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決戦前夜、魔剣は黙したまま

 トルフェスの連合団への協力を取り付けた俺はシックスと一緒にトル・ラルカの宿で一泊した。

 するとその晩、女神様は夢の中に出て来てくれた。


「へえ、あいつと戦うのか」


 レヴィアタンの討伐を決めた俺に、女神様は意外そうな声を上げていた。

 勇者さえ撃破の敵わなかった強者。それと戦う事を俺が選ぶのを想像もしていなかったのだろうか。


「止めないでくださいよ、ギルバーたちの仇は絶対に取りたいんです」


 ランクだけで言えば俺の方が上のシルバー級だ。しかし彼女の言葉から察するにそんな俺でも一歩間違えば命を落とす相手であるかもしれない。

 だからこそ忠告も兼ねて彼女は現れた……と思っていたが、女神様は手を振って否定する。


「そっちじゃねえよ。なんだっけか……あの、団長の方だよ」

「? トルフェスの事ですか?」

「あーそうそう、そんな名前だったんだな」


 倒そうとしていた敵ではなく、共闘する連合団の団長の方が気になっていたようだ。……その割には名前すらちゃんと覚えてないみたいだけど。

 まあ黒い噂のある人間だし、しかも1回勧誘を断った相手なんだから、そんなのにあんなお願いするとは思ってなかったんだろうな。


「信用ならない相手ですけど……俺たちに欠けてる力を貸してくれる人ですし、悪い話については目を瞑ります」

「悪い話? 何言ってんだよザック、あれはそんな警戒するようなやつじゃねえよ。信じていいぜ」

「え……?」


 今度は俺が意外な声を上げることになった。

 トルフェスは過去に女の子を殺すような人間だという。しかも本人だってそれを認めていたのだ。信頼できるとは到底思えないんだけど。

 とはいえ自称・全知全能なのだから根拠なくそんな事を言いはしないだろうけど、にしてもなんで言いきれてしまうのだろうか。


「……もしかして、知り合いですかあの人?」

「へっ、まあな。……でっかい男だよあいつは」


 何らかの関係があるのかと思い聞いたが、ビンゴだったようだ。どういう仲だったかまでは言わないが、女神様は腕組みをして昔を懐かしむように瞳を閉じている。

 実際連合団なんて大きな組織のトップなわけだし、器のデカさについては論じるまでもないか。


「でも女の子を殺したのは事実みたいですよ。トルフェス自身もやったって言ってましたし」


 しかしいくら器の大きい男であっても、少女を殺したという罪は消えないのではないだろうか。

 彼は怒っていた時の行いとは言っていたが、果たしてそれは擁護できるものなのだろうか。俺はその部分がどうしても引っ掛かり、聞いてみた。


「……あー、それは多分俺の事だな。気にしなくていいぞ」

「…………はい?」


 そして返ってきた言葉のあまりの意味のわからなさに、俺はアホみたいな声と共に首を傾げてしまった。


「え……でも女神様、生きてます……よね?」

「ま、俺は死ねないからな。何されようがすぐに生き返るんだよ。……試してみるか?」


 自慢するかのようにそう言うと、女神様は自身の羽織るコートの襟を下にずらして綺麗な首元を強調してくる。


「やるわけないじゃないですか!」

「えー、なんだよ勇気無いな」


 勇気とかではないと思う。本当に不死身かどうか確認するためにそんな事するやついないだろ。

 やっぱり死なない上に神様というだけあってその辺の倫理観も人とはズレてしまっているのかもしれない。


「とにかく、トルフェスを信用していいのは分かりました。……でもあと1つ、女神様に聞きたい事があります」


 そう前置きして、俺は女神様と会えたら聞こうと思っていたことを聞く。

 それはレヴィアタンを討つため、できることなら解決しておきたい問題でもあった。


「この魔剣の使い方、教えてください」


 俺の腰に提げられている魔剣、銀の鞘から引き抜き、同じく銀の刃を持つ魔剣を女神様へと見せる。

 トルフェスが言うにはこの魔剣は非常に格の高いものであるらしい。きっと、力の解放方法さえ知れば海に潜む怪物さえ容易に倒す事ができるはずだ。

 彼女の授けてくれたものであれば、使い方もきっと教えてくれる。そう考えての発言だったが。


「駄目だ。そいつから聞け」


 魔剣へ視線を向けながらそう却下されてしまった。

 本来は喋るはずのこの剣、これを扱う資格のあるはずの俺だが、未だその声を1度たりとも聞いた事は無い。

 だからこそ女神様に正解を教えて欲しかったのだが、それは叶わないようだ。


「そいつも言ってるんだが、答えには自分で辿り着いてほしいとさ。お前の努力も認めてるって言ってるぞ」

「そうですか……まあ聞こえないんですけど、分かりました」

「ああ。ちゃんとその時には役に立つって言ってるから、ザックも早く復讐するべき相手を思い出せよ?」


 どうやら、女神様が言うには魔剣の方も力を使わせてくれる気持ち自体はあるらしい。

 そのための鍵、俺が復讐を遂げるべき相手を思い出す必要があるみたいだが、そっちも頑張らないとだな。

 ……まあどうすればそんなの思い出せるか見当はつかないんだけど。


「ってことはレヴィアタンには真っ向勝負で挑むしかないのか」


 連合団の協力を得るため、団長の言葉にはとりあえず肯定を返しちゃったんだけど、正直言って勝てるかどうかは分からないんだよな。

 凄まじい回復能力を持つ相手のようだし、果たしてこの魔剣で俺は対抗できるだろうか。


「……女神様、俺は勝てると思います?」

「さあな。不死じゃあないみてえだから、殺せはするだろうな」


 彼女の予想は曖昧なものだった。シスターと直接は関係ないからあまり興味がないのかもしれない。

 でも、その言葉を聞けただけでも十分だ。

 だって、俺が死ぬかもしれないだなんて女神様は言わなかったのだから。


「……レヴィアタンを倒して、シスターに笑顔を取り戻してみせます」

「ああ。しくじるなよ、ザック」

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