『銀の孤児院』
「というわけで、今度こそ俺たち4人のパーティ名を決めようと思うんだけど」
シックスの割り込みで脱線したレールを元に戻す。
彼女も俺と一緒に戦うという事で話が決まったので、今度こそ名前を決めるぞ。
「せっかくだからシックスにも何かいい案がないか、聞いてみようかな」
『わ、私?』
新しくパーティインした彼女に振ってみる。
しばらくシックスは戸惑ったが、少し考えた末に恥ずかしそうに声を出した。
『……男の子ならアルフレッド、女の子ならベアトリーチェがいいな……』
「おっと話を理解してない子が1人増えたなあ~」
何をモジモジしながら言ってるんだ。そういう名前を決める話じゃないって分かってるんじゃなかったのか。
「……こうなっちゃあザックが決めるしかなさそうだね」
「俺なの……? リィンの方が先輩なんだし、リィンが決めた方がいいと思うけど」
「おいおい、パーティ組んでくれるか聞いたのはザックだぜ? ならお前がリーダーなんだ。こういうのは、リーダーが決めるもんだろ?」
それもそうか。確かに、俺がリィンを誘ったのだ。
だとしたらパーティのリーダーは俺だし、その名を決定するのも俺の仕事か。
「……あれ? でもリィンの方が先に俺と組みたいな、って言ってきたような」
「……。……あれだ、細かい事を気にしないのも、リーダーの仕事だと思うよ」
「それはたぶん違うと思う」
それっぽい事を言われたのでそのまま流すところだったが、どうやら単に彼女が何も思いついてないから俺に投げただけみたいだな。
まあ、いいんだけどもさ……。
「……せめて何か候補みたいなのは教えてよ」
「ん~……折角シルバー級のザックがいるんだし、そこは含めた命名がいいんじゃないか?」
なるほど、それはもっともな意見か。俺が目立ちたいなんて話じゃないけど、シルバー級の冒険者なんてこの世界には数える程度しかいないのだから、そこは宣伝するべきだろう。
というわけで銀、もしくはシルバーという単語を入れて名付けるとしたら。
「シルバー……いや、銀の、うーん……なんか、俺たちを表すような……」
でもあんまり思いつかないな。シルバー級なのは俺だけだし、パーティメンバーの共通点というわけではないのがネックだ。
できればみんなの事も一緒に表せるような名前にしたいが……うまい言葉が出てこない。
俺たちの共通点ってこの孤児院で暮らしてる事くらいだよな。
「……銀の孤児院? いやいや、別に俺が経営してるわけじゃないんだし」
「それでいいんじゃないかい? どこの誰かも伝わりやすいし、いい名前だと思うよ」
「えぇ? ちょっとダサい感じがするけど」
俺としてはギルバーたちみたいな『黄金の旗』みたいなかっこいい名前がいいんだけど、そこと比べたら負けてる気がするなあ。
「気にすんなって。出自のアピールは大事だよ? 名が知れるようになりゃうちまで直接ご指名の依頼が来るようになったりだってするかもしれないだろ? 分かりやすさも大事だ」
「そう? リィンがいいなら」
一応理屈に納得するが、俺は念のためヴェナたちにも聞く。
リィンもあんまりネーミングセンスはないっぽいし、2人にも確認は取った方がいいよな。
「ヴェナとシックスはどう思う?」
「……人の名前っぽくないね」
「俺たちのパーティの名前だからね! まだ勘違いしてたんだね!」
『え!? それ、なんの話!?』
「……うん、だからね。俺たちが冒険者として活動していくにあたってね……」
2人に懇切丁寧に何をしていたのかを解説する。それでようやく分かってくれたのか、ヴェナは「へー」と頷き、シックスは全身を真っ赤にした。
オーバーヒートしたシックスに魔力を吸われながら、彼女たちの「それでいいよ」という返事を受け取ったので、俺たちのパーティ名は『銀の孤児院』に決まった。
かっこいいとは思わないけど、まあとりあえずはこれでやっていこう。
「……はい、それではザックさんたちのパーティの名前を『銀の孤児院』として登録しますね」
名前が決まり、俺は1人でギルドまで行って冒険者パーティの結成を報告しに来た。シックスは変な勘違いしてたのが恥ずかしかったようで、孤児院でリィンたちと留守番中だ。
リィンから聞いた話では、これをすることによって依頼者や他の冒険者に、達成した依頼の解決者として俺たちの名前と一緒にパーティ名を告知してくれるのだそうだ。
これで、俺たちの名の通りもよくなって、美味しい依頼が転がり込んでくるようになるといいな。
「それにしても、勇猛ですねザックさん」
登録が完了したところで、なぜかそんな事を受付の人が俺に言ってきた。
「勇猛? 何がです?」
「もちろんパーティ名がですよ。いくらシルバー級のお方とはいえ生ける災害の象徴である「銀」を名前に入れるだなんて、恐れ知らずと言ってもいいくらいです」
銀の災厄として知られるこの世界最強の怪物。
たとえそれに匹敵するシルバー級の俺であってもその名称を使うのはとんでもない事だと思われているらしい。
「……そんなにヤバいですかね」
「極力、その名を使わないようにする方がほとんどでしょうね。騙って、名を穢すような事なんてしたら処刑島から災厄が飛んでくるんじゃないかって怖がる人ばかりですよ」
シルバー級であるのをアピールしたかったのだが、受付の人の話を聞く限りだと相当無謀な事をしてしまったらしい。
……どうしよう、今から別のに変えようかな。銀の災厄は俺だって怖いし……でも代案も思い浮かばないしなあ。
「それはそれとして。……処刑島ってなんです?」
物騒な名称が飛び出てきて、俺の興味はそっちに映る。内容からすると、どうも銀の災厄の住んでいる所っぽいが。
「件の銀の災厄の居住地ですよ。災厄は世界中から懸賞金がかけられてますからね、それ目当てに腕自慢の方々はその島に向かうのですが……例外を除き誰も帰って来ないんです。それで、いつしか処刑島と呼ばれるようになったんです」
俺も予想していた通りだった。向かえば銀の災厄の手によって死刑を執行されるから処刑島、って事かな。
例外ってのは気になるけど……多分そこに銀の災厄がいると発見した人の事だろう。そいつがいたからこそ災厄の住まう場所が分かったんだろうな。
「うちのギルドにも災厄の討伐依頼は一応出してあるので、詳しい場所は依頼書で確認してください」
「あ、あるんですね。ちょっと見てみます」
「……でも、依頼は受けないでくださいね。仕事ですので受注すると仰ればお止めはしませんが……あの場所は決して人が近付くべき所ではないと私は思ってるので」
「はは……死にたくはないんで、分かりました」
これほどまでに念を押されるとなれば、正真正銘の危険地帯なんだろう。
災厄の力の一端は俺も見たことがあるし、いくらお金が欲しいと思ってもあれと戦う気など微塵も起きない。
場所についてもある程度見当はついてるのだが、答え合わせのためにも俺は依頼書の張り出されている掲示板の方へ向かった。
たくさんの依頼の張られた掲示板、その隅も隅の位置の、まるで仲間外れにされるような場所にその依頼は張られていた。
難易度はもちろんシルバー級。依頼主は各国の代表たちの合同という事になっているとんでもない依頼だ。
報酬もまた途方もない。見た事も無いような桁が限界まで刻まれたその額は、多分世界の半分以上を自分の国として支配する事もできそうな金額だ。これなら命を惜しまず討伐に向かうやつがたくさん出てきてもおかしくないな。
「ああ、やっぱりここの事だったのか」
どうせ受ける気も無いし国を持つ事にも興味はないので俺は処刑島の位置を確認する。
この世界の地図の真ん中、周囲を大海に囲まれた場所にある小さな島の上にバツ印が描かれている。そここそが、処刑島なのだろう。
これが先日女神様から聞いていた「海の真ん中の孤島」というやつに違いない。その遥か南方にも小さな島の連なる群島みたいなのがあるが、孤島と呼べそうなのは印の刻まれた所だけだ。
それを見て俺はちょっぴり安堵する。まさか死のテーマパークみたいな島が2つもあったらどうしよう、と少し不安だったのだ。
危険地帯についての情報も正確なものであると判明し、俺は用事も終わったので孤児院へ帰るのだった。
……それにしても危ないよな、こんな危険な依頼がシルバーランク扱いって。
もしもギルバーたちの誤解がいまだに解けていないんだったら、とんでもなく美味しい依頼だと勘違いして受けに行ってしまっているかもしれない。
流石にいい加減このランク付けについても正しく理解してくれてるだろうし、間違えてないとは思いたいが……。
というような事を考え始めてしまったせいで、『黄金の旗』のみんなが今何をしているのか気になってきてしまった。
ギルバーたち、どうしてるのかな。