デートみたいだなぁ
「…………さて、俺はこれから出かける所だったんだけど、シックスも一緒に来る?」
『……ごめん』
シックスの赤面……というか赤熱も治まった所で俺は彼女についてくるかを聞いた。
原因が俺にあるとはいえ、用事の前に疲れさせてしまった事を申し訳ないとでも思っているのか彼女は頭を下げる。
「いいって、俺は魔法とか使わないし。好きなだけ吸っていいって言っただろ」
『うん。……ところで、どこに行くの?』
「ギルドだよ。シックスが来る前に片付けた依頼のお金が貰えるみたいだから、受け取りに行くんだ」
以前に破壊したデモンソルジャーたちの苗床。その撃破の確認ができたという連絡が朝方に孤児院まで届いたので報酬を貰いに行こうとしていたのだ。
行き先を聞き、シックスは少し考えた末に小さく頷いた。
『……ついてく』
シックスを連れて街までやってきた俺。
このままギルドまで行って報酬の金貨を受け取って帰るだけではあるんだが、なんか彼女の様子がおかしい。
ずっと俺の後ろに隠れてるっていうか、どうももじもじしているのだ。
「……どうしたんだよさっきから。なんか怖いのか?」
『そうじゃなくて、やけに視線を感じる気がするの。研究所から来た時もそうだったんだけど』
「あー、確かにちょっと目立つか」
どうやら周囲の視線を集めてしまっているのが気になっているらしい。
まあ仕方ないよな、人しか住んでない所にいきなり全身鋼鉄の人型機械が現れたら珍しいし、どうしても注目してしまうだろう。
最初の時はここまで恥ずかしがってもいなかったはずなんだけど、何か視線を意識してしまう出来事でもあったのかな。
……あ、さっき俺が孤児院で言った台詞のせいかな。
『……や、やっぱり私、帰ろうかな……!』
しばらく俺のあとに続いていたシックスだったが、ついに耐えきれなくなってしまったのか踵を返した。
だがもう街に入ってしまっている。途中で誰かにぶつかったりして損傷したら、最悪魔力を強制的に奪って死者が出る可能性もあるので、俺はまたシックスの手を取って引き止める。
『ひゃっ!? ま、また!?』
「傍にいろって言っただろ。……お前1人だけで途中で帰らせるかよ」
『っ……』
俺の言葉に押し黙ったシックスは、今回はそこまで抵抗せずに大人しく俺の所に戻ってきた。
……そして、そのまま俺の腕に抱きつくような姿勢を取る。
「おお……? え、そこまで傍に……!?」
『な、何よ……さんざん色々言ってくれたくせに、くっつくなとか言う気?』
「い、いやシックスがいいならいいんだけど」
彼女は俺の腕に思いっきり全身を密着させてくる。胸部装甲もしっかり当たっているので、俺はかなりドキドキする。
だが本当にいいんだろうか。視線が気になるとか言ってたのに、これじゃ余計に見られるんじゃないのか?
『どうせ見られるんなら思いっきり見られた方がむしろ気にならなくなるもん。……ザックにも付き合ってもらうんだからね』
「? う、うん……最初からそのつもりだけど」
どちらかと言えば俺が報酬を受け取りに行くのに付き合わせてしまっている形なのだが。
が、そんな俺たちの会話に聞き耳を立てていた衆人からはどよめきが起こる。
「あれは、シルバー級の……」
「今付き合ってるとか言ってたな」
「あんな機械と……? 一体どこに……」
「性癖もシルバー級だったのか」
ひそひそと囁く内容の一部は俺にも聞こえた。……とんでもない勘違いをされてしまっているようだ。誰の性癖がシルバー級だ。
まあ状況的には仕方がないか。シックスの振る舞いはどう見ても恋人のそれだし、何も知らずに見れば正しい状況なんて理解できないだろう。
「……シックス、本当にいいのか? みんな勘違いしてるけど」
『ふ、ふん。私にさんざん恥ずかしい事言ったんだから、ザックだって恥ずかしい思いしてよね』
どうやら彼女は俺に対しての仕返しがしたいらしい。俺がシックスの恋人であると街の人々に思わせる事で、俺を照れさせようというのだろう。
「……残念だったな、俺はそんなに恥ずかしくはなってないよ」
『えっ!? ……そ、そうなの?』
「ああ。逆に本当に彼女ができたみたいで、誇らしい気分だ」
『……。そっか。……まあ、なら、いいや』
「いいんだ……」
思惑は失敗に終わったはずなのに、どういうわけかシックスはそれを良しとした。
理由は不明だが、だんだんと腕に感じる熱が上がっていくのに気付いて、俺はまた彼女がオーバーヒートを起こす前にギルドへと足早に進むのだった。
『あっ、ちょっと! ……も、もっと、ゆっくり行こ』
……ゆっくりとギルドへ向かうのだった。