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2回目の無理難題

「……どうしたんですかザック? こんなたくさんのお金」


 リィンに絡まれた以降は何事もなく孤児院へ戻った俺は、早速盗賊たちの賞金をシスターへと渡した。

 800枚の銀貨が詰まった袋を見て目を丸くした彼女は、リュオンやローレナと一緒になって俺の方を見てくる。


「ほら、お昼に盗賊が来たって言ったじゃないですか。それの賞金だそうです」

「へー、じゃあマジでザックが倒したのか? すげーじゃん」

「わ、お金いっぱいだね」

「あらあら、という事は私たち、ザックに救われたということになるのかしら」


 いやいや、救うだなんてそんな。俺はただ女神に言われるがまま襲って来た敵を倒しただけなのだ。

 そんな俺の手をシスターは優しく握ってくる。


「私の知らない間に、とても強くなっていたのですね、ザック。これなら冒険者としても立派にやっていけるのでは?」

「い、いやあそんな……。色々偶然が重なってうまくいっただけですよ」


 俺の成長を喜ぶように彼女はぎゅっと手を握ってくるので、その温かい感情が手のひら越しにも伝わってくるようだ。

 だが本当に俺の実力だとは思えない。女神から与えられた武器が強かっただけかもしれないし、そもそも相手がゴールド級だったかも怪しい。

 もしかすると、あれは俺の事をビビらせるためのハッタリだった可能性だってある。でなければシルバー級の俺が格上8人相手に無傷で勝利できるはずがないのだ。


「ふふっ、せっかくザックが頑張ったんですから、明日はあなたの成長記念にお祝いの御馳走を用意しましょうね」

「そんなのいいですって! それより、このお金は孤児院のために使ってください。俺はそのためにやったんですから」


 シスターは俺が成長したと思っているようだが、それはきっと勘違いだ。俺がシルバー級であるというのは確かに冒険者ギルドで知らされた事実なのだ。

 自分の実力は自分が一番分かっている。俺はこれからも調子に乗らないように気を付けながら頑張っていくつもりだ。





「お前、調子に乗るなよ」


 ……そんなことを考えていたらその晩、夢の中で女神にしっかりと釘を刺された。

 ちなみに、気が付いた時には俺はうつ伏せに倒れており、こめかみの辺りを女神に思いっきり踏まれている。まあそんなに痛くないし、美人なので苦とは思ってない。


「丸腰で敵の前に出て行くとかどんだけ能天気なんだよ、まさか話し合いで追い返せるとでも思ってたのか?」

「え、いやあ、そういうのは女神様が用意してくれるものかと……」

「何で俺がんなことしなきゃいけないんだよ! するわけねえだろそんな手助け!!」


 今度は尻を蹴りつけられた。うん、やっぱり可愛いし、痛いは痛いが悪い気はしない。

 っていうか、これじゃあもしかして女神様じゃなくて女王様なんじゃないか!?


「……やばい、目覚めてしまうかもしれない」

「まだ起きるなよ、お前には言いたい事がまだあるんだからな」


 そう言うと、女神様は俺から足をどかしてくれた。ちょっと名残惜しくもないが、立ち上がって彼女と向かい合う。

 昨日の夜と同じような体勢で偉そうな感じで俺の事を見下ろしていた。こうして改めて見ると、やっぱり女王様って呼ぶ方がしっくりきそうだ。


「……なんだよその目。すげえ気持ち悪いんだけど」

「なんでもないです。それより女王……じゃなくて女神様。手助けする気がないって言ってましたけど、それならあの剣は何なんです?」

「あー、それの事か」


 視線を若干下に逸らした女神様は、俺の腰を見ている。

 釣られて見ると、そこには俺を救ってくれたあの銀の剣が装備されていた。


「え、なんでここに!?」

「夢だぞ、そんくらい気にするなって」


 部屋に立てかけていたはずの剣があってビックリしたが、言われてみればおかしくもない。夢なのだから、身に付けていないものを持っていたとして不思議でもなかった。

 その銀の剣を見ながら、女神様は恥ずかしそうに口を開いた。


「まぁ、それについては簡単だよ。あんな場面で死なれたら困るから、仕方なく貸してやっただけだよ」

「確かに、あそこで俺が殺されてたら孤児院に行ってましたよね、あの盗賊」


 言われて納得する。俺があのまま抵抗もできずに殺されていたら、そのままシスターたちが襲われていただろう。

 それを防ぐため、この剣は俺に貸してくれただけのものらしい。なんか、すごい雑なツンデレみたいだな……。


「……って事は、もしかしてこれ返せって言うんですか?」

「あ? いや、そのまま使ってていいぜ。その魔剣、お前には使う資格があるだろうしな」

「え……? 魔剣……?」


 魔剣という言葉に驚き、思わず銀の鞘に収まる剣を凝視する。

 どっちかというとビジュアルは聖剣感があるのに、魔剣だったのか、これ。


「そいつは復讐の魔剣。殺すべき相手がいるやつにしか使う資格のない代物だぜ。こないだ見付けた」

「気軽にそんな恐ろしいもの救援物資として投げてこないでくださいよ。……え? 殺すべき相手? 俺にそんなのが?」


 女神様の言葉にこれまでの自分の記憶を振り返ってみるが、そんなに憎んでいる相手などいないはずだ。

 ん……? 待てよ、もしかしてあいつの事なのか……?


「おいおい、覚えてないのか? つい最近の事だろ」

「つい最近? ……もしかして」


 そこまで言われれば流石に俺も誰の事を言いたいのか分かる。


「そう、お前をパーティから追い出した奴らの事だな!」

「いやいやいや!! そこまで恨んでないですって!!」


 俺を孤児院へ送り返し、『黄金の旗』として活躍中のギルバーたち5人。俺はあいつらをそこまで憎く思っていたのだろうか。

 いや、自信満々に女神様は言うけどそれは流石に無い。俺の実力が見合わなかったのは事実だし、追放したのだって間違いなく俺の身を案じての事だと理解している。

 そんな彼らをそこまで俺が恨んでいるはずが……。あれ、でもどうなんだろう。もしかしてマジでそんなに恨んでるのか? あの程度で? それはいくらなんでも逆恨みがすぎるんじゃないの……?


「? 違ったか。まあその内はっきりするだろ。それより次の仕事の話だ」

「……え、ああはい分かりました。今度は何しろって言うんです?」


 どうやら女神様も本気で言っていたわけではないらしい。俺の反応を見るとすぐに話を切り替えた。

 またシスターに危険が迫っているというのだろうか。昨日の今日でこれとは運の無い事だが、一体何をさせられるのだろう。

 事実であったかどうかは別にしても、1つ格上のゴールド級の相手を複数撃破させられたのだ。できればもうちょっと楽そうな相手だったらいいな。


「プラチナ級の魔獣がお前んとこの近くの街を通るから、何とかしろ」

「死ぬ!!!!!!!!!」

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