オリジナルランク
「……そういうわけでリィン、もうすぐ銀の災厄が開けた道からキメラが大量に襲ってくるらしい」
孤児院での朝食を終え、食器の後片付けをしながら俺はリィンに女神様から聞いた話をする。
「街でも話題になってたやつだね。ギルドの観測班がドナマーブルの方から未確認の魔物が進んできてるのが確認されてたみたいだぜ」
既に話は聞き及んでいたらしい。流石にあれだけ大きな災害の痕にはみんな注目するだろうし、発見が速いのは当然か。
「じゃ、行くよね?」
「あたぼうよぉ! ザックとの初依頼、腕が鳴るってもんだ!!」
確認をすると、力強く自分の掌に拳を打ちつけた返事が来る。聞くまでもないって感じだよな。
よし、それじゃあ俺の洗い物が終わったら、早速ギルドへキメラの討伐依頼を受けに……。
「ザック、おでかけ?」
「うん、ヴェナ。この街に迫って来てる危険な敵を倒しに行くんだ」
そんな矢先にヴェナが顔を見せ、俺たちの会話に割って入ってきた。
何しに行くのかを説明するとヴェナは何度か頷き、それから俺の目を見てくる。
「ヴェナも行く」
「えっ」
いきなりの同行宣言に俺は洗っていた皿を落としてしまった。木製なので割れはしなかったが、慌てて拾い上げる。
「ザックたち魔物倒しに行くんでしょ、一緒に行くよ、ヴェナ強いもん」
「う~ん……それは出会ったときにまあまあ分かってはいるんだけどさ……」
囲まれさえしなければデモンソルジャー相手に苦戦しない程度の実力があるのは俺も理解しているが、今回の依頼はどうなのだろうか。
敵がゴールド級だったとしてもその大群が押し寄せてくるのだ。もしかするとヴェナでは危険なんじゃないのか?
そんな視線をリィンへ向けてみると、彼女の方も唸っていた。
「他所の地方の魔物が集団で向かってきてるからなあ……。依頼の推定難易度もオリジナルクラスのレギオン・ブロンズに指定されてたっぽいからねえ」
「それってあぶないの?」
「いや、俺も知らないけど……。何ですかそのオリジナルクラスだとかレギオン・ブロンズだとかって」
知らない単語が2つ出てきて思わず俺も聞き返した。
この世界ではシルバーランクが最強扱いっていう特殊な制度があるのは知ってたけど、他にも俺の知らない特殊クラスなんてのがあるの?
「ん、1番上のランクの事だけど、ザックは知らなかったのか」
「えっ、1番上!?」
そんな、女神様が言うにはシルバーが最強だったはずでは……!?
という俺の疑問だが、リィンは冒険者の先輩だけあってすぐに答えが返ってきた。
「ああ。下から順にアイアン、ブロンズ、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド。で、その上にオリジナルってランクがあるんだよ。測定ができないものとか、他に類を見ない力を持ってる奴にだけ与えられる称号みたいなもんだね」
「じゃあ俺のシルバーもそこに入ってる、って事?」
「や、それは更にその上。……つってもそんなランクの奴なんてあたしも災厄そのもの以外にはザックだけしかしらねーから、実質的なトップはダイヤモンドかオリジナルのランクだと思っていんじゃないか?」
「あれ、オリジナルが上じゃないんだ?」
「そいつはあくまで実力が正確に測れない相手への仮称みたいなもんだからね。……まあとんでもないやつもいるんだろうが、基本はあたしみたいなダイヤモンド級の奴が何人もあつまりゃ倒せはするだろうね」
なるほど、つまりオリジナルランクは強さじゃなくて特殊な敵、今回は大群で敵の個体もバラバラだからそのランクになったわけか。名前もレギオンって付いてるし。
……それにしてもオリジナルランクかぁ。かっこいいな、俺もなんかそういう二つ名みたいなやつ貰えたりしないかな。シルバーなんたらみたいなの。
「……ん? それじゃレギオン・ブロンズって事は実力自体はブロンズ級?」
特殊な依頼であるのは分かったが、それでも呼称のもう半分はブロンズだ。そこだけならかなり低級の相手だし、ヴェナを連れてくのにも問題なさそうだ。
が、リィンは渋い顔を崩さない。
「観測時点では、なんだけどね。数も種類もバラバラだし、そもそもオリジナルランクの依頼は敵の強さが不明瞭で危なすぎんだよ。ダイヤモンド級より上には置かれてるからね、相応の相手が出てくる時だってあるから、ヴェナちゃんを連れてくのは不安だね」
「……そっか、リィンがそこまで言うなら、悪いけどヴェナは今回留守番かな」
冒険者の先輩であってもオリジナルランクの敵は油断できない相手という事らしい。
俺はそこより上のシルバー級だが、以前の猛毒の魔獣のようなのが敵だったらヴェナを守り切ることはできないし、安全を取って置いていくしかない。
そう決めた俺に、ヴェナは抱き着いてくる。その姿勢のまま、俺の顔を見上げてきた。
「やだ、そんなに危ないなら、ザックだって危ないよ。ヴェナも行く」
「だ、大丈夫だって。俺はS級冒険者なんだから、むしろヴェナの方が危ないだろ? 俺は助かってヴェナが死ぬような相手がいたら、どうするのさ」
「やだ、死ぬ時も一緒がいい」
「お、俺も死ななきゃダメなのか!?」
「やだ、ザックは死んじゃダメ。ヴェナと一緒に生きてて」
「う、うん。だからヴェナはここで留守番をね、」
「ヴェナも一緒に戦いたいの」
「ど、どうしろと……!?」
どうやらヴェナは俺のそばから離れる気は一切ないらしい。今朝までは孤児院での決まりも守って言う事もちゃんと聞いてくれてたんだが、ここはどうも折れる気がなさそうだ。
自分の意志が強いのはいい事なんだけど、どうしようかな。今回は命も関わるわけだし。
「……仕方ないか。無理に言っても勝手について来そうだし、一緒に行こうか、ヴェナ」
「……がんばる」
結局俺の方が根負けし、ヴェナを連れていく事にした。彼女はそれを聞いて嬉しそうに瞳を輝かせ、尻尾を振っている。
「そうなっちまったか。ま、ヴェナちゃんがひょっこり出てきた時からそんな予感はしてたけどねぇ」
「……ごめんリィン。ヴェナも一緒に来ることになったけど、俺がちゃんと守るから」
「そいつぁいいさ。戦力外ってんじゃないんだろ? ……それはそれとして、次の依頼はザックと2人でやる予定だったんだけどねぇ……とほほ」
残念そうに肩を落とすリィンを見て、俺は思い出した。
そういえば言ったな、この依頼が終わったら……って。死亡フラグではなかったけど、その約束は果たせなくなっちゃったのか。
それは申し訳ないので、今度何かの形で埋め合わせはしようと俺は考えるのだった。