俺のパーティ、前衛しかいなくない?
「よし、あたしらのパーティの名前、そろそろ決めようか」
一晩明けて、俺はシスターと孤児院を新しく建て直す計画について話していた。
大体の事を決め終わり、シスターが建築を担当してくれる業者を探してくれるという事になって話が終わった後、リィンが俺にそう言ってきたのだ。
『? なに、ザック何かお祝いとかするの?』
「いや、そういうパーティーじゃないよ」
若干の気まずさは残っていたが、ゆっくり寝たおかげで俺はだいぶ落ち着いていた。
リィンは流石というか、既に昨夜の出来事は無かったことにしてくれているのか、臆面なく俺にそんな話をする。
俺はリィンと仲間になった。そしてヴェナもキメラ討伐に同行してきたあたり、俺と一緒に戦うという気概に溢れているのだろう。そうすると、この3人は1つのチームというわけだ。
今後も冒険者として依頼を受けていくなら、何か俺たちを指し示すようなパーティの名前を付けておいた方が何かと便利なんだろう。ギルバーたちの『黄金の旗』みたいな。
「あたしたちが冒険者として名を上げてくにあたって、あるとないとじゃ知名度の広がり方に差が出るからね。孤児院をデカくするってんなら金はもっといるだろうし、そのためにも有名になっていい依頼を回してもらえるようにならなきゃな!」
「まあ、あって損はないもんな」
「だろ? ザックは何がいいと思うよ?」
「うーん、急に言われてもなあ……」
いきなり命名案を聞かれてもパッとは出てこない。
何か1つくらいは思いつかないかと頭を捻るが……駄目だ、浮かばない。
「ヴェナは何がいいと思う?」
「なにが?」
「俺たちの冒険者チームとしての名前だよ、これから3人で依頼を受けたりするときのためのパーティ名」
『3人?』
「それってヴェナも入ってる?」
「うん、ヴェナもかなり強いみたいだし、この前のキメラと戦った時みたいにこれからもついてくるのかな、って思ってたんだけど……もしかしてそんなつもりじゃなかった?」
「ううん、ザックがいいならヴェナも一緒に戦いたい」
俺が勝手に勘違いしていたのかと不安になるが、ヴェナもやはり共に戦ってくれるみたいだ。
心強いな、どうもリィンと同じくらいの力もあるっぽいし、心強い。
「じゃ、どんな名前がいいと思う? 俺たちのパーティ」
「ヴェナとザックの名前からとりたい」
「あはは、ヴェナ、リィンも入れようよ、俺たち3人のパーティなんだから」
「男の子の時と女の子の時とで2つ考えた方がいい?」
「おっと、何か勘違いしてるねヴェナ?」
『ちょ、ちょっと待って』
ヴェナにパーティ名の案を聞いていた時、シックスが間に割って入ってくる。なんだか慌てた様子だ。
『な、何の話をしてるの?』
「え? ……ああ、今のはヴェナが勘違いしてるだけだから驚かなくていいよ。俺たちが冒険者として仕事する時の名前を決めようってだけだから」
『そこは分かってるの。……3人ってどういう事?』
シックスは真剣な声色で問うてくる。何かおかしかったかな。
「俺と、リィンと、あと事後承諾みたいになっちゃったけどヴェナの3人だよ。なんか変かな?」
まあ、俺が剣士で、リィンとヴェナは格闘スタイルだ。みんな前衛だし物理攻撃だし、後衛も補助役もいないこのパーティがいびつに見えてツッコみたくなったのかもしれない。
が、彼女はそこには特に触れてこなかった。
『私は?』
「え」
『私は仲間に入れてくれないの?』
シックスの声に俺は言葉を失う。彼女も俺たちと一緒に戦いたいと言うのか?
……いや、どうだろう。俺にはあまりそうは思えない。
「……えっと、勘違いしてるかもしれないけど、俺たちはシックス抜きで遊びに行くとか、そういう話をしてるわけじゃないからね?」
『分かってるって言ってるじゃん。ザック、私の事置いて戦いに行く気なの?』
「そりゃあ、だってシックス、戦えるような兵装とかってないんだろ? それなのに連れてくのは……」
なんと勘違いじゃなく、純粋に俺たちについて来たがっていたようだ。
でも俺が言った通り、彼女には戦うための武装が無いようなのだ。魔力吸収機構があるから戦場に出ても生き残ることはできるだろうけど。
『わ、私がみんなの事守ってあげるから!』
「いや、それは……」
盾にしてくれ、って言うのか? 確かに前述した通り防御面では最高峰の能力ではある。破壊されても、周囲の魔力を吸い取って即座に修復できるのは不死身のようなものかもしれない。
だが俺はそんな事をシックスにさせたくない。盾役に向いた性能とはいえ、彼女に魔力吸収機構以外の武器がない事は変わりない。
それにシックスは子供なのだ。それを凶悪な魔物の前に立たせて襲わせて、囮として使うだなんて俺にはとても。
念のため振り返り、リィンを見る。良かった、彼女も俺と同じような意見っぽい顔だ。
「シックス、気持ちは十分伝わったけど、やっぱり君を盾にするような戦い方、俺はしたくないからさ」
『だ、だめって言うの……? どこでも一緒って言ってくれたのに……』
「うっ……」
彼女は置いていこうという方向に持っていこうとしたが、その言葉に俺はハッとした。
そもそも俺はシックスの魔力吸収機構で孤児院のみんなへ命の危険が及ばないようにそれを言ったのだった。
なら彼女を孤児院に残して依頼など受けには行くべきじゃない。その間にシックスが孤児院で怪我でもしたら大変な事になるかもしれない。
となると彼女も冒険者パーティの一員として迎え入れるしかないのか。……でも壁みたいな扱いをするのはなぁ。
と、悩む俺の肩にリィンの手が置かれる。
「……やれやれ、こうも言われたら仕方ないな。ザック」
「そりゃそうなんだろうけど……でも盾にするのはなぁ」
「ふっ、だったらどうするかなんて決まってるだろ?」
「え、どうするんですか?」
リィンはもう答えを出しているのか、自信ありげな顔で俺を見る。
「シックスの前にはザックが立てばいい!」
彼女の出した結論はそれだった。
妥当だな。シックスを傷付けさせたくないというなら俺がシックスを守ってやればいいだけな話だ。盾役を守る位置に立つというのはちょっと変な感じだが、それで彼女が怪我せず済むならいいか。
「じゃあ、その方向でいこうか」
『え、ザックが私の前に……?』
「うん、シックスの事は俺が守るよ」
『……えへへ』
一瞬戸惑ったシックスだが、俺が言ったことを理解すると嬉しそうに笑った。
そんな彼女を、ヴェナはジトーっとした目で見る。
「ならザックはヴェナが守る」
「え? ……あ、ありがと?」
「ならあたしはザックたちの先輩として、最前列で戦おうかね」
「えぇ……?」
こうして流れで隊列が決まり、俺たちのパーティは堅固な盾役が最後方に位置する謎の配置になってしまった。
……うん、これは後でちゃんと決め直そう。