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その輝きはやがて沈む太陽のように

「この度は、本当にお手数をかけまして、申し訳ございませんでした!」

「い、いや、大丈夫ですから」


 街まで馬車を運んできた俺は、治療を終えた大工さんたちが休んでいるという宿屋へ直接資材を積んだ馬車を見せに来た。

 中身を確認し資材がすべて無事であるのを確認した彼は猛烈な勢いで俺に土下座をしてきた。

 大変は大変だったが、まあいい経験にはなったと思うので俺もそこまで怒る気はないんだけど。


「それより、資材は無事なんですから、立派な孤児院を建ててください。それさえしてくれたら俺も何も怒ることなんてないですから!」

「はい……!! お任せください……!!」


 まあなんにしてもこれで今度こそようやく新しい孤児院の建築が始まることだろう。

 完成そのものはまたしばらく後になるだろうが、どんな風に仕上がるか、今から楽しみだな。





「やあ、ザック!」

「あ……ギルバー?」


 孤児院に戻った俺は『黄金の旗』の5人と久しぶりに再会した。

 シスターや俺の仲間だけでなく、彼らも全員揃って食堂のテーブルに座っており、俺を見るや手まで振ってきた。

 しばらく会わない内にみんなは雰囲気が変わった……というか、なんか気持ち悪いくらいの笑顔になっている。


「……機嫌良さそうだけど、なんかあったのか?」

「ふふふふ、これを見てくれよザック」


 言いながらギルバーは大きな革袋をテーブルの上に置いた。ドン、と重厚感のあるそれを彼が開くと、中にはたくさんの金貨が詰まっていた。


「おおっ……!? ど、どうしたんだよ、これ。500……いや、1000枚は入ってないか?」


 控えめに見積もってもかなりの量だ。俺が苗床を発見した時の報酬よりも明らかに多い。

 とてもゴールド級の冒険者が稼げるような額には見えないが、いったい何があったんだ。

 そんな俺の疑問に、彼らは上機嫌で答えてくれた。


「俺たちさ、勇者様に救われたんだ」

「勇者?」

「そうよ、不滅の勇者ビスク様。あの人が罠に嵌まった私たちを助けてくれたの」

「あー、あの人か……」


 その名を聞いて俺は以前少しだけ会った事のある人物を思い出した。

 あの金髪の女剣士か。確か銀の災厄を倒そうとしてるんだったよな。……女神様に嫌われそうだし、俺はあんまり関わり合いになりたくないな。


「善良な冒険者を騙して殺そうとする邪悪な冒険者たちに俺らもハメられたんだ。……あと少しでギルバーが殺されるって時にビスク様が現れてさ」

「勇者ってだけあって凄いのよあの人! 剣を振る度、離れてる相手も硬い護りの相手も関係なしにズバズバ斬り捨てていっちゃったんだから!」

「……で、私以外の皆が彼女の虜になってしまったというわけだ」


 やたらとテンション高く語る4人に呆れるようにゼンは溜息を吐く。1人だけみんなのノリについていけてないようだった。


「ってわけでさ、なんとその時の冒険者が指名手配されてたんだよ! 悪い事してたんだから当然だろうけどよ!」

「ははあ、これがその賞金って事か」

「プラチナ級の冒険者8人、各金貨200枚でリーダー格の奴が割り増しされて300枚! 全部で1700枚あるぜ!」


 俺が思っていたよりもかなり多い額だ。何をしてたのか知らないけど、それだけ多くの冒険者が被害に遭ってたって事だろうか。

 前に俺が倒したゴールド級の元冒険者の盗賊、あいつらは銀貨100枚だったから、ランクが1つ上になったとはいえそれが1人金貨100枚か……いいなあ。

 ……いやいや、殺されそうになったって言ってるんだし、羨ましがるなんて良くないか。命がかかってたんならそれくらい貰って当然だ。

 という事を考えて思い出したんだけど、俺が倒してきたダイヤモンド級のあの魔物の討伐依頼とかって出てないのかな。死骸を放置して来ちゃったけど、あれ持って帰ったら結構な額になったりしたか?

 どうしよう、後で回収に……いや、でも流石にトルフェスたちが持って帰るか、他の生き物が食べたりとかしてるか。


「じゃ、これは全額孤児院に置いてく」

「……は?」


 心の中で俺が変な後悔をし始めた頃、唐突にギルバーがそう言った。

 あまりの衝撃に、死骸の回収とかもうどうでもよくなってしまった。


「ぜ、全額置いてくって……。あ! ギルバーたちの取り分を除いてって事だよな? おいおい、紛らわしい言い方するなって……」

「いや、1700枚きっちり全部だ。……シスター、孤児院のために自由に使ってください!」

「……あらあら。これは随分な大金ですけれど……本当に? ギルバー、無理をしてはいません?」


 流石にこれはシスターも黙って受け取れはせず、真剣な顔でギルバーに問うた。

 が、彼は悠然と頷くだけだった。


「大丈夫です、俺たち、勇者様とパーティを組めることになったので!」

「そ、そうなのですか? ……それがどう大丈夫なのか分からないのですけれど、本当に平気なのですか?」

「はい! あの方がいれば俺たちは無敵ですから! ……みんなもそうだよな!」


 その言葉に、ハミア、トラッド、モルガンの3人は当然の事のように頷いた。

 ゼンは、「やれやれ……」って感じの顔をしているが、反対まではしないようで文句を言うつもりは無さそうだ。

 ……そっか、勇者とパーティを組めるのか。それならこれだけ調子に乗るのも分からなくはないかな。

 ゲームでも勇者のパーティって言ったら主役みたいなものだし、そこに入れるってなったら安心感あるもんね。あいつらが主人公になったようなものだ。


「うーん、本当に大丈夫なのでしょうか……。ザックもそう思いますか?」

「まあ不滅の勇者って言うくらいですし、強いのは間違いないと思いますよ」

「そうそう! なんたってビスクさんはオリジナルランク相当だって言うからな! その名もイモータル・ハイメタルだぜ!」


 異名だけでなくちゃんとランクでも不滅を意味してるあたり、強さは本物なんだろうな。

 プラチナ級冒険者を一蹴したって言うし、簡単に死ぬような人物でもないと思う。彼らを任せてもいいと俺は思えた。


「ザックもそう言うなら……信じる事にいたしましょう。ですが、みんな怪我がないよう気を付けるのですよ」

「任しといてくださいよシスター、すぐにザックよりも大金を稼いできますからね!」

「そうよ、なにせ私たちには勇者様がついてるんですもの!」

「すぐに建国できるぐらい稼ぐぜー!!」

「じゃー私はバーとか建てちゃおっかなー」


 『黄金の旗』の面々はもう億万長者にでもなった気分で、金貨の袋を置いて孤児院を後にしていく。

 そんな中、ゼンだけはまだ着席したままで、また大きく息を吐いた。


「……まったく、調子に乗り過ぎだ」

「強いやつとチームを組めて喜ぶのは当然っちゃ当然だが……言う通りだな。……ゼン、いざって時はあんたがブレーキになってやれよ」


 成り行きを見守っていたリィンも彼女の言葉に同意し、ゼンに歯止め役を任せた。

 俺も流石に浮かれすぎだろとは思ったので、確かにそういう役割のやつが1人はいるべきだよな。


『……にしてもすごい心変わりね。私もちょっとだけしか会った事ないけど、あんなやつらだったかしら』

「勇者の魅力に憑りつかれてしまったのだろう。勇者を名乗るだけあって、あの女には人を惹き付けるような……アイドル性が感じられた」

「……ザック、あいどるって何?」

「え? ……う、歌ったり、踊ったり、する人?」


 ヴェナに聞かれたけど、うまく答えられない。アイドルって具体的には何をすることを言うんだ……?


「私も難しい定義は知らんが……気付けば崇めたり、声援を送っていたり、自然とその足取りを追いかけたくなるような者の事、とでも思ってくれ」

「はー。よくは分かんねーが、それであいつらみんな魅了されちまったって事かね」


 なるほどな。ギルバーたちはあのビスクに心を掴まれてしまった、って事でいいのかな。

 まあ綺麗な人ではあったと思うけど、あそこまでいくものなのかな……。俺も会った事はあるけど、そこまでは魅力を感じなかったな。


「あれ……それでなんでゼンは無事なの?」

「ん、ああ……。過去、私も似たような事をしていたから、だろうかな」

「へー。…………いやちょっと待って何それ初耳なんだけど!?!?」


 さらっと言ったけど、それってもしかしてゼンって日本にいた時はアイドルだったのか!?

 この世界に来てだいぶ経つけど初めて聞いたぞそんな情報!?


「え、アイドルだったのゼンって!? え、ユニットとか組んでた!?」

「フフ、昔の話さ。語るような程の事はないよ」


 なんてことないように言ってそれ以上は教えてくれなかったが、そんな事をされては余計に気になる。


「……さて、私も行くとするよ。目付役がいつまでも離れていてはまずいしな」

「こ、今度来た時にアイドル時代の事詳しく聞かせてくれよ!?」


 別にアイドルオタクだったとかではないものの、あんな風に突然のカミングアウトをされては続きが気になってしまい、思わずそんな事を言ってしまった。

 対するゼンはフッと口角を上げて片手を振っただけで返答はなかった。

 そうして『黄金の旗』の5人全員が孤児院から出て行き、俺たちの前には大量の金貨ばかりが残された。


「……どうしましょう、このお金。あの子たちは好きに使っていいなんて言いましたけど」

「孤児院の新築は……もうすぐ始まるし、使うならもっと他の事ですかね」

『!! はいはい! 畑! おっきい畑作ろうよ!』

「全部使うの?」

『うん!』

「あはは……それは流石に大きすぎると思うな」

「……とりあえずリュオンとローレナも呼んできて美味いもんでも食いに行くか」


 大金すぎて使い道が思いつかず、そもそも本当に使っていいものか躊躇する額であるため、あまり手は付けずに取っておこう、という事になった。

 使うだけじゃなくて、貯金だって大事だよな。

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