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災厄との邂逅

 絶命の直前に大爆発をしたレヴィアタン。トルフェスを含め俺たちは全員無事であったが、戦場となった大型船は半分以上が吹き飛び沈んでしまった。

 拘束担当だった魔術師たちの船に俺たち5人は分散して乗り|(全員が1つの船に乗ったら定員オーバーになりそうだった)、青々とした海を見下ろす。


「……見てるか、みんな。お前らの仇は取ったぞ」


 今度こそ、完全に俺たちの勝利だ。巨大な影の見えなくなった海面を確認し、中断されてしまっていた感傷に再びひたる。

 ギルバー……前世での名前は金原葉介(かねはらようすけ)。あいつ、アクションゲームが好きだって言ってたな。

 ハミア、前世では草葉みあ。ギルバーとよく一緒にいたけど、やっぱりあいつの事が好きだったのかな。

 トラッド、虎谷徹(とらやとおる)。いつも一言余計なんだよな、最近はそれがトラッドらしさって感じに思えて来てた所だった。

 モルガン、森田神奈(もりたかんな)。歌が上手かったな。日本では歌手とか目指してたんだろうか。

 結局、俺はみんなの名前を知っているのに、俺自身は自分の名前さえみんなに教える事ができなかった。

 いつかは思い出せるよなとは思ってたが、もういつ思い出そうがこの4人には教える事もできなくなっちゃったんだな。前世での俺が、どんな趣味があったとか、そんな話も。

 ……みんなを殺したやつは俺が討伐した。それでももうあの4人とは会えないってのを実感してしまい、思わず涙ぐむ。

 そんな俺に同乗していたトルフェスがポンと肩を叩いてくる。


「気を緩めるのはまだ早いよザック君。レヴィアタンとの戦闘で、だいぶ沖の方へ流されてきてしまってるからね」

「……え、それってどういう」

「処刑島だよ。ほら、遠くに見えるだろう?」


 涙を拭う俺に、彼は水平線の先を指差した。

 そこには遥か遠方ではあるが、島が1つ顔を出している。

 女神様にも忠告された、銀の災厄の住まう場所。それがもう、目視できるほどの所に存在していたのだ。


「あの爆発はかなりの騒ぎだったからね、最悪の場合、銀の災厄を刺激しちゃって襲ってくるかもしれない。距離は十分離れているが何があれを激怒させるか分からないから、早く離れるのを優先しよう」


 トルフェスはどうやら銀の災厄が俺たちを殺しに来るかもしれない、と危惧しているようだ。

 確かにアレの逆鱗が何かなんて俺にも分からない。この間の夢では何も言わなかったが、以前女神様を怒らせた時のようにいきなりキレる可能性もある。


「そう、ですね。まずはトル・ラルカに帰ってからで」

「ザックゥゥッッ!!! 逃げろぉぉぉぉッ!!」


 相槌を返そうとした瞬間、リィンの絶叫が隣の船から飛んでくる。

 切羽詰まった様子のその声に、一体どうしたんだ、そう思った直後、俺は宙を舞っていた。

 続けて海の中に落ち、いきなりすぎる世界の変化に俺は目を見開く。目に海水がしみて痛いが、そんな事がどうだってよくなる光景を目の当たりにしてしまった。

 平穏が戻ったと思いきっていた海の中。そこにはあのレヴィアタンの姿があった。リィンが逃げろと叫んだのはこれの影を見たからか!

 完全に破壊されたと思ったレヴィアタンだったが、わずかな破片となってもまだ魔力吸収機構が健在だったのか。

 海中で再生し、俺たちが完全に油断しきるのを待って、まさかの再攻撃を仕掛けてきたんだな!

 奴は海中でUターンし、俺の方へ向かって真っすぐに突っ込んでくる。ヤバい、海の中じゃあんな速度の巨体を回避しようがない。

 せめて呼吸だけは確保すべく、俺は急ぎ海面へ顔を出した。当然、避けるような時間なんてなかったが。

 もしや俺もギルバーたちと同じ末路を辿るのか、そう考えた時、すぐ目の前でレヴィアタンは停止した。


「ッ、お前らぁ!! そのまま海上にもっかい引きずり出せぇッ!!」

「無理です団長! 5名が詠唱不可では、動きを止めるしかッ!!」

「チッ、急げ、他の船まで泳げッ!!」


 背後で響くトルフェスの怒声。俺たちが乗っていた船はどうやらレヴィアタンに破壊されたらしい。誰も死んではいない様子だが、このままではそれも怪しくなりそうだ。

 動きは止まったが、レヴィアタンを拘束する光の鞭は3本に減ったせいか、既に消えかけている。この巨体を縛り上げるには彼らだけでは不足なんだろう。

 俺も急ぎレヴィアタンの前方より離れようと泳ぐが、拘束魔法の限界が訪れる方が先だった。

 拘束の光が消え、海の怪物が再び動き出す。

 己の前にある全てを粉砕しようとするその進路には俺と、トルフェスと、5人の魔術師が。

 確実にその全員を砕き殺そうとするためか、レヴィアタンの半身が海上に現れ、速度を上昇させて迫り――。


「……!? 止まっ……!?」


 再びのレヴィアタン急停止。だが、魔術師たちの拘束が間に合ったわけではない。

 止まったのは、あの怪物の巨体の上に突如現れた、この場の全員が「絶対に遭遇したくない」と思っていた存在の登場のためだ。

 その姿を見て、俺は絶句するしかなかった。


「おいおい困るな、俺のお気に入りを殺そうとするなんて」


 よく知る姿、だが俺のまるで聞き覚えの無い男の声に、最初に抱いた感想は「死神」だった。

 流れるような黒い長髪に、赤いカチューシャ。それから全身を足元まで覆うロングコートで身を包むそいつは、手に蒼い三日月を思わせるような色をした大鎌を携えていた。

 夢の中で度々出会っていたあの女神様とよく似た、同一なのではないかと思えるほどに酷似した姿。

 彼女と違うのは、せいぜい性別くらいだろうか。


「……!!」


 銀の災厄だ。俺はその姿を知らなかったが、俺以外の全員もこの男の登場から一言も発せなくなっているのがこいつこそが災厄だと証明しているようなもの。


「見てるだけのつもりだったが、その男に手を出そうとされたら黙ってられねえよ。悪いが、お前はここで『喰らう』」


 出現だけでその場を支配してしまった銀の災厄は、そう言うと右足が溶け始める。

 ドロドロに溶けていく足は、まるで人間の外見が嘘であるかのように銀色の金属、それこそ水銀のようになっていく。


『――――――!!!』


 その段階になってようやくレヴィアタンは自分が攻撃されていると理解したのか、災厄を振り払おうとする。

 が、もはやこの時点で勝敗が決していたかのように、レヴィアタンの体表は見る間に災厄の水銀と同じ色に染まっていく。

 全身の半分ほどが変色した辺りでレヴィアタンは動かなくなり、その全てが銀色になると巨体は溶けた銀の災厄の足に取り込まれるように消えていく。

 僅かな時間で、レヴィアタンは俺たちの前から完全に消失した。そして何事もなかったかのように元通りの人間の足になった銀の災厄は、涼しい顔で海の上に立っていた。


「……へえ、水を魔力に換えて好きに操れるのか。いい物貰ったな」


 何事かを呟きながら、災厄は俺たちの前に立っている。レヴィアタンという脅威は消えたが、それ以上に恐るべきものが、依然俺たちの前に立ちはだかる。

 この男が災厄と呼ばれる理由の一端を目にしながら、しかし俺は動かずにはいられない。


「おい、お前」

「ん? 何だよザ……、いや、知らねえ冒険者」


 海に漂いながら、俺は銀の魔剣を抜き、銀の災厄へ切っ先を向ける。

 その行動に、背後で悲鳴のような声が上がった。


「バッ、何やってるんだよザック君!!? 殺されるぞ!!」


 トルフェスの声だ。だが、俺はそれを無視してでも、この男に聞かなくてはならない事があるのを思い出した。

 ……そう、思い出した。見覚えがあるのも当然だ。声も聞いた事がないと思ったが、確かに俺は聞いているのだ。

 こいつの声と顔で、俺は、思い出した。


「お前、前世で俺と会ってるだろ」

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