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かわいい三角関係

 孤児院に帰り、俺はみんなの前で金貨の袋を広げて見せた。

 リィンとヴェナは「おぉー」とそこまですごい反応ではないが、シックスを除く3人は仰天している。


「すげー! ピカピカじゃん!」

「全部金色だね、はじめてみた……」

「まあ、こんなに沢山。……頑張りましたねザック」

「へへへ、これだけあったら孤児院を新築できちゃいますよね!」

「ええ、夢ではないでしょうね。……ですがザック、その前にお話しがあります」


 そう言うとシスターは改まって、無反応だったシックスの事を見た。

 彼女のリアクションが全くないのは単にギルドでお金を受け取った時にもう中身を見ているからなんだけど……まあ聞きたいのはそこじゃないだろうな。


「なぜシックスはここに戻ってきてからずっとあなたの腕に抱きついているのです?」


 行きと同じく、ギルドからの帰りも彼女は俺から離れる事はなかった。

 そして、そんな状態を何も知らないシスターが静かに受け入れるわけもなく、俺は彼女の視線を一身にあびる事となった。

 ていうか、他のみんなも俺を見てきている。


「あ、いえこれはですね、成り行きと言いますか……」

『私、ザックに付き合ってもらうことにしたんです』

「嘘だろまだ続ける気なのか!?」


 シックスの言葉に、場の空気が張り詰めるのを俺は感じた。

 いや、嘘は言ってない。だがそこだけを抜き出して辿り着く事実は大いなる誤解を生むのだ。

 ギルドの時はトラッド相手にムキになっていたという事で俺も納得はしたが、彼らのいない孤児院でも続けられては流石に困る。

 シスターも流石にこの一言から真意を見抜けるはずもなく、俺に少し険しい目を向けてきた。


「ザック……。あなたは決して幼い子に手を出すような子だと思っていなかったのに……」

「て、手は出してません!!」

「いや、研究所でガッツリ出してたけどな」

「リィン!! 今その話しないで!!!」


 痛い過去を掘り返され、俺の立場はさらに危うくなる。繰り返し言うが、あれは触っている時にはまだそんなつもり一切なかったのだ。


「初めて会った時に!? そんな……ザック……」

「誓って言いますけど、シスターが考えてるような事はしてませんからね!!」

「で、ではどこまでしたのですか、まさかキスをしたりしているのですか!?」

「してません!!」


 というか、シックスの口がどのあたりなのかよく分からないのでそれはしようがない。

 俺の返事を聞き、なぜかシスターは急に落ち着きを取り戻して普段の冷静な彼女になっていた。


「……でしたら私が口うるさく言うものでもありませんでしたね。ザック、これからもその清いお付き合いをするなら許しましょう」

「い、いいんだ……」


 キスしてないと言っただけであっさりと付き合うことを許される。何かシスターの中で特別な線引きでもあるのかな。

 いや、どっちかというとこれは「本気にさせるな」という意味での許可なんじゃないだろうか。

 シックスはまだ子供だということをシスターも理解している。そんなシックスが望むのであれば彼女を本気にさせない程度に恋の勉強を積ませてやれ、そう言いたいのかもしれない。

 だとすればこの反応も納得だ。あくまで俺は「恋愛の体験版」として務めろ、と。

 まあシスターがいいというならいいだろう。彼女の魔力吸収機構の件のためにも、お言葉に甘えてこの距離感を維持させてもらおう。


「うわっ」


 と、考えていた所で俺に軽い衝撃が叩きつけられる。

 見れば、シックスに抱きつかれたのとは反対側にヴェナが突っ込んできた。彼女もまた、俺の体に腕を回して抱き着いてくる。


「だめ、ザックはヴェナの」

「そ、そうきたかぁ……」


 いきなり俺の所有権を主張するヴェナ。

 そうだった、そういえば俺の事好きとか先に言い出したのはヴェナだったよな。孤児院に来た頃から既にどういうわけかこんな調子だった。

 そこに後から来たシックスが俺と付き合ってる、だなんていうもんだから対抗心を燃やして出てきてしまったんだな。ジーっとシックスを見ているのも「譲らない」という威嚇のつもりなのかな?

 ……とか考えてる場合じゃないよな。どうしたらいいんだ。


『えっ、そうなの? ……や、やだ! ザックは私のだもん!』

「違う、ヴェナの」

『な、何よこのどろぼう猫ー!』

「違う、ヴェナは狼だよ」

『そ、そうなんだ……。ちょっと耳、触ってもいい?』

「いいよ」

『わ、ふわふわー……』


 俺が考えている間に、2人は喧嘩……いや、この程度ならじゃれあいの範疇かな。

 シックスもヴェナの狼耳をもふもふして夢中になってるし、ヴェナも気持ちよさそうな顔してるし、この調子なら仲良くなってくれる気がした。


「ははっ、微笑ましいな」

「おいおいザック、あんまり気楽に構えるもんじゃないよ? 冒険者だって痴情のもつれが一番怖いんだからな」

「またまたぁ、どっちもまだ子供だよ?」


 リィンに言われたが、俺は冗談めかして否定する。これが大人だったら怖いかもしれないけど、今はむしろ可愛らしいものだろ。


「つったってあと2、3年そこらで大人だぜ? むしろもっとマジになってたって不思議じゃねえ。気を付けなよ」

「……そ、そう言われたら怖いかも」

「ふふっ、これはザックが1番お勉強になる恋かもしれませんね」


 リィンの言葉に気付かされ、途端に俺は怖くなってきた。

 彼女たちはまだ子供。とはいえそこまで幼いわけでもない。シックスは正確には分からないが、ヴェナはもう外見的にはギリギリ子供、というくらいの歳である。

 一時の感情とかでなかったのなら、数年後には大変な争いが繰り広げられてもおかしくないだろう。どちらも実力的にはかなりのものなんだし。

 ていうかだとしたらシスターもそんな笑って流してる場合じゃないのでは?


「……いっそ今の内にあたしと付き合っちまうか? あんたはお子様にゃ勿体ないからね」

「……!?」


 近い未来の争いに怯え始めた俺に、リィンはとんでもない爆弾を投げてきた。

 まあ、確かに諦めはつくだろう。リィンは大人だし、シスターも彼女となら俺が恋人同士になっても文句を言わないだろうし。

 俺も、まあ、悪い話とも思えない。今から将来の禍根を断てるわけだし、前衛として鍛え上げられた彼女の体は美しく魅力的で、内面的にも強さと優しさを併せ持つ人物であると知っている。

 ……ただ冒険者の先輩だからなぁ。最近対等な仲間という関係にはなったが、そんな彼女といきなり付き合いはじめて、それまでの関係とか距離感が崩れて変な感じになったりしないだろうか。

 これはすぐには答えられないな、と俺は考えてしばらく唸ったあと、リィンを見た。


「…………。返事は明日までじっくり考えてみてもいい?」

「ちょ、本気にするなって。冗談だよ!」

「え……じょう、だん、なんですか」


 真剣な話ではなかったという。話の流れで言っただけだったのか。

 長いこと思考した末に本気の話ではなかったのを知り、俺は恥ずかしくなって顔を赤くしながら俯いた。


「悪いね、真剣に考えてくれてたみたいなのにさ。いいさいいさ、気にすんなって! 勢いで答えらんないんなら……止めといた方が幸せなんだよ! あたしも……言わなかった事にするからさ!」

「あはは……」


 必死のフォローに、俺は余計頭が上げられなくなる。

 今リィンの顔を見ると今度は俺の方がオーバーヒートしてしまいそうな気がしたので、俺はそのまま自室へ戻ることにした。


『あ、待ってザック、一緒に寝よ!』

「ヴェナも一緒に寝る」

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