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キメラ群撃滅戦、開始!

 ドナマーブルへと続く道には草木が1本も生えていない。

 大地にあったはずの全てをスプーンで掬い取ったかのように平坦な道が元山岳地帯へと続いているだけだ。

 なんの障害物もないその道は山の向こうからやってきたキメラたちにとっても見晴らしがよくて、俺たちがそこへ到着した頃には既に複数の冒険者パーティが戦闘を繰り広げていた。

 銀の災厄が喰らっていった山のあった場所に布陣した冒険者たちは、敵の唯一の侵入点であるそこで迫り来るキメラを押し返そうとしていた。


「……あいつぁ不利だな。急ごうザック、あのままだと崩れちまう」

「え、互角そうに見えるけど」


 リィンの見立てを聞いて走るペースを上げながら俺とヴェナは彼女の話を聞いている。

 俺からは普通に冒険者側が連携を取ってキメラたちを倒しているように見える。遠目からでも前衛後衛回復、しっかり陣を組めているような気がするけどなあ。


「冒険者の数は、300前後ってとこだな。今はまだ抑え込めちゃいるけど、数では不利だね。時々敵が隙間を縫って前衛の壁を抜けてやがる。後ろに被害が出る前に倒せてるみたいだが、いつ崩壊してもおかしくないよ」

「この距離でそこまで分かるのか、やっぱ先輩って感じだなぁ」

「アブない臭いが分かるってだけさ。……さ、援軍として華麗に魔物共を押し返してやろうぜヴェナ、ザック!」


 気合の込められた叫び共に、リィンが身を屈めた。力を貯めながらの急停止で大きく走っていた方向へとスライドし、その勢いを利用するかのように彼女は大きく飛んだ。

 砲弾のような勢いでリィンは飛翔し、冒険者たちの頭上を飛び越えて群がるキメラの中に隕石のような衝撃波と共に着地した。

 周囲のキメラはそのインパクトで砕け散り、合成生物の残骸舞い散る中でリィンは己の剛拳を激しく打ち合わせた。


「ッシャアアアッ!! 暴れるぜえええッ!!」

「え……そんなに飛べるの……?」


 ダイヤモンド級の冒険者だけあって結構強いんだろうな、とは思っていたが、いきなりの超人的跳躍を見せつけられて俺はビビった。

 しかもパンチの1発1発でキメラが次々に消し飛んでいく。……なんか、パワーでは俺の方が明らかに負けてる気がする光景だけど、俺って本当に最強のシルバー級なんだろうか。不安になってきた。


「? ザック、行かないの?」


 そしてすぐ隣でヴェナも当たり前のように大きくジャンプする体勢に入っていた。いや、そんなに飛べないよ、俺。


「そんな不思議そうな目で見られても……。俺はあんなリィンみたいに跳べないから」

「そっか、じゃあ一緒に行こ」

「え? ……うおおおおおおっ!?」


 腰を片手で抱きかかえられ、何をする気なのかと聞く前にグン、と俺の体は空高くに舞った。

 一瞬の空中飛行の後、ヴェナと共にリィンがキメラを掃討した場所に降り立った。


「こ、このレベルの身体能力って上の方のランクだったら普通なのか……?」

「!? おお……君はシルバー級の!!」


 2人の仲間が想像以上の力を見せて驚いていた時、背後から歓声が上がる。

 聞き覚えもなければ見覚えもない顔だが、冒険者たちのものだ。彼らは俺の登場に高揚しているかのような声を上げていた。


「最強の援軍が来たぞ! 大物は彼らに任せろ!!」

「雑魚は私たちが相手をします! 絶対にここは通しません!」

「良かった、これで俺たちも助かるぞ!!」


 明らかにその昂った声の数々は俺の登場によって叫ばれていた。

 いつの間にか知らないが、俺がシルバー級であるという事が広まっていたのだろうか。正しいランク付けを知っているこの世界の彼らは、俺へと期待をしているようだ。

 悪い気はしないけど……たった今リィンとヴェナに身体能力の差を見せられてあんまり自信には繋がらないな。期待を裏切っちゃったらどうしよう。


「ザック、うしろ!」

「ッ!!」


 ヴェナの鋭い声に俺は振り向く。

 そこには胴体の代わりに回転ノコギリが付けられたような四足歩行の生物が俺に突っ込んできていた。

 冒険者の声に気を取られていた俺だが素早く魔剣を抜き、キメラの体である刃部分へ剣を叩きつける。

 ノコギリのような胴体が一撃で砕け、キメラは倒れた。


「よそ見しちゃだめだよ」

「ああ……ごめんヴェナ」


 敵地のど真ん中で彼らの声を聞いている場合ではなかった。ヴェナと共に周囲にキメラがいないかもっとしっかり見る。

 まあ、気が付いた時にはリィンが辺りのキメラを粉々にしていて、見える範囲の敵はいなくなってたけど。


「北西に向かってください!」


 とりあえずすぐにキメラに襲われるような状況ではないと分かりホッとしていると、背後から叫び声が飛んでくる。

 冒険者の1人が、俺たちへ向かってほしい場所があるらしく叫んで来ていたのだ。


「偵察に向かった仲間がその付近に何らかの施設を見付けました! 既に連絡は途絶えてしまいましたが、最後に多数のキメラがその場所から出てくるのを目撃したそうなんです! もしかするとこいつらの生産施設の可能性があるので、どうか破壊をお願いしたい!」


 北西にキメラを産み出す施設があるかもしれないらしい。

 その情報が本当ならこの場所で防衛線を築いた所でいつまでも敵の数が減らないはずだ。

 ただ女神様からはそんな情報聞かされてないが……まああの人の全知全能ってのは口だけ感はあるので、気にすることは無いか。


「……ヴェナ、聞いてた通りだ。俺たちはこれから北西へ向かうぞ」

「うん」


 ヴェナの賛同を得て、俺はそのままドナマーブル地方の奥へと走っていく。

 リィンは……俺とヴェナが立ち止まっている間に更に先へと突っ走ってしまっていたので途中で拾いながら先へ進むことになった。

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