこを見に行こうか」


 店を出て、一応は食事も済んだ事にして俺はカーナをおんぶして辺りを見回す。

 変な連中に絡まれたり、どうもスタートダッシュに失敗してつまずいている感のある観光だが、2つも悪い事が重なったのだから、後は印象がよくなる一方のはずだ。

 そう思う事にしながら俺は来た道とは反対側に進む事にした。この国の中央へ向かう道だ。その辺だったら、何かしら名所みたいなものがあるだろうと思って。


「ザック様、あれは……」

「ん? 上?」


 カーナの指差す先、俺の進路の先を見上げると、そこには他の建物よりも一際高い、「塔」が見えた。

 入国前にもいくつか見えた高層ビルとでも呼ぶべき建造物だが、その中でも一番目立つ巨大タワー。

 そのまま天空のはるか先、神様のいる所でも目指してるのか? って思うような見上げるのも疲れる高さの塔。


「……すごいなぁ。バベルの塔ってあんな感じだったのかな」

「あの塔は……そのような名前なのですか……?」

「あぁ、違うよカーナ。俺の知ってる所にそういう名前の塔があってね。……まあそっちは神様の怒りを買ったかなんかで壊されちゃったらしいんだけど」


 そんな解説を始めたタイミングで、なんとその塔の頂上付近で爆発が起きた。


「……!? ざ、ザック様……!? あのように、でしょうか……!?」

「え!? いや、あっちは雷とかだったような……とか言ってる場合じゃない! 行ってみるよ!!」


 この国でも恐らく1番高いであろう塔。直前の事を思い返すに、あれはバハムート教団の拠点の塔であるはずだ。

 どうしてあんな爆発がたった今話していた奴らの本拠地で起きたのか。……実は、俺には少しだけその理由が分かっていた。

 爆発の直前、あの塔に隕石のようなものが超高速で飛んでいくのを見たのだ。カーナには見えていないみたいだが、あれは衝突事故のようだ。

 しかも、俺が見た限りではそれは隕石ではなく……銀色の翼を持つ、なにか生き物のようにも見えた。

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