機械の恋人
「あ」
「ザック!」
ギルドで、以前に聞いてた通りの金貨100枚を受け取った俺はすぐに孤児院へ戻ろうとした。こんな大金持ってあんまりうろうろしたくなかったし。
なので迷うことなく帰ろうと思ったのだが、その時丁度ギルドに入ってきた『黄金の旗』の5人と出くわしてしまった。
ギルバーほか4名は俺を見付けると、何かを言おうとしてすぐに視線をさまよわせ、それからまた俺の顔を見てから声を発した。
「良かった、生きて……。は? ロボッ……? ……????」
ギルバーは俺の腕に抱きつくシックスを見て、頭の中に大量の疑問符を浮かべてるような顔になる。他の4人も似たような感じで、言葉を失っているようだ。
『誰この人たち。ザックの友達?』
「うん、同じ孤児院で育った、同郷の仲間だよ」
「だ、誰は俺たちのセリフだよ。何だよそのメカメカしいやつは?」
シックスを指差すギルバーはまだ目をぱちくりさせている。以前会った時にはいなかった彼女がどこから現れたのか気になってしょうがない様子だ。
そりゃあ何日かぶりに会った知り合いがいきなり人型のメカ連れてたらこんな反応になるよな。しかも今はシックス、抱きついてきてるもんな。
「この子はこの間のキメラ討伐の時に見付けたんだ。実験生物研究所の実験生物6号で、今は孤児院で暮らす事になってる。名前はシックスだ」
「そ、そんな一気に言われてもどういうことか分かんねえよ……」
「ていうかシックスってまんますぎじゃない……?」
簡単な経緯だけでは伝えきれなかったみたいで、ギルバーは頭を抱えてしまった。
彼と代わるように、トラッドたちが口を開く。
「で、なんでそのシックスがザックの腕にくっついてるんだ? ……まさかとは思うが、付き合ってる……とか?」
「ちょ、何言ってるのトラッド? 流石にそんなわけないじゃん。前にザックと会ったのって3日も経ってないくらいなのに、その間で恋愛とか……急すぎるでしょ」
「てか機械だし、そんなの好きなるとかなくない?」
「だ、だよな。こんなバッリバリのロボ相手に恋するとかないわな」
『……』
「うん、何れにせよ気になる所ではあるな。……それでザック、実際の所何があったのか聞かせてくれるか?」
4人は色々と言い合った末にゼンが俺へと答えを求めてくる。
なんだかんだ言ってみんな色恋の話だと思っているのか、頭を抱えていたギルバーさえもが興味津々な様子で俺に視線を向けていた。
そんな期待が寄せられるほどの事じゃないんだけどなあ。ただシックスのエンジンが人の命を奪わないようにするためだけの対策なんだし。
期待を裏切るのは申し訳ないけど、正直に言うか。
「いや、これはただ」
『つ、付き合ってるよ。私と、ザックは』
「そうそう、この子のエンジンがちょっと特殊で……んん??」
俺の話の捕捉をしてくれたのかと思って流したが、シックスの物言いに俺は話を止める。
付き合ってるっていうか、俺が彼女の仕返しに付き合わされているだけだったよね。
「お、おいおいシックス? その言い方だと誤解を招くって」
『誤解じゃないでしょ、研究所でザックの方から迫ってきたじゃん』
「い、いや、あれはそんなつもりなかったんだって! ……まあ途中からは……そ、そこは置いといて!」
訂正どころか、シックスは更なる勘違いを生む事を堂々と言う。
あの時確かに危険な武装がないかをチェックするために武器の格納ができそうな場所を触って確かめたりはしたが、その時はそんなやましい気持ちでやったわけではないのだ。
だが5人はそんな詳細を知らない。既にみんな驚いている……いや、もうドン引きしてないかこれ?
「ザックの方からいったのか……」
「え、そういう趣味だったんだ……、え? どんな趣味よ……」
「全身硬そうだけど……どこ使うんだ?」
「ちょ、トラッド」
「……お前はこっちに来い」
別の興味が湧いてしまったようだが、トラッドはゼンに引きずられてどこかへ行ってしまった。
……もう聞くまでもなく、5人全員俺がシックスに告白したものだと思っているだろうな。
「……や、みんな、違くてね」
「い、いいってそんな否定しなくって。好きなら周りの目とか、気にしない方がいいと思うよ、私」
「う、うん……俺も、いいと思う。ザックもほら、名前ロボっぽいしな」
「違うって言ってるのに!!! あと何だよギルバーのそのフォローは!!」
「や、そんなくっつきながら言われても説得力ないしさ……」
モルガンはずっと俺の腕に抱きつくシックスを見ながら苦笑いしている。
「これはちゃんとした理由があるんだよ! 聞いてくれ!」
『ザックがこうしてろって言ったんだよね、俺の傍から離れるなって』
「そう!! ……ってオイ!!!!」
トドメを刺すかのようにシックスが爆弾を放つ。いや言ったけど。今その話をするのはやめてほしい。
というかなんでシックスはここまでみんなに誤解させようとしてくるんだ。これも俺に恥ずかしい思いさせるためだって言うのか?
絶対シックスの方が恥ずかしい気持ちになってる気がするんだけど。
「その……悪かったよ、変な所目撃しちゃって」
「……シスターには言わないし、安心して」
と言いながら、ギルバーたちは俺に道を譲ってくれる。他言無用にするからもう行っていいという事だろうか。
でもこんな勘違いされたままで俺は帰りたくないんだけど。
『そ、それじゃあねザックの知り合いさんたち! あのトラッドだっけ、その人にも言っておいてね! ザックが私の事好きなんだって!』
「う、うん……」
「お幸せに……」
3人はそのまま俺たちから離れ、ギルドの奥へ行ってしまった。
残された俺は、シックスを見ながら眉を曲げる。
「どうしてそんな誤解を広げようとし続けるんだよシックス……」
『……何よさっきから否定ばっかりして。ザックも彼女ができて誇らしいって言ってたじゃないの』
「できたみたいで、ね!」
もしかして、俺がそんな事を言ってしまったものだから、それを本気にしてシックスは俺の彼女になったつもりでいるんだろうか。
まあ可愛い所はあるし、胸も大きいし悪いわけではないんだが、中身はまだ子供みたいだし、勘違いをさせてしまったなら早い内に訂正すべきだろう。
「……シックス、念のため言っておくけど、俺が街に来た時に言ったアレって、付き合おうって意味じゃないからね?」
『知ってるし、そのくらい』
「……あれ? 知ってたの?」
思い違いをしているのだと思っていたが、そんな事はなかったようだ。じゃあなんでこんなに付き合ってるアピールをしてるんだろうか。
その答えは彼女の方からくれた。
『……トラッドって人が言ってたでしょ、私みたいなのを好きなるやつなんていないって』
確かに、そんな感じの事を言ってたかもしれない。
『あれ、なんかムカッとして、だからザックと付き合ってることにしちゃった』
「それが理由かぁ……」
シックスも見た目は大人っぽいが、中身はまだ幼い少女なのだ。それが「こんなの恋愛対象にならない」なんて事を言われたら、反発したくなるのも当然か。
『……どうしよ、このまま本当に付き合っちゃう?』
「い、いや、一緒にいるとは言ったけどさ」
だが流石に本当に付き合うのはな。まだ子供なんだし、だいいちシスターに怒られそうだ。
『つ、付き合ってくれるなら……き、キスとか、してもいいけど……?』
「口どこだよ……」
だんだん本気っぽい雰囲気を出してきたシックスをどうにか流しつつ、ギルバーたちの誤解を解くのも諦めた俺は孤児院へと帰る事にした。
……それにしても付き合ったらキスしてもいいとは、可愛い事だな。