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トル・ラルカへ

「……というわけで、俺は友達の仇を討ちたいんです」


 冒険者連合団団長、トルフェスのいる町へと俺は朝になると同時に出発した。

 デモンソルジャーの苗床のあった山の向こうにあるその町、トル・ラルカへは10日ほどの道程だった。

 それなりの長旅になるのは分かっていたので、リィンとヴェナには孤児院に留守番してもらうことにした。

 道中にあった脅威も俺が前に排除したおかげで魔物とも遭遇しなかったし、そもそも話し合いに行くだけだから何人も連れてく必要はないもんな。シックスだけは置いてくのが不安なので一緒に連れて来たけど。

 辿り着いた町は、俺の住んでる街以上の活気があり、かなり冒険者の数が多かった。

 来る前にリィンから聞いた話だと、ここトル・ラルカは十数年前にはこれほどの活気はなかったそうだ。

 銀の災厄の大暴れで住む場所をなくした人たちが集った町で、どちらかと言えば陰鬱な感じだったらしい。

 そこにトルフェスがやってきて、持ち前のコミュ力と強力な魔剣の力で冒険者の仲間を増やしながら近隣の凶悪な魔物を次々に狩っていき、平和をもたらしながら町を広げていったという。

 その過程で連合団『ローゼン・レオ』の設立を宣言し、やがてどんな依頼でも確実にこなせるほどの人材が町に集まるようになっていったという。

 まあそうは言っても銀の災厄までは倒せないんだろうけど。ともかくそんなわけでトル・ラルカは特に冒険者が多く、彼らのための宿や飲食店が多い町だった。

 冒険者が多いという事はそのギルドもまた大きく、トル・ラルカの冒険者ギルドは巨大なドーム型の建物になっていた。邪魔なテーブルとか全部撤去したら野球もやれそうな広さがある。

 俺の知っていたギルドとは比べ物にならないほどの規模に内心落ち着かなかったが、そんな感情は表には出さないようにしつつ団長を探した。

 ギルド内の一際豪奢な、彼専用っぽいテーブルで仲間と歓談していたトルフェスを見付けた俺は、ギルバーたちが殺された事を話す。

 静かに俺の言葉を聞いていた団長は、俺が説明を終えるとにんまりと笑った。


「なるほど。レヴィアタンを破壊するために俺たちと協力したいってわけね」

「レヴィアタン?」

「うん。けっこう前から大型船がコイツに壊されまくっててね」


 そう言いながら、トルフェスは仲間の方に手を挙げる。するとそこにスッと1枚の依頼書が渡され、テーブルに広げたそれを俺たちに見せてくれる。

 討伐対象として描かれていたのは巨大なエイのようなものだ。襲われ、わずかに生還した人から聞き出した敵の姿だという。

 彼が言う通り、海を渡ろうとする船、それも大きなものが襲われて甚大な被害を出している事が書かれていた。

 海中を高速で移動するその怪物に付けられた名はレヴィアタン。銀の災厄と比べられるほどではないが、討伐すれば莫大な報酬が約束されている。


『ランクは……あ、オリジナルってやつよねこれ。アクアマリン・ルーラーだって』

「海の支配者って事かな」

「こんなやつ放っておくわけにはいかないからね。俺の連合団でもかなりの数を動員して挑んだことはあったけど、倒せなかったよ」


 多数の人材を揃える彼らでも討伐は敵わなかったのか。オリジナルランクの敵なだけあるって事だろうな。


「それって……海の中にいたからですか? 有効な攻撃が一切できなかった、とか」

「そこはウチの方でも対策して戦ったよ。優秀な魔術師を集めて、魔法で海から甲板に引きずり出して、とりあえずの地上戦に持ち込んだ」


 敗戦の過去を語る団長の言葉に、俺は内心でガッツポーズした。

 レヴィアタンを俺たちの土俵に押し込めるような人材がいると教えてくれたようなものだからだ。少なくとも、この後の交渉が空振りに終わる心配をしなくてよくなった。


『でも負けちゃったんだ』

「デカい船を沈めるような敵だからね。頑丈なのは想像ついてたから、俺の魔剣とか、守りを無視して攻められるような連中で一斉に攻撃しまくったんだけど、ガンガン傷が再生していくんだよあいつ! しかも魔法まで使えるのか水の刃を飛ばしてきて、先に足場の限界が来てまた海に逃げられちゃったんだよ」


 陸に上げても無力にはならないレヴィアタン。間違いない強敵だが、その時俺は別の事にも気をとられてしまう。


「トルフェスさん、魔剣の力ってどう使ってるんです?」


 彼の腰に提げられたレイピア。それは敵を削り取る力を有する魔剣だという。

 どうやってその力を使っているのか、それが気になった俺は思わず聞いてしまった。

 俺が持っているのも魔剣だが、今の所その力の使い方が分かっておらず、ただの剣としてしか使えていないからだ。もしかしたらこの魔剣の力の使い方を覚えれば、レヴィアタンを倒すのに大きな力になってくれるかもしれないと思っての質問だ。

 が、トルフェスは不思議そうな顔をしただけだった。


「使うも何も、ただ振れば勝手に効果出るけど?」

「え!? そ、そうなんですか……!?」


 未だに何の力も発揮してくれないこの復讐の魔剣。正しい使い方があるのではないかと思ったが、団長の反応を見ると効果は勝手に出てくれるみたいだな。

 という事はやっぱり俺が復讐するべき相手を想いだしたりしなくてはいつまでもこの魔剣はただの銀色の剣という事なのか……?

 ガッカリする俺の顔を見て、トルフェスは何か合点がいったような表情になった。


「お、もしかして君のそれも魔剣だったり?」

「はは……そうなんですけど、どうも俺には真の力みたいなのが使えないもので」

「そりゃ勿体ないね。なんて名前の剣か聞いてもいい?」

「え、名前? ……そう言えば、知らないな」


 腰の魔剣を見て俺は気付く。女神様に貰ったこの剣、復讐の魔剣とは聞いてるけど名称自体は知らない。


「原因はそこかもね。俺の魔剣はあんま高い格じゃないから振る度に力を発揮してくれるけど、上級の魔剣はその銘事体が力を発動させる鍵だったりするって聞いた事あるからさ」

「そっか、真名を知る必要があるのか」


 女神様がどこかで拾ってきたこの魔剣。神が目を付けただけあって魔剣としての格も上であるらしい。

 つまり俺がこの魔剣の秘められた力を使うためには、これがなんという銘であるかを知る必要があるわけか。

 この魔剣は喋るらしいから、直接教えてくれたら話は速いんだけど、その声聞こえないしな……。女神様に聞くしかないかな。今夜にでも夢に出て来てくれないかな。


「……話がずれちゃいましたね。とにかく俺はこのレヴィアタンを倒したいんです」

「ということは、ウチの連合団に入るって決心してくれた、って事だね?」


 話を戻して俺がそう言うと、トルフェスは嬉しそうな顔になった。

 シルバー級の俺が彼の仲間になる。それは団長であるトルフェスにもメリットが多いからこその反応なのだろう。

 でも、俺はその期待を裏切るように首を横に振る。


「……いえ、連合団には入りません」

「……じゃあ、『ローゼン・レオ』には入らないけどウチの戦力だけは貸せって言いたい、と」

「それはまたあなた方に都合のいい話ですわね」

「シルバー級だからって、そんな横暴通せると思ってんのかよ!!」


 流石に黙ってはいられなかったのか、トルフェスの周囲で静かに見守っていた『ローゼン・レオ』の団員たちが剣呑な雰囲気を帯びる。

 しかしそれをすぐにトルフェスが制止させた。視線にこもった不満までは隠さないが、それで団員たちはおとなしくなった。


「本当にそんなわがままを言いたいなら俺も怒る……いや、1回は許すよ。と言っても聞かなかった事にするだけで従いはしないけど、ザックくんの真意は何なのか教えてもらってもいいかな?」


 トルフェス、そしてその仲間たちの視線が俺に集中する。

 まあ怖いが、これ自体は想定していた流れだ。俺も、隣に座すシックスも慌てたりはしていない。


「俺たち『銀の孤児院』は、『ローゼン・レオ』には加入しない。……でも、俺から『ローゼン・レオ』に依頼をします」

「……。どんな依頼かな」


 連合団には参加せず、彼らの力を借りる方法。事前に考えていたそれを、促されるままに言葉にする。


「『銀の孤児院』によるレヴィアタンの討伐。そのサポートとしてレヴィアタンを海上に引きずり出してほしい、そういう依頼です」


 確かギルドでは不足した役職のメンバーを募集するような依頼が張られている事があったはずだ。

 掲示板にあるようなそういった依頼は、オンラインゲームなどで言う野良の募集のようなもの。参加してきた人員が使い物になるかは難しい。

 だが、俺は連合団という巨大なクランへ直接その募集をかけた。確実に成果を出した者を貸してほしい、そういう「ご指名の依頼」だ。

 ……というていで協力を仰げば、連合団へ入らず彼らの力を借りられるんじゃないか。それが俺の思いついた方法だったのだが、どうだ!?

 若干祈るような気持ちを込めながらトルフェスを見る。


「へえ。……ちなみに、その依頼の報酬はいくらなのかな」

「レヴィアタン討伐依頼に懸けられている、そのままの額です」

「!!」


 それを聞き、『ローゼン・レオ』の団員はどよめく。

 まあ、そうだよな。つまり俺たち『銀の孤児院』はタダ働きという事になる。オリジナルランクの敵相手となれば死の危険性は高いだろうに、その対価として得られたはずの金を全て差し出すと言ったのと同じなんだから。


「戦うのはそっち、しかも取り分は全部俺たちにってわけ? ウチは得するけど……随分とそっちは割に合わないんじゃない?」

「理由付けたって、俺がわがまま言ってるのは変わりません。だから、その迷惑料とでも思ってください」


 ギルバーたちの無念を晴らす。そのために彼らができるだけ有利な条件にした。これがダメだったら、おとなしく連合団に入るしかない。

 目を閉じ思案するトルフェスの下す決断はどうなるか、俺は彼の口が開かれる瞬間をじっと待つ。


「……そこまでして仇討ちがしたいなら、乗ってもいい。けど、勝算はあるんだよな?」


 団長という立場である以上、無為に仲間を死なせるような事はしたくないのだろう。

 レヴィアタンを倒せる力が本当にあるのか、これはその確認の問いだ。

 もちろん、俺の答えは1つだ。


「任せてください、俺はS級冒険者ですから!」


 こうして、トルフェスは俺たちに力を貸してくれることになった。

 レヴィアタン、絶対に倒してやるからな。

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