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「ザック……!?」
早速依頼を受けに行った俺はギルドから出ようとした時に『黄金の旗』の5人と遭遇した。
ギルバーを筆頭に4人のパーティメンバーはみんな俺がギルドへやってきた事へ驚愕している様子だ。
「お、奇遇だなあ。やっぱりギルバーたちもキメラを倒しに……」
「ザック!!!!!」
この街の危機となるだけあってみんなも依頼を受けに来たのだろうか。
そう考えて気さくに話しかけた俺に、ギルバーは目を見開きながら俺の肩をがっしり掴んできた。
「なんでまたここに……! もう危ない依頼は受けないって俺と約束しただろ!?」
「うん、したけど……いやそんな約束はしてないよね!?」
魔物の毒に倒れた俺を彼らは助けてくれた。……まあ毒自体はそこまで効いてなかったんだけども。
話がややこしかったのでその時は俺が弱いのに無茶をした、というテイで話を終わらせはしたがそんな約束した覚えはない。
……っていうか、この反応を見るにまだ誰もこの世界のランク付けをちゃんと理解してないっぽいんだけど。誰か教えてあげたりしてないのか?
「分かってるよな、この依頼のランクはオリジナルランクなんだぞ! 実質的最上級ランクのダイヤモンド級よりも強力な敵が出てくる可能性だってあるんだぞ!」
「ああそこはちゃんと分かってるんだ……」
知ってはいるっぽいが、更にその上にシルバー級があるというのまでは分かっていなさそうだ。
いや、もしかするとそこは理解したうえで「そんなわけがない」と思っているのかもしれない。
まあ仕方ないよな、全員似たような出自なのに1人だけ最強ランクでした、なんて話より1人だけみんなより弱い、って方が現実的だし納得しやすいもんな。
「レギオン・ブロンズ、って言われたらお前でもこなせそうに思ったのかもしれないけど、帰るんだザック」
「そうよ、ゴールド級の私たちだって油断できないような敵がいるかもしれないの。お願いだから、今回こそ諦めて」
トラッドやハミアも俺の心配をしてくる。前回、なまじみんなの言い分を受け入れてしまっただけあってより強い想いが言葉にこもっている気がした。
が、そんなみんなの声も受付を終えたのを見て俺の所へやってきた2人の姿に、一斉に止まることとなる。
「お? なんだよお前ら、久々に顔見たね~!」
「り、リィン先輩!?」
今回一緒にキメラ討伐をする仲間、リィンを見て『黄金の旗』の5人は驚く。
そう、彼女は冒険者ランクダイヤモンド級なのだ。事実上の最上級ランクの冒険者で、ゴールド級であるギルバーたちよりも2つ上の存在だ。
「今回の依頼はリィンと一緒なんだ」
「マジかよ……」
俺はともかく、リィンが自分たちよりも強いのは彼らにもすんなりと受け入れられたらしい。各人の反応も、「それなら、まあ」とある程度納得した様子だ。
「ヴェナもいるよ」
「……えっと、どちらさまで……?」
リィンの紹介に続き、ヴェナが俺の背中に乗りかかるようにしてアピールしてくる。こっちは初対面なので、誰? って反応だったが。
「こいつら誰? ザックのともだち?」
「ん? うん、おんなじ孤児院で育った仲間かな。故郷も……多分一緒だし」
「ふーん」
俺の説明を聞いてヴェナはギルバーたちの事を興味なさげな視線で1人1人見ていく。
それから目を閉じ、ふんすと鼻息を吐いた。
「ヴェナのが強い」
「「「「「なっ……!?」」」」」
「こらこらヴェナ……」
誇るように言うヴェナに、5人はムッとしたような声を出した。
嘘でもないだろうし、俺も否定するにしきれない。ヴェナの実力は確実にプラチナ級以上のものだろうし、ギルバーたちは全員ゴールド級なのだから。
だが冒険者の先輩であるリィンではなく、みんなからすればぽっと出のヴェナにそんな事を言われては我慢ならないようだった。
「おいザック、どこで見付けてきたのか知らないが、初対面の相手にそんな事を言う奴とパーティ組むのはどうかと思うぞ」
「そうよ、こんな一瞬で私たちの力なんて分かるわけないでしょ?」
「うん、まあ割と否定できない意見なんだけどさ」
「そもそもホントに強いのか? そんな銀髪褐色狼耳獣人の女の子がさ。……可愛さの面では上か。いいなー、うちの誰かと交換してほしいわ」
「は?」
「おいトラッド、来い、話がある」
モルガンとゼンにトラッドがどこかへ連れて行かれ、ギルバーとハミアがヴェナを訝しむような目で見てくる。
トラッドを除き、彼らの言い分には理がある。いきなり自分の方が強い、などと知らない相手に言われてはただ生意気なだけにしか映らないだろう。
「……うん、ヴェナもいきなり言う事じゃなかったよ。あんまりそういうこと初対面の人に言っちゃだめだぞ? 俺の友達みたいなものなんだから。分かった?」
「うん。でもほんとに弱いよ」
「ヴェナ!?!?」
より直接的な表現に変わって俺は驚愕の声を上げる。
うん……ランクで言えば下から数えた方が早いし、正しくないわけではないんだろうけど、その言い方は本当に駄目だよヴェナ。
2人にもあからさまな挑発だと思われてしまったのか、明らかに怒っている。もう一言余計な事でも言ったら喧嘩になってしまいそうだ。
「このっ……」
「まーまー、落ち着けってギルバー!」
一触即発の空気に、リィンが割って入る。己の獲物に手を伸ばしかけたギルバーだが、彼女のおかげで冷静さを取り戻したようだ。
「せ、先輩」
「なんだかんだ言ったって冒険者は実力が全てさ。弱い、なんて言われたんなら依頼の成果で実力を示しゃいいのさ! だろ?」
「……そう、ですよね」
「おう! 分かればよろしい! んじゃ、死なないで帰って来いよっ!」
「は、はい!!」
器の大きさを見せつけて、リィンはこの場を取りまとめてくれた。それどころかギルバーの戦意を高めてさえくれ、円満な解決をしてくれたのだ。
「さ、あたしらも行こうか。……ヴェナ、あんたも冒険者として戦うんだ、あんな啖呵切ったからには絶対生きて帰るんだよ?」
「うん」
そうして俺たちはギルドを後にした。
ドナマーブル地方から来襲するキメラがどんな相手なのか、詳細は不明だが、誰1人欠ける事無く無事に戻ってきたいものだ。