不滅の勇者
確かにこの手で殺した。そのはずの相手が生きて自分の前に現れるなんて経験、したことはあるだろうか?
俺は……たった今している。
「ビスク!? 馬鹿な、たった今死んだはずじゃないのか!?」
あまりにも状況にピッタリだったせいで悪役の吐く定番台詞みたいな事も言ってしまった。
そんな俺の反応にビスクは口角を上げ、なにやら嬉しそうな顔をする。
「ふふふっ、残念だったな! 私は不滅の勇者、そう……私が「記録」を残したこれある限り、この勇者ビスクが死ぬ事は絶対にないのだっ!!」
自慢げに言いながら、ビスクは1冊の本を取り出した。ごく一般的な装丁の、ただの本のように見える。
だが、あれがある限りビスクを殺す事はできないという。
「ふん!」
「あっ貴様! またしても!!」
しっかりと見せびらかしてくるその本。俺はまたビスクに踏み込み、その本ごとこいつを切り裂いた。
どんな力のこもっている本か知らないが、これで勇者ビスクは今度こそ死ぬのだろうか。
そう思っていると再び彼女の体は光に包まれ始め、そしてニヤリと笑っていた。
「ククク、残念だったなザック君。その本を壊した所で、私の復活地点を1つ消しただけにすぎないんだよ」
「……? ……あ! まさか!?」
生き返る手段を断ったと思ったが、消滅していくビスクの言葉を聞いて俺はある可能性に思い当たり、その場に残された切り裂いた本の中身を確認する。
それは単なる日記帳で、特別な魔力だとか、復活の魔導書だとかそんな事は一切なかった。ただ、丸くて小っちゃい字でビスク自身の事を記録されているだけ。
……だが、それを見ただけで俺はなんとなく奴の復活能力の秘密に察しが付く。
自分の記録、つまり「セーブ」という事だろう。ゲームなどにおいて現在の状況を保存するために行われるアレ。
勇者と名乗るビスクのその行為は、自分自身の復活地点を増やしていく行いなんだろう。
自覚があるかは分からないけど、勇者なんて自称するだけの事はある。とにかく厄介な力を持ってるわけだな。
あいつの持っていた本は破壊したから、他の場所でも記録を残しているなら、どこか別の所に復活したんだろうが……。
「くっ、あいつのセーブっていくつまで用意してあるんだ……!?」
余裕全開で俺に見せてきたあたり、1個しかない訳はなさそうだ。……無限にあるんだったら、それこそビスクは『不滅の勇者』なんて呼ばれるに相応しいだろうな。
ともかく、またこの場所に留まっていてはいつビスクが戻って来るか分かったものじゃない。とにかくここを離れよう。
「カーナ、だっけ!? またあの勇者が来るかもしれない、急いでここから逃げよう!」
「っ、それは……」
ビスクの討伐対象であるカーナも放置はしていけない。彼女の手を握り、一緒に連れて行こうとしたのだが、なぜかカーナは立ち上がろうとしない。
「ここに残るつもりなのか? ……まあ俺には倒せたけど、勇者だとか名乗る奴がただ無限に生き返れるだけとも思えないし、一旦離れた方がいいよ!?」
「そうしたいのですが……わたくしは、少々……足が」
白杖と俺の手を支えに立ち上がろうとするカーナ。だが、彼女は急にバランスを崩し、フラッと俺の方へ倒れてきた。
咄嗟にそれを受け止める俺。
「……動かないの?」
「ええ。幼少の折りに、少々……」
懐かしむような、それでいてどこか痛々しいものを感じさせるような表情でカーナはそう言う。
俺に魔術をぶつけてきた時も起き上がらせてたのは膝から上だけだったな。あれはそういう理由があったのか。
ともかくそういう理由があるんじゃあ手を引かれただけでは逃げられないか。なら、こうするしかないな。
「あっ……」
困惑するような声を上げるカーナに構わず、俺は彼女を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこの形になる。
「勇者に狙われてるのは君の方なんだ。こんな所に置いていけないし、少し一緒に来てもらうからね!」
「っ……。はい……魔王様……」
「まおうさま……」
またあの魔力の球で抵抗されるかな、とか思っていたのだが、割とあっさり頷いてくれた。
俺を信用してくれたのか、単に我慢してるのかは分からないけど……。
そしてそれ以上に気になる呼ばれ方をしているが、そこはまあ後でいいだろう。なんとなくしっくりきてるし。
こうして俺とカーナは闘技場を出て、どこかビスクに見つかりにくそうな場所へと退散するのだった。




