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プラスはプラスだし……

「デモンソルジャー……の、苗床を討伐したと?」

「はい」


 苗床を完全に破壊し、帰ってきた俺は早速ギルドに討伐の報告をしに来た。

 デモンソルジャーを倒した証としていくつか魔物の爪などを渡して討伐報酬をもらって、そのついでの報告に受付の人は眉間に皺を寄せて唸っていた。


「うう~ん……」

「あの、何か問題とかありましたか……?」

「あ、いえ、そうじゃなくてですね。デモンソルジャーがどこで繁殖してるのかはこの辺りのギルドでも議論されてまして。それによるものと思しき行方不明者もかなりの数でしたので、金貨50枚ほどで発生個所の特定依頼が出されておりまして」

「金貨50枚!!?」


 場所を見付けるだけでそんな大金が手に入ったとは驚きだ。それだけあったら、孤児院のリフォームどころか立て直しすら視野に入れられてしまう。

 本当はデモンソルジャーの撃破で小銭を稼げたらラッキーだな、くらいの気持ちだったのだが、そんなお金が手に入るとはラッキー極まりない。

 ……あ、でも俺そんな依頼受けてないんだよな。もしかして大金を得るチャンスを逃しちゃったのか……?


「その依頼は受けてますか?」

「……、えっと……受けてま……いや、ないです……。場所はちゃんと分かるんですけど」

「どちらです?」

「孤児院の……この川から下っていって、この山のこの辺ですね」


 地図を出され、俺はヴェナと共に向かった山を指差す。だいたいだが、洞窟の場所とはさほどズレていないだろう。

 どうだ、場所は間違いないはずなんだ、頼む! 報酬の方もオッケーという事に……!!


「……なるほど、後日調査の者を向かわせて確認いたします」

「ちなみに発見報酬の方は」

「依頼を受けていないとの話ですので、お渡しできませんね」

「ですよねぇ……」


 ご、50枚の金貨が……。

 ショックのあまり、俺はその場で膝を突いて受付カウンターに顔を落とす。


「ザック、落ち込まない」

「この金額は流石に無理だよヴェナ……」


 ヴェナが俺の肩に手を置いて慰めの言葉をくれる。まあ、流石に立ち直れはしない。

 苗床を破壊した後、ヴェナは俺と一緒にこの街へやってきた。この子の村を途中で見つけたりもできなかったし、そうなるよな。

 今後彼女がどうするつもりかは、また後で話すつもりだ。


「ご安心ください。発見報酬はお渡しできませんけど、後日に討伐依頼自体は出す予定でしたので、その一部とはなりますが討伐報酬はお出しできますので」

「え、そうなんですか!?」

「はい。正式に依頼が出される前ですから本来の1割ほどにはなってしまいますが、確かに」


 1割か。まあ貰えないよりはマシだけど……やっぱり一旦ヴェナと一緒に引き返すべきだったかな。

 でもそんな事してる間にあの苗床に誰かが襲われてる可能性もあったかもしれないし……ここは仕方のない減額だったと考えて割り切るしかないか。


「で、おいくらほど? 金貨10枚くらいかな」

「金貨100枚です」

「ひゃくまい!!!!」


 想像をはるかに超えた額に思わず叫んだ。見付けただけの倍も貰えるのか。それだけあるなら本当に余裕で新しく立て直しできちゃうぞ、孤児院。

 ……という事はやっぱり戻って討伐依頼を受けてたらその10倍の……いかん、これ以上は考えなかった事にしよう。忘れろ俺。


「推定でダイヤモンド級の強さだとの事でしたので。実質的に最上級ランクのような相手ですから、この程度の額はそう驚く事でもありませんよ」

「そう、なんですか……」

「ええ。討伐の事実が確認でき次第ザックさんを改めてお呼びしますので、報酬の譲渡はそれまでお待ちください」


 そう言われ、俺は道中で討伐したデモンソルジャーの報酬として銀貨140枚を受け取ってギルドを出た。

 街に出ると、ヴェナは俺に並んでついてくる。


「あの魔物、強かったんだね」

「ああ、うん。ダイヤモンド級なんだって」

「ザックは、それより強いんだね」

「うん、シルバー級だから」

「……すごいね、ザック」


 ヴェナは、滝の所で見せてくれたような笑顔をまた俺に向けてくれた。

 ……この笑顔を守れたのは本当に喜ぶべきことだ。結果的に報酬は大幅に減ってしまったが、この笑顔だけできっと金貨900枚以上の価値はあっただろう。


「……あったかな。いやいやいや! 駄目だ! これ以上考えるな!! 人の命よりお金を優先させるな!!!!」

「え、どしたのザック」

「……いや、なんでもない。なんでもないけど、よかったらヴェナ俺の事殴ってくれないか」

「なんで。殴らないよ」


 大金を失ったという事実に一瞬不埒な事を考えてしまった。いや、失ってはいないんだけど。


「……それより、ヴェナはこれからどうする? 村に帰るって言うなら探すの手伝うけど」

「ううん。帰ってももう魔物に荒らされてるし、きっと住めなくなってるから、いいよ」

「……そっか」


 彼女もやはり帰る場所がないのは分かっているのだろう。表情の変化は少ないが、きっと心の内は暗いはずだ。

 ここまで行動を共にして分かったが、この子はあまり表情を変えないのだ。本当に強く感情が動いた時しか、表面には出ないのだろう。

 今も大きく表情は変えていないが、きっとそれは内心を隠すためだ。本当は帰る場所も住む場所もなく、ひどく不安になっているに違いない。

 だとしたら、俺にはこうするしかない。


「ヴェナが良かったらなんだけどさ、うちの孤児院に来ないか?」

「いく」

「うん、ヴェナはまだギリギリ子供だと思うし、行く当てがないってならシスターも納得……早くない!?」


 まだ途中だったのに、ヴェナは即答した。ちょっと早すぎない?


「いや、ちゃんと話を聞いてから決めた方がいいと思うけど……」

「ザックのいるとこでしょ、ならいく」

「お、俺? 住んではいるけど、なんでそれだけで」

「だって」


 驚くほどのフットワークの軽さを見せたヴェナは俺の腰に抱き着いてくる。気付けば、彼女の髪色と同じ銀色の尻尾が俺の足に巻き付いてきていた。


「ヴェナ、ザックのこと好きになったから」

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