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不壊の実験生物6号

『私、本当はただの奴隷で……変なおじいさんに買われて、何か薬みたいなので眠らされて。気が付いたらこんな体になってたの』


 正座し、実験生物6号は静かに自分の経歴を話した。

 本当だとしたらとんでもない話だ。何も知らない女の子を実験の素材として、戦闘用人型兵器のAIとして搭載するだなんて。

 そんなの……そんなのもう、キメラではないのでは……?


「あ、だからキメラじゃなくて実験生物って名付けられて……いや、どっちにしても生物じゃなくなってるような」

『な、何の話?』

「ああごめん関係ない話」


 まあ細かい話はいいか。それよりこのロボはどうするべきだろうか。覚えはないけど、どうも俺の知り合いっぽいし。


「それで、さっき『私の事忘れたの!?』って言ってたけど……悪いんだけど、覚えてないんだ。どこで君と会ったのか聞いてもいい?」

『……その、それはね、そう言えば止まってくれるかなって、思って……咄嗟に言っただけで、ほんとは知らないの。……ごめんなさい』

「……」


 どうやら謀られたらしい。すごく必死に叫ぶものだから俺も何か身に覚えがある気がして、思い当たるはずのない記憶を必死に探って思い通りになってしまっていたわけだ。

 俺に白い目で見られ、実験生物6号はもじもじしながら視線を逸らした。


「なあリィン、こいつどうしよう。さっきから俺に嘘ばっか吐くんだけど」

「あはは……。まぁその子の話がマジだってんなら、そんなナリでも元は奴隷の女の子だったんだ。知らないやつに剣を向けられたら、そのくらいの欺きで身を守ったりはするんじゃないか?」

「……だったらその素性の話も怪しく見えてくるけどなぁ」

『そこはほんとなの! 人さらいに襲われて、売り物にされてたの。名前は……その、思い出せないんだけど』


 俺の疑ってかかる視線に耐えきれなかったのか、実験生物6号は必死に弁明してくる。

 だが自分の名前は言えないようだ。そこで急にトークも失速するし、なんかやっぱり怪しく見える。


『今の私が「実験生物6号」って名前なのは分かるんだけど、元の名前が分かんないの、えへへ……。……お父さんとお母さんによく呼ばれてたから、忘れてるはずないんだけど』

「呼ばれてたのにわかんないの? ザック、なんで?」

「お、俺に聞かれても」


 ヴェナの疑問に、急には答えを思いつかない。単に嘘を言っているだけという可能性も未だ捨てきれないが……。

 もしこの子が本当の事を言っているとしたら、ありえそうなのはヴァーナムが実験生物6号の本当の名前を消去したか、思い出せないよう記憶にロックをかけたかの2択だろうか。

 過去の記憶、その中でも本当の自分の名前を思い出されては都合が悪かったのだろうか。

 それを封じる事によって、創造主に反逆できないようにプログラムされているのかもしれない。思い出せる部分とそうでない部分があるという事は、少なくとも全てを知られては困る何かがあるに違いない。

 ……まあ、案外ヴァーナムの合成が甘くて、ただそこだけ忘れてた可能性もあるかもだけど。


「で、あたしらはここのキメラを産む設備をぶっ壊したからにはそろそろ帰るつもりだけど、あんたはどうするよ」

『わ、私?』

「ここに残るのかい? ……話した感じ、中身は真っ当な子供って感想だし、ザックがいいってんなら連れて帰ってやりたいがね」

「え……リィンはこいつ連れてくつもりなのか!?」


 話を聞いていたら、思わぬことをリィンが言い出して俺はビックリする。

 さっきまで戦って……いや、俺が一方的に攻撃してた気はするが、ともかく連れてく気なのか、孤児院に!?


「? なんかマズかったかな……」


 俺の反応を見て、リィンは首を傾げていた。

 そりゃあ、見てくれはロボだけど、話を聞く限りだと中身は可哀そうな女の子って感じだ。助けてやりたい気持ちもある。

 ただなぁ……いまいちその辺の話が信用しきれない。俺たちを油断させて、襲ってくる可能性をまだ捨てきれないのだ。

 だがこの6号の話が事実だったなら、孤児院で暮らす者として見捨てたくもない。

 なので、俺は実験生物6号のすぐ前でしゃがみ込み、確認をする。


「……君の兵装、武器は何がある?」

『え? ……ない、と思う。私に搭載されてるのって、この魔力吸収機構だけみたいだから』


 腕部や背面、脚部などを俺に確認しやすいように見せてくる6号。

 ……確かに、内部に格納された武装をしまっておくような怪しい開閉可能部分の溝なども見当たらないし、もしかすると本当に武器を持っていないのかも。


「触って確認してもいいかな?」

『……うん』


 了承を得て、胸部装甲で覆われた魔力吸収機構に触れてみる。実験生物6号の心臓部でもあるそれは、ほのかに暖かさを感じる。機械の構造には詳しくない俺だが、それもこれが特別な機関であるのは何んとなく分かった。

 念のため、胸部装甲もしっかり撫でて中に空洞などがないかを確かめていく。他のパーツと比べて膨らんだ部分であるため何か隠し玉があるとしたらここだろう。

 軽く指先で叩いたり、耳を当てて内側がどうなっているかを探ってみるが、帰って来るのは重厚感のある金属の感触だけだった。


『……んん』

「……ザック、その辺にしといてあげろ」

「なっ、何言ってるんだよリィン。孤児院に連れてくにしたって、危ない武器がないかは確認しないとだろ。ここが一番デカいんだから、ちゃんと調べておかないと……!」

「……ザック」

「な、なんでだよリィン!」


 もういいだろ、そう言うかのように俺はリィンの手で6号から引き剥がされそうになる。

 納得がいかない。シスターやリュオンとローレナに危険が及ばないようにという確認をなんで切り上げさせようとするんだ。何が不満だって言いたいんだリィンは。


「そこおっぱいだよ」

「……。え?」

「あっこらヴェナ、そんな直接的に……!」


 ヴェナが唐突に放った言葉に、俺は二度三度目をぱちくりさせる。

 さっきからずっと丹念に触り続けていた部位。

 それは鋼鉄のような感触ではあるものの、まあ、確かに、言われてみれば、それは人間の女性で言うなら、胸の位置に他ならない。


『……えっち』


 小さな声で言う実験生物6号。彼女のその言葉を聞き、俺はようやく手を離した。

 そして自分の手を見つめる。ただただ硬い装甲であったはずだが、全てを理解した今、俺の心の内にはとても大胆な事をしてしまっていたんだな、という興奮が爆発しそうになっていた。


「ゴホン。……あの、全部分かった所でもう1回改めて触ってみてもいいかな」

「ザック!!」


 後頭部をリィンに思いっきりぶん殴られた。

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