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実験生物研究所

 警備の人型機甲から隠れつつ実験生物研究所を探る俺たち3人。

 施設内には窓もなく、明かりもついていないため非常に薄暗い。人型機甲は目に当たる部分が発光しているので敵の発見が遅れはしないのが救いではある。

 極力戦闘を避けながら、この場所のどこかにキメラを産み出す機械のようなものがあるんじゃないかと各部屋を回りながら進んでいる。

 だが見つかるものといえば空室か、もしくは実験として作られたらしいキメラの収められた檻くらいだ。それもほとんどがボロボロか、死んでしまっていたが。


「なんか……今も使われてるって雰囲気じゃないなこれ。研究者は死んでるけど設備だけ動いてるパターンか?」


 警備のロボットばかり見かけるのに肝心の人間とはまるで出会わない。

 研究所内も清掃はされているようだが人の使った形跡がないので、俺はそんな定番の状況なのではないかと訝しむ。


「ヴェナたち以外の人の臭い、ほとんどしないから、誰もいないかも」

「術者の遺産が暴走するってのはよくある依頼だけど、だってんなら尚更止めないとだね」


 2人もそう思うらしい。誰の意思もなく、ただキメラを産み続けている装置があるのだとしたら、確かに止めるべきだよな。意思を持ってやられてたら余計に止めないとだけど。

 そう考えながら俺は階段を降りた。この施設は地下方向に向けて広がっていたようだ。

 またいくつかの部屋の中を確認しながら、俺はその先にあった一つの部屋が目に止まる。

 そこには扉に小さな表札が設置されていた。「ヴァーナム」と彫られたそれはその部屋を使っていた人間の名前だろうか。

 気になった俺は導かれるようにその中へ入ってみた。


「うわっ……」


 入って、最初に見たのはこの研究所に入って初めて発見した人間だった。

 正確には、人間の白骨死体だった。何があったのか、あるのは腰から上だけの骨で、そこから下はどこにも見つからなかった。


「キメラにでも喰われたのかね。……まぁこんな研究所なんざおっ建ててるんだから、きっと満足だろうさ」

「ど、どうかな……」

「ザック、机の上になんかあるよ」


 ヴェナに言われ、俺は白骨の先の机を見る。

 そこへ手を伸ばすかのように死体は倒れており、置かれていたのは一冊の日記帳だ。


「ヴァーナム……だっけ。この人の日記かな」


 何かキメラを生産する設備の情報でもないかと思い、俺はその日記を手に取って開いてみた。

 ざっと開き、一番最後に書かれた部分から読んでみる。


『――我が生涯、最後にして最高の傑作が完成した。』

『6号の魔力吸収機構を改良し、4号の拘束機能も搭載しつつ全身を防御性能と再生能力の高いエメラルドで構成。大地の魔力尽きぬ限りこれは死なず、破壊もできんだろう。』

『心優しい娘を据えたおかげで攻撃性能も申し分ない。』

『実験生物最終号、その名は』


 最後のページはそこで筆記が止まっている。転がっている死体の状況を見るに、最後の力を振り絞ってここまで書いたのだろうか。


「き、気になる……」


 ヴァーナムという人はどんな名前を付けようとしたのだろうか。とんでもなく強いキメラを作ったらしいが、その名前を決める前に死んでしまうとは。

 かわいそうに、俺が代わりに考えてあげようかな。……って、そうじゃない。目的はキメラを産み出す装置だ。他にどんなものを作っていたのかも気にはなるが、飛ばし飛ばし記述を探っていく。


『実験生物9号は海中へ逃亡。巨大商船を沈める等真価を発揮している。』

『7号は強力な凍結魔法の込められた光線を放つも、再装填に時間を要する。6号の魔力吸収機構はやはり優秀だった。』

『6号に搭載した魔力吸収機構は正常に稼働。破壊は困難であり、』

『4号の拘束能力は優秀であるものの破壊への耐性が皆無だ。再生機構を造り出すべきだろう。』

『2号は飛行実験中に逃亡。学習機構を搭載しているため、いつかまた会える日を楽しみにしたい。』

(あぁ……こいつヤバいやつだな)


 だいぶ読み進めて分かったが、このヴァーナムという人間はヤバい。

 かなり好き放題生物を産み出しているようだが、こんな事ばかりできるというのは相当ここの権力を握っているか、もしくは所長かのどっちかだろう。

 っていうか少なくとも2体くらい研究所から逃げてるんだけど、誰かもう討伐してるよね……?


『実験材料確保のため、実験生物1号は生物の生成機構と合成機能を搭載。両者共に正常に稼働している。』

「! これか……!」


 さらに日記をめくり最初のページ、実験生物1号というのが生き物を造り出す機能を搭載しているらしい。冒険者が目撃したのは、きっとこれで作られたキメラじゃないだろうか。


「リィン、ヴェナ! このまま奥に行こう!」

「お、なんか見付けたのか?」

「ああ、この部屋を出て左、そこに「生産室」ってのがあるらしい!」


 日記を読み進め、実験生物1号のいる場所に見当をつけた俺はリィンとヴェナと一緒に部屋を出る。

 ヴァーナムの実験が産んだキメラの自動生成設備。悪いけど、俺たちの手で破壊させてもらうぜ。

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