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海洋を統べる破壊者

 トルフェスたちの協力が決まってからの動きは速かった。

 俺とシックスはすぐに街に戻ってリィンとヴェナに合流。レヴィアタンと戦えるようになった事を説明して討伐のための準備をした。

 と言っても、そのほとんどは道中での食糧なんだけど。俺たちがみんな接近戦しか挑めないのは変わってないから備えられるのはそこくらいだった。

 せめて防具は新しくしようかとも思ったが、団長の話を思い出せばあまり重装備になっても的にされそうだし、今のままで行くことにした。

 そんなこんなで2週間後にトル・ラルカへまたやってきた俺たち4人は町の港で『ローゼン・レオ』の面々と再会した。


「来たな、ザック。1か月ぶりくらいかな?」

「はい、お久しぶりです」

「君の要望通り、ちゃんと仲間を集めてきたよ!」


 連合団の団長であるトルフェスが俺たちを迎えてくれた。彼の後方には20人ほどの魔術師が揃っている。

 いずれも精鋭、という雰囲気を纏っていて、おそらく以前彼らが挑んだ討伐の際も参加していたメンバーなんじゃないだろうかと思う。


「……見た所、全員ダイヤモンド級ってとこかね。オリジナルランクだっつっても、よく揃えられたもんだ」

「報酬が満額こっちに回してくれるって言われたからね。ウチも手は抜けないし、前より3人は多く集めたよ」


 過去の戦いよりも多く集まったというのを聞き、俺もトルフェスの本気度を知る。

 ギルバーたちの敵討ち、そのために全霊で応えてくれようとしているのだろう。

 まあ、実際は俺の出した依頼が「レヴィアタンの討伐」を目的としたものだからという可能性も高いけど。もし撃破に失敗すればタダ働きになるのは彼らも同じなので、気合を入れているのはそっちが理由かもな。

 そんな団長は俺の方に視線を向けた。


「もう1回確認するけど、本当にこっち側で討伐報酬、ぜーんぶ貰っちゃっていいんだよね? こっちの人選もそのつもりだったから、後で何言っても聞かないよ?」

「分かってます。俺たちはただ、友達の仇さえ討てればそれで大丈夫です」


 報酬の話も事前に3人には伝えている。ギルバーたちのためならと全員納得してくれていた。

 ……俺はその、この1月近いほどの準備期間に少し、ほんとに少しだけ、1割とまでは言わずとも5パーセントくらいはもらえないかな……って思った時がないわけではないが、まあ、思っただけだ。別に本気で考えたりはしていない。ホントに。


「じゃあ行こうか。君たちはそこのデカい船に乗ってくれ」


 俺たちの決意を確かめたかのようにトルフェスはそう言い、魔術師たちと共にそれぞれの船に搭乗していった。

 船の手配も彼らがやってくれた。報酬の総取りということでその辺りはやってくれたのだ。

 全部で5隻。その内4隻はかなり小さく、小型のボートって感じのサイズ。

 そして俺たちが乗るのは残りの1隻。それらと比べても非常に大きく、甲板が非常に広く横幅の凄まじい船となっている。

 ここが戦場となるわけだな。小型船に乗る魔術師たちがレヴィアタンを海から引きずり出し、俺たち『銀の孤児院』が叩く。

 リィンたち3人と顔を見合わせて頷き合い、その大型船へと乗り込んでいく。




「実を言うとレヴィアタンの航行ルートは判明してないんだ。高速で泳ぐから追いかける事も不可能だし、先回りしようものなら攻撃対象にされかねないからね」

『……なんでこの人もいるの?』


 大型船に乗ったのは俺たちだけではなく、なぜかトルフェスも同乗していた。

 連合団は戦う必要はないと言ったはずだが、うまく伝わらなかったのだろうか。


「ヴェナたちだけじゃ不安なの?」

「そうじゃなくてね、俺は俺でリベンジがしたいってだけさ」

「それはいいんですけど……どこを通るか分からないならレヴィアタンと遭遇するのは難しいんじゃないですか?」


 既に出航してしまったのに討伐対象がどこを通るか不明だという。

 それじゃあまさかこのまま当てもなくこの広い海を漂い続けるとか言い出すのか?

 どこまでも続く水平線を見ながら俺が戦慄しかけていると、トルフェスは手を振って否定してきた。


「ごめんごめん、そうじゃなくて予測が難しいってだけの話だよ。回避が困難なだけで……標的を用意してやれば向こうから来てくれる」

「標的?」


 団長の言葉に首を傾げる。と、同時にシックスが俺の腕にガッと掴まってきた。


「わっ! ……あの、シックス? 今日は真面目に戦わないと危ないかもだから、そういうのは」

『……そうじゃないの。ザック……私、怖いの』


 シックスは恐怖を訴えながら抱きついてきている。よく見れば、彼女の体は震えていた。


『ここまで来て分かったけど、私、あいつの事知ってる……!』

「あいつ? って、誰の」


 何者かに怯えるシックスに聞いた時、水を切り裂くような音が響いていくる。

 顔を上げればそれは、水平線の向こう側から激しく水柱を立ち上がらせながら海を泳ぐものだった。

 確認するまでもない。こちらへ真っすぐと向かってくるあの巨影は、レヴィアタンだ。


「標的って言っただろ? レヴィアタンにとってのそれは、「巨大な船舶」なのさ!」

「じゃあこの船が戦場兼囮ってわけだね!! 戦るぜザック!!」


 リィンは臨戦態勢になり、トルフェスは周囲の船に乗る魔術師たちに号令をかけて拘束魔法の準備を始めさせた。

 そして、震えるシックスが敵の名を叫ぶ。


『あいつ……私と同じ、実験生物……!!』


 音速で迫る影。それへ魔術師たちの魔力が凝縮された光の鞭のようなものが伸び、4つの光が突進を留める。


「引き上げろ!!!」


 トルフェスの合図で光の鞭は動き出し、海中に姿を潜めていたレヴィアタンは吊り上げられた魚のように宙を舞い、俺たちの待機している甲板へ叩きつけられる。

 巨大な船が一瞬傾くが、沈むところまではいかずに船首側が持ち上がり、シーソーのように激しい揺れがしばらく続く。

 いくつもの大型船を沈め、そしてギルバーたちの命さえ奪った海の怪物、レヴィアタン。

 大雨のような水飛沫と共に現れたその姿は、巨大なエイが、2本の足で直立しているかのような威容をしていた。

 なだらかな山のような頭部、そこから地続きに翼のような両腕が伸びており、まるでステルス戦闘機みたいにも見える。

 そして顔は頭部の先ではなく、それより下方向に格納されるような位置に存在していた。

 青白く輝くその両目。それが金属製の顔面に2つ覗いていて、……いや、こいつの全身は、そもそも金属でできていた。

 それを理解した俺は、なぜシックスが怯えていたのかも分かる。

 このレヴィアタンは、シックスを作った博士の作品の1つ。実験生物研究所から逃げだした実験生物の1体。

 巨大船の破壊者、実験生物9号だ。

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