発生源を叩く!
「うおらあああああああッ!!!!」
何本もの巨大な鉄柱が繋ぎ合わされたような蛇のキメラにリィンのアッパーが突き刺さる。
大地を揺るがすような咆哮と共に拳が鉄蛇の顎を砕き、その衝撃が全身へ伝わったかのようにそのキメラは粉々になった。
鉄のつぶてが舞う中リィンはふぅと息を吐き、腕組みをして満足そうな表情をする。
「……いやあ、今のは良い手ごたえだったなあ」
「……めちゃめちゃに先行するじゃないか」
馬鹿デカい相手を仕留めた彼女に、俺とヴェナはようやく追いついた。
3㎞くらいは走った気がする。この人俺と一緒に依頼をこなしたかった、とか言ってたけど普通の依頼だったらこのペースで全て一人で解決してたんじゃないだろうか。
「よおザック! いい汗かけてるかい?」
「まあ……主にランニングで」
「走ったね」
道中の敵は全部彼女が文字通りに粉砕していったため、俺とヴェナはただリィンを追いかけ続けてきた。
「おし、じゃあこの調子でこの地方のキメラどもを叩き潰して回ろうか!」
「それなんだけど、ちょっと待ってねリィン」
まだまだ元気いっぱいという感じで駆けだそうとしたリィンを制止し、俺はさっき冒険者に言われたキメラの生産施設の話を彼女にも伝える。
「というわけで、俺たちはこのままドナマーブル地方の北西を目指そうと思うんだ」
「あっちの方か。ザックの聞いた通りならそこをぶっ壊すのが正解だろうね。急ごうか」
俺の話を聞いたリィンもすぐに北西の施設へ向かうのを了承してくれた。彼女もそこが敵の本拠地のようなものだと察したらしい。
こうして無事リィンも回収できたので、俺たちは北西にあるという建物を目指すのだった。
「ここか。見るからに怪しいねぇ」
乾いた大地を進んだ先で俺たちは目的の場所を発見した。
コンクリートっぽい素材でできた壁と屋根が四方を囲み、巨大な長方形の建物を作り出している。俺の元いた世界でのビルを横倒しにしたような形だ。
流石に文字はこの世界のものだったが、分かりやすく入口の上に看板まで出されていた。
「『実験生物研究所』か。……割とそのまんまのネーミングだな」
「分かりやすくていいじゃないか。少なくともキメラに何か関係あるのは間違いなさそうだね」
そこは確かにリィンに賛同できる。かなり大きい施設のようだし、ここであのキメラが生産されている可能性は高いだろう。
意を決し、俺たちは研究所の中へと進んでいく。
そして、最初に俺たちを出迎えてくれた敵は全身を鋼鉄の装甲で覆った、二足歩行の人型機甲だった。
『未登録の人員を確認。警告、直ちに引き返しなさい』
「……世界観が違うッ!!」
「なにそれ」
いきなり警告を飛ばしてくる全長3メートルほどのロボットが現れ、俺は思わず叫んだ。
いや、いろんな生き物を合成したりするような地域なんだから、科学力は高いんだろうけど……。
「驚いてる場合じゃないぜザック! 怯んでないでぶっ壊すんだ!」
俺に代わってリィンが初撃を打ち込む。警備の人型機甲は胸部に直撃を受け、大きく装甲をひしゃげさせた。
『抵抗を確認、排除開始』
だが外で見かけたキメラ以上に頑丈らしいこいつは倒れず、両腕に備え付けられていた銃口をリィンへと向けた。
弾の威力など知らないが、彼女の一撃を耐えられるような相手だ。当たり所が悪ければ致命傷になってもおかしくないだろう。
それを理解しては俺も技術力の高さに驚いている場合ではない。
「ッ!? でやああッ!!」
銀の魔剣で人型機甲の両腕をぶっ叩く。
軽く軌道を逸らせればいい、程度の攻撃だったが、魔剣は恐ろしい切れ味を見せて敵の腕を両断した。
鉄の塊を簡単に斬ったのに目を見開くが、効果があると分かれば立ち止まれない。続けざまに敵を頭から叩き斬るように剣を振るう。
腕と同じように難なく人型機甲は真っ二つに切り開かれ、それきり沈黙した。
「やるじゃないかザック。今の、かなりの強敵だったよ」
「リィンが一撃で倒せなかったって事は……同格のダイヤモンド級くらいはあったのかな」
「ヴェナと同じくらい強いよ」
「そっか。……できるだけ見つからないように行こう」
一介の警備ロボですらダイヤモンド級の力があるという実験生物研究所。
これはやはり何かがあるのだろう。開幕からそんな予感がした俺たちは、研究所を警備しているロボットには極力見つからないようにしながら内部を探索することを決めたのだった。