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資材回収作戦!

 依頼を受けた俺たち4人は街から伸びている街道を南へ下り、放棄された馬車を目指した。

 孤児院に誰かを置いといてみんなを守るべきか考えたけど……女神様も特に何も言ってないし、大丈夫だろう。

 舗装されているとかではないのだが、踏み固められて馬車が走れる程度には整った道であるため、とても歩きやすい。

 資材を積んだ馬車があるのだから馬を連れて行くべきだったのかもしれないが、魔物に襲われでもしたらかわいそうなので徒歩で向かっている。

 話をよく聞けばそこまで離れていないようだったのもある。街の馬を借りるだけでも結構高いみたいだし、それならなおの事まずは魔物を倒して安全確認だ。


「……とか思ってたのに、まさか丸2日かかるとは」


 まあ、近いと言えば近い。俺が前にデモンソルジャーの苗床を倒した山よりも手前側にあるし。

 しかし到着までに2度も野宿する事になるとは。あんまり準備もしてなかったから、思ったよりハードな旅になっちゃったな。


「でもヴェナは楽しかったよ、おっきい鳥おいしかった」

「魔獣っぽかったけどね。ご飯に困らなかったのは助かったけど」


 道中で鳥型の魔獣に襲われ、攻撃を受けてしまったシックスが敵を倒した。

 魔力を吸われて死んだそれをリィンが食べられそうだ、と判断したので食料として頂いたのだが……まあ悪い味ではなかった。

 普通の生物じゃなくて魔獣なのが気になる所だけど。味は良かったけど、後で変な影響が体に出たりしたら怖いな。


「おっと、旅の想い出語りは帰ってからにしようか。今回は油断ならない相手みたいだからね」


 視界の先に馬車を捉えたリィンがそう言い、俺も気を引き締める。

 あれが見えたという事は近くに見られただけで体を溶かされる魔物がいるという事だ。敵はダイヤモンド級だが、恐ろしい能力を持っている以上は油断してはいけない。

 俺はみんなの前に出る。改めて話し合った末、シルバー級の俺が前線に立つべきだという結論になったのだ。

 そうでなくても今回は彼女たちの盾になるつもりだった。なにせ相手は問答無用で溶かしてくる魔物、街に戻れば回復魔法などで治療できるとしても、そんな怪我はさせたくない。

 だから俺はとにかく周囲を集中して見回すのだが……。


「……近くには、いないみたいですね」


 馬車が放置されている街道はとても見晴らしがよく、左側の遠方で微かに俺の通った森が頭を出しているのを除けば遮蔽物などもない草原のような所だ。

 少なくとも見える範囲には魔物の影も形もない。


「2日も経ってりゃ流石に移動しちまってるか。戦わなくて済むのは運がいいけど、どうするかね」


 戦闘の可能性が薄くなってリィンは緊張を解くように首を回した。

 まあありがたいことではある。誰も危険に晒されずに回収が終わるならそれに越したことは無い。

 ……ただまた誰かが魔物に襲われることになるって考えると、不安は残るな。


「とりあえず、物資が無事かどうかだけ確認して帰るとしようぜ」

「そうだね、リィン」

『き、気を付けてよ……! じ、実は馬車の下とかに隠れてたりしない……!?』

「あはは、臆病だなあシックスは。……大丈夫、何もいないよ」


 後ろから怖がるような声がしたので、馬車に近寄った俺が車輪の内側や馬車の背面など、来た時に死角になっていた部分を確認して安全を告げる。

 やはり、件の魔物はどこかへ行ってしまったのだろう。


『ほ、ほんとに危なくない……?』

「平気だって、ほら。資材も平気みたいだよ。見てよこれ、こんなブヨブヨなのとか何建てるのに使うんだろうねー!」


 ついでにそのまま馬車の中も確認する。魔物も動かない物までは攻撃しなかったようで、どれも傷一つついていなかった。

 その中で隅っこに立てかけられていた謎の物体を引っ張ってみんなに見せる。

 ちょっと暗がりでよく見えなかったが、俺が掴んだものは日の光にあててみると灰色のタコの足みたいなものだと気が付いた。


「……。……」

「おい、ザック、それ……」


 明らかに狼狽えた様子のリィンに、俺も改めて手にしたものをしっかり見る。

 そのタコ足みたいなものには、なにやら無数に切れ込みのようなものが入っている。

 傷というわけではなく、それはまるで閉じられたまぶたのような形状だった。

 そして俺の考えが正しい事を証明するかのようにそれらが開かれていき――


「っおおおおおおおおッ!!!!?」


 金色の瞳が開ききる前に俺は銀の魔剣を抜き、魔物に突き立てて刃を引き、そのまま下方へと滑らせて両断した。


「キ――――――――!!」


 金切り音のような断末魔を響かせ、魔物の瞳も色を失って全身から力が抜ける。

 あっけないが、見開かれた瞳に俺が映っているはずなのに何のダメージもないためどうやら絶命したようだ。


「み、みんな無事!?」

「さいごうるさかったけど、平気」

「……中に隠れてやがったとはね。油断するには早かったか」


 3人とも無事だった。急な邂逅にはビビったけど、これで依頼の討伐の方は完了かな。

 馬車を降り、みんなの所へ戻る。


「シックスも大丈夫だよね、魔力吸収機構が動いてないっぽいからどこか溶けたりしてないってことでいいよね?」

『私は……いいんだけど、その』


 損傷はないみたいだが、なぜかシックスはまだ不安げにしている。何か気がかりな事でもあるのかな?


「どうしたのシックス? ……ああ、この馬車の事? それなら二度手間だけど、一旦街まで戻って馬を連れてくるって事にしてたんだけど……」

『それは、いいんだけど。……あっち見て』


 言われるがまま、俺は彼女の差した方向を見る。

 俺の行った森とは反対側だ。そこにも森があったみたいで、黒い木の陰が何本かこちらに顔を覗かせている。


「ああ、こっちにも森があったんだ。気付かなかったなあ。……で、あれがどうかした?」

『あんなの、私たちが来た時にあったっけ』

「? まあ急に木なんて生えないだろうし、あったんじゃないかな」

「いや……こいつは少しマズい事になりそうだね」

「どうしたのさリィンも、そんな、ただの森だったら……」


 そう言って改めて俺は2人の見ている方向を見た。

 ……気のせいかさっきよりも木の本数が増えている。いや、俺が見ている最中にまた1つ、2つとスクスクと伸びてくるのを見てしまった。

 その背の低さからかなり距離があるように見えたが、意外と近いのかもしれない。なにせその木は、よく見てみれば木などではなく、俺がたった今倒した魔物とよく似た姿をしていたのだから。

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