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大金を手に入れてしまった

「おお……! これはみな最近この近辺を荒らしまわっていたというゴールド級の元冒険者集団ですよ!」

「は、はあ……そうだったんですか……」


 死体もそのままにしておくわけにはいかず、とりあえず俺は冒険者ギルドまで孤児院でおきた盗賊との戦闘を報告しに来た。

 回収した盗賊たちの死体から身元が判明し、俺は今ギルドの受付の人にこいつらを倒した功績を称えられている所だ。


「指名手配もされてまして、討伐の依頼もいくつか来ていたのですが、そちらを受けての討伐だったのですか!?」

「え? いや、うちの孤児院の近くで遭遇して、襲われたから返り討ちにしただけで、依頼とかは……」

「そうですか。……となると依頼の報酬はお渡しできませんね。手配書の懸賞金だけになります」

「そうなりますよねー。……? え、懸賞金?」


 完全にタダ働きになると思い込んでいたので聞き流してしまったが、報酬があるらしい。

 受付の人はいったん奥へと引っ込み、戻ってきた時には大きな麻袋を片手に持っていた。


「はい、ではこちらが懸賞金になります! 凶悪犯の退治にご協力、ありがとうございました!」


 ドン、と重厚な音を響かせる袋の中には、ギチギチに銀貨が詰め込まれていた。


「ッ!? あ、あの、これ、ほんとにですか?」

「はい、1人につき銀貨100枚の賞金が懸けられてましたので、銀貨800枚、確かに入っております!」

「ええぇ……!?」


 800枚の銀貨を渡され、思わず俺は変な声が出る。

 あんなに簡単に倒せた相手だったのに、本当にこんなにお金をもらってもいいのだろうか?

 何かの冗談なのかと思って受付の人の顔色を窺ってみるが、特にそんなふうにも見えない。

 恐る恐る銀貨の袋に手を伸ばしてみるが途中で奪い返されたりするでもなく、そのまま俺は渡されたお金を両手でしっかりと抱えた。


「えー……? ほんとにこれ、えー……??」


 未だに現実感がなく、受付カウンターから離れながら俺は何度も小さな声で呟きながら銀貨へ視線を落とし、ギルドを後にしようとする。

 とそんな俺の耳に、ギルド内にいた他の冒険者たちの囁き声が聞こえた。


「おい、あいつ……」

「知ってる、『黄金の旗』を追い出されたヤツだろ?」

「ゴールド級の奴らを8人、単独で倒したってマジかよ……」

「いや、何かトラップくらいは用意してたんじゃないか? ゴールド級って、そこそこのクラスのやつらだろ?」

「どうだかな……。なにせあいつ、シルバー級だって言ってたらしいぜ」

「ッ!!」


 話題になっているのが俺であると知り、思わずビクリと震えた。

 それ以上彼らの話を聞かないようにして、そのまま大急ぎでギルドから出て行く。

 ギルドから離れ、誰も通行人が俺の方を見ていないのを確認すると、そこでようやく一息ついた。


「ふーっ……。まったく、人の陰口叩きたいなら俺がいない所でやってくれよな」


 俺がいなくなった後にどんな会話があったのか知らないが、きっとあの流れなら俺の実力を疑うような話が延々とされているに違いない。

 シルバー級の雑魚がゴールドの連中に敵う訳がないとか、本当に倒したのは俺じゃないとか、誰かに手伝って貰っただとか。そんな話。……まあ最後のは別に間違っていない気もするが。

 それはともかく、盗賊を倒した報告もしたのだしこんな場所にこれ以上いる必要もない。大金を手にしているのだし、変な連中に目をつけられない内に孤児院へ帰ろう。


「んー? おっ、ザックじゃないか! 何してるんだよ~こんなとこで!」


 とか言ってるそばから目をつけられてしまった。声の主は俺を見付けるのと同時にがっちり肩を組んできた。


「り、リィンさん」

「堅っ苦しいなあ、あたしの事はリィンでいいって言ってるだろ?」


 明らかに逃がさないように俺を捕まえたのは、リィンという女性だ。

 赤い短めの髪に褐色肌の彼女は冒険者で、俺の先輩でもある。

 冒険者になると決めた時に俺やギルバーたちは彼女から手ほどきを受け、色々とこの稼業の事について学んでいた。

 そして拳で敵を粉砕する格闘家スタイルの彼女は男勝りというかなんというか、性別を気にせず俺との距離感が滅茶苦茶近いのだ。

 そんなリィンはいつものように俺へ密着してくる。筋肉質な体が思いっきり触れ合ってくるので、とにかく落ち着かない。


「あ、あの。ちょっと離れません?」

「冷たいこと言うなって~。お前の仲間はみんないなくなったし、寂しいんだよ~」


 パーティ『黄金の旗』を結成したギルバーたちは早速色んな依頼をこなして名を上げ始めたらしく、この街に留まっている期間はごく短い。

 俺抜きで様々な冒険を始めたギルバーたちが嬉しいような悔しいような、ちょっと複雑な気持ちだ。


「……っつーかどうしたんだよこんなカネ。ザック1人で稼いだのか?」

「え、と……その、盗賊を倒しまして、その賞金らしいです」

「へー、やるもんだな! お前だけ町に残るって聞いた時はどうしたのか心配してたけど、ちゃんと活躍してんだなあ!」


 俺が盗賊を倒したことをリィンは自分の事のように喜んでくれ、思いっきり頬をくっつけてきた。

 彼女の体温が直に伝わってきて、そのまま俺の体温が滅茶苦茶に上がっているのも伝わりそうで怖い。なんでこんなに距離感おかしいのさこの人!


「おし! じゃあ飲みに行くか! ザックのカネで!」

「い、嫌ですよ! このお金はシスターに渡すので!」

「え~、いい店知ってるんだけどな」


 顔をようやく話してくれたので、そのまま彼女の腕を振りほどいて距離を取る。

 俺が拒否するとリィンは残念そうな顔をしてはいるが特にそれ以上追っては来ず、ギルドの方へ歩いて行った。


「仕方ねーな。んじゃ、また今度一仕事終わったらメシでもいこーぜ」


 男友達かなんかみたいなノリで手を振るリィンが離れていくのに合わせて、俺のいつの間にか真っ赤になっていた顔は少しずつ温度を下げていった。

 悪い人ではないはずなのだが、別の意味で心臓に悪い人だ。

 ともかくなんとか窮地(?)も乗り切れたので、俺は今度こそ孤児院へと一直線に帰るのだった。

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