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女神は見ている

 時間は間も無く正午。夢の中の女神が言うには、もうすぐ盗賊たちがやってくる時刻だ。

 敵は全てゴールド級。冒険者ギルドでの指標ではギルバーたちと同じ強さで、俺よりも格が上の相手ということになる。

 本来であれば勝ち目など無い相手だが、俺はシスターの言葉にヒントを得た。

 確証などないが、仮に予想が間違っていたとしても俺は戦うしかないのだ。シスターも、リュオンとローレナにも、この孤児院しか居場所はないのだから。

 外に出て、盗賊が潜んでいそうな場所の前で待ち構える。

 ちなみに、今の俺は武器を何も持っていない。だが、それもとあることに期待を寄せての選択だ。


「シスターの言う通りなら、そしてシスターを守りたいなら……見てるんだろ、女神様」


 俺は天を見上げ、何かを掴もうとするように手を伸ばす。そして、快晴の空へと女神に向けて願う。


「俺に……敵を打ち倒す力をくれ!!!」


 あの女神はきっと、俺の事も見ているのだろう。どんないきさつがあったのかは知らないが、シスターの事は絶対に見ているはずだ。

 そうなれば俺に戦う力が無いと見れば確実に何か渡してくれるに違いない。

 だいたい俺がシルバー級で、これから襲ってくる敵よりも弱いのはあの女神だって知っているだろう。それが、何も援助を寄越さないでいるはずがないのだ。


「……。……」

「なんだお前、何に手ぇ伸ばしてんだ?」

「そこの家に住んでる奴か? おい、殺されたくなきゃ金目のモンは全部出しな」


 女神から何かしらの力を授かるのを期待していた俺の元には、何も降って来なかった。ていうか盗賊が来た。

 俺の奇怪な行動に不信感を覚えたのか、既に8人全員が獲物の短剣を抜いて臨戦態勢だ。盗賊たちは囲むようにして俺へ刃を向けてきている。


「はは……あの、囲まれちゃうとお金とか出しにいけないと思うんですけど……」

「他に誰かいないか確かめてからだ。少しでも変な行動してみろ、まず家の中の奴からぶっ殺す」

「っ!」

「変な気は起こすなよー? 俺達は元々ゴールド級の冒険者だったんだ、勝ち目なんてないからなー?」

「……知ってるよ、俺だってシルバー級だったせいでパーティに入れてもらえなかったんだから」

「……ハッ、度胸あるもんだぜ。こんな状況でそんな軽口が叩けんだからな」


 すぐに俺を殺す気はないようだ。丸腰だったおかげだろうか、助かった。……だが、このままだとシスターたちに危険が及ぶ可能性が高い。

 元冒険者という事だがあまり品のある人間には見えないし、このままではシスターに何をされるか分かったものではない。

 どうにかしてこいつらを止めたい。っていうか本当に何も援護する気無いのか? 女神はただこれを黙って見てるの?

 と、そんな事を考えている時、俺のすぐ目の前で爆発が起きた。

 爆発というか、空から何かが降ってきて、着地した何かがその衝撃で豪快に土煙を巻き上げたのだ。


「ぐあっ! てめぇ、何しやがった!?」


 突然の事に盗賊たちも驚いている。土が目に入って一時的に視界を奪われでもしたのか、目を押さえながら呻いている。


「ッ! これは……!」


 そんな中俺は飛び込んできたものの正体を見て驚く。

 そこには剣があった。思わずうっとりとしてしまうような美しい銀色の鞘に収まった、同じく銀色の柄の剣。

 まるで、シルバー級の俺にはこれがお似合いだと言わんばかりの銀の剣だ。


「遅いよ!! ……けど助かった!!」


 こんなものがいきなり空から落ちてくる偶然などない。かなりタイムラグがあるが、俺の言葉を女神が聞き届けたのだろう。

 素早く鞘を掴み取り、柄を握って刀身を露わにしていく。その鞘に収まっているに相応しい銀色の刃が陽の光を受けてきらめく。


「!? てめえ、殺る気か!!」

「うおおおおおおおッ!!」


 俺が剣を手にしたと音で気付いたのか、盗賊の1人が視界も戻っていないままなのに襲ってくる。

 だがもう恐れる必要はない。女神が渡してくれた剣なのだ。きっと何かものすごい力が秘められていると俺は感じ取り、気合の咆哮と共に剣を振り抜いた。


「……あれ」


 が、何も起きない。普通に空中を斬っただけで、特に光波みたいなものが飛んだり、自動的に敵を攻撃してくれたりもしない。

 ……どうやら、本当にこれはただの剣らしい。


「……声だけかよ! 死ね馬鹿!」

「おわっ!?」


 一瞬、俺の叫びに盗賊は動きを止めたが、何も起きなかったと気付くと真っすぐ俺の胸に短剣を突きこんできた。声で完全に位置を把握されたのかもしれない。

 危うい所で攻撃をかわすと、俺はすれ違いざまに盗賊の背中を斬り付ける。

 剣自体の切れ味は凄まじいのか、盗賊の纏っていた皮鎧ごと簡単に切り裂き、派手に血が撒き散らされる。


「が、っ……」


 襲って来た盗賊はそのまま倒れ、動かなくなった。


「え……。マジで? ゴールド級の相手を倒せちゃった」


 この銀の剣は相当切れ味がいいのか、格上であったはずの盗賊は一太刀で死んでしまった。

 仲間を殺された残りの7人はようやく視力が戻ってきたのか、激怒して俺へ一斉に飛び込んでくる。


「やってくれやがったな!」

「もう命乞いは聞かねえぞ!!」


 彼らは長年の付き合いなのか、一見逃げ場などないかのような連携攻撃を仕掛けてきた。ほぼ同時に全方向から短剣が襲い掛かり、俺の体を切り刻もうとしてくる。

 だがそれを高く飛び上がって回避する。そのまま俺は盗賊たちの包囲から抜け出し、隙だらけになった彼らを背後から一閃する。


「そんなっ」

「俺達が、殺されるのかっ!?」


 自分達が負けたのが信じられない様子で叫びながら、そこには追加で7つの死体が転がった。

 全部で8人。女神が告げていた通りの盗賊たちを、俺はなんと全員倒す事ができてしまったのだ。


「な、なんで……? 相手はゴールド級だって言ってたのに……」


 信じられないほどあっけなく孤児院に迫っていた危機は去り、それを成し遂げたはずの張本人である俺もまたしばらく信じられず、手にした剣と死体を交互に見ながら困惑しているのだった。

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