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紫鉄の実験生物

 実験生物研究所の研究員、ヴァーナム。そいつがキメラを産み出すために作りあげた最初の実験生物1号。

 自動的に生き物を生み出すという能力を持ったそれがいる生産室へと俺たちは辿り着いた。

 大きなゲートの前には研究所入口で戦ったのと同じ警備の人型機甲が2体いたが、3人で協力して破壊した。

 そのまま、生産室の中へと俺たちは入る。


「こいつが実験生物1号か……」


 入ってすぐ、俺たちの前に巨大な体が待ち構えていた。

 大きな室内にはその部屋の半分近くを埋め尽くすほど大きな、鋼の体を持つ機械がいたのだ。

 実験生物とは名付けられていたが、正直生き物とは思えなかった。申し訳程度に機械の足が4つあるが、腕も頭も持たないそれは俺には足の生えた巨大電子レンジのように映る。

 多分、これは生産に特化させたキメラなのだろう。胴体の一面は巨大なゲートになっている。


「あん中でキメラを作ってるのかね。次が出てこない内に、早いとこぶっ壊しちまおうぜ」

「うん。どうする、ザック? どこから壊す?」

「うーん、大型の機械って感じだし、手当たり次第に攻撃して壊せば良さそうかな」

『……あなたたち、何をしてるの?』


 どこから壊すべきか悩んでいる時、背後から電子音声みたいな声がした。


「ッ!?」


 振り返れば、そこにいたのは警備の機甲。が、これまでに見たものとは少し違った。

 他の警備とは違い全身を紫色で染められた人型のそれは若干線が細く、華奢な印象を受ける。どことなく女の子っぽさを感じるのだ。

 特に胸部に取り付けられた大型のエンジン。特別製なのか、それがこの人型機甲の胴体に戦車みたいな凹凸を造り出している。


「……見とれてる場合じゃない! リィン、ヴェナ! 1号の破壊は任せた!!」


 明らかにこれは特別機。量産型とは少し違う造形をつい見てしまったけどそれどころではなかった。

 2人に実験生物1号の破壊を頼み、俺はこの特別機の足止めをする。

 現れたタイミングから考えて、こいつは俺たちの排除に当たりにきたはずだ。そしてダイヤモンド級の警備たちの上位機体だとすれば、相手をできるのは俺だけだ。

 銀の魔剣を構え、眼前の人型機甲とにらみ合う。


『え、何? け、剣なんて向けないでよ、怖いじゃない』


 他の機甲よりも感情表現が豊かなのか、怯え戸惑うように両手をこちらへ向けてくる特別機。声も、よく聞いたらこいつだけは女性のものだった。

 攻撃してくる気配も見せず、視線も明らかに俺から逸らしている。本当に敵なのかどうか怪しく思えてくるほどだ。


「な、何なんだ……?」


 一向に仕掛けてこない相手に俺も困惑し、剣を下ろす。


『……っ!』


 その瞬間、特別機の白金色に輝くアイカメラが鋭く発光し、俺に向かって突っ込んできた。

 敵意がないものと勘違いしていた俺はその激突をモロに受け、紫色の特別機に馬乗りになられてしまった。


「ッ、この……!!」

『きゃっ!』


 剣を奪おうとする手を振りほどき、反撃に胸部装甲を切り裂いた。破壊された大型のエンジンがスパークし、悲鳴を上げて特別機は俺の上に重なるように倒れて動かなくなる。


「……油断したな。まさかこんな人間っぽい動きをするなん」


 敵を撃破し、一息つこうとしたのも束の間、俺の体はドクン、と何かに強く引っ張られるような衝撃を受けた。

 ただ物理的な意味じゃなく、もっと内側の、何か「力を吸い取られた」って感じの衝撃で……。

 とその時、俺の上で再起不能になっていたはずの人型機甲が、再びスイッチでも入れたかのように起き上がった。


「さ、再起動!?」


 起き上がったその特別機は、俺が斬ったはずの胸部の損傷が初めからなかったかのように修復されていた。

 ……それを見て俺は気付く。今感じた何かを吸われるような感覚。同時に自己修復して立ち上がる敵と、直前に読んだヴァーナムの日記の記述。

 そう、俺の前に立つこいつは、実験生物6号だ。多分あのデカいエンジンこそが魔力吸収機構とやらなのだろう。俺の魔力を吸って破損を修復したのだ。

 ヴァーナムの遺物と敵対してしまった。その恐ろしい事実に内心冷や汗をかきながら、俺は立ち上がって剣を構え直す。


『ちょ……待ってよ! あなたを襲う気なんてなかったの!』

「ま、また騙す気か……!?」

『い、今のはただ武器を取り上げようとしただけで……ほ、ほんとに戦うつもりなんてないの!』


 実験生物6号はまた同じ戦法で俺を丸め込もうとしている。だが流石に二度も同じ手を食うわけないだろ。


『……こ、これなら信じてくれる……?』


 そう言うと実験生物6号は自身の両腕部をパージした。

 ……そして直後、俺の体からまた何かが吸われる感触がして、床に落ちた腕がすぐに元通りくっついた。


「……」

『ち、違うの。私、壊れると勝手に修復が始まっちゃうだけで』


 こいつ、俺の力を吸えるだけ吸いつくして殺すつもりなのかもしれない。魔力が尽きると死ぬのかは分からないけど。

 自己修復より先に6号を完全に破壊する方がいいだろう。このままでは俺がやられそうだ。やはり戦う気は見せないものの、俺は実験生物6号のエンジンめがけて魔剣を振るい、


『わ、私の事忘れたの!?』

「……ッ!?」


 その言葉に、俺は目を見開いて止まる。剣先が、また胸部を斬る寸前で停止した。

 俺の、知り合いなのか? だが若干こもったような電子音声のせいか、聞き覚えのある声ではない、ような。


「……、いや」

「その辺にしときな、ザック。マジでそいつは戦う気ないっぽいぜ」

「……あ、リィン。と、ヴェナも」


 俺を止める声に振り返れば、リィンとヴェナが実験生物1号の破壊を終えてすぐ後ろに立っていた。


「これでもうキメラ、増えないよね」

「そうだね。……うわ、本当に粉々になってる」


 2人の背後では、実験生物1号は跡形もなく破壊されていた。ここまですればもう、新しいキメラが勝手に生まれる事はなさそうだ。


「山岳付近を守ってる連中も、これで増援に怯えなくていいだろ。そいつの話、聞いてやったらどうだい」


 追加のキメラが生産される事はなくなった。冒険者たちが防衛している場所もリィンが通りがかりに敵を殲滅していた。

 時間の余裕はあるのかもしれない。リィンも戦意はないと言っているし、実験生物6号の話を聞いてやってもいいのかも。

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