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狼の少女 ヴェナ

 夜が明けた。

 結局女神様もヴェナをどうすればいいとかのアドバイスをしに来てくれなかった。

 一応うやむやにしてそのまま寝るのには成功したが、どうにか向こうもこのまま流れで忘れててくれたりしないだろうか。


「ザック、おはよう」

「お、おはようヴェナ」

「何してほしいか決めた?」

「うわあ全然忘れてない!!」


 ヴェナはしっかり覚えていた。俺よりちょっと年下くらいの子みたいだが、物覚えが良くて感心感心。

 ……感心してる場合じゃないかもな、このまま今日一日ずっとこんな調子でこられたりしそうだ。


「……ってあれ、ヴェナ、もしかしてもう治ってる?」


 遅れて、俺はヴェナが普通に立ち上がっているのに気付く。

 デモンソルジャーに深く噛まれていた足の包帯は強く血がにじんでいるものの、気にした様子もなく彼女は2本の脚で直立していた。


「うん、もう歩くのは平気。ごはん美味しかったし」

「そっか、それはよかった」


 治療薬の効きがいいのか獣人であるヴェナの体質なのだろうか、とても痛々しく見えた傷はもう容易に歩けるほどに回復しているという。

 しばらくこの場所で足止めする必要があるかとも思っていたのだが、俺にとって嬉しいニュースが聞けた。これならきっと俺の服も何着かは無事に残っている事だろう。


「……でもだからってこんな所に置いてくわけにもいかないし、どうするかな」


 歩けるようになったのはいいが、となると今度はヴェナをどうするべきだろうか。

 俺としてはこのままデモンソルジャーの巣まで向かいたい所だけど、ヴェナを連れてくべきじゃないと思うんだよな。確実に危ないだろうし。

 いっそ孤児院まで戻って保護してもらうのもアリだとは思うけど、来た道を引き返し始めたら女神様になんか言われそうで怖い。

 ルート的にはデモンソルジャーから遠ざかるわけだし、ヴェナに道だけ教えて1人で行かせるのも……いや、歩けるってだけだし危なすぎるだろ。俺は出会わなかったけど盗賊とかに見つかったら何されるか分かったもんじゃないぞ。

 う~ん、悩ましいな。


「ザックはどこ行くつもりなの?」

「え? 俺はデモンソルジャーの苗床を探して破壊するために旅してきたから、あっちの方に行くつもりなんだけど」


 そう言って俺は川の先を指差す。多分、それは彼女が逃げるために通ってきた道だと思う。


「そんな方にヴェナを連れてくわけにもいかないし、どうしようかなって。速く安全な所に行きたいだろ?」

「ふーん、あいつら倒しに行くのか」

「うん」


 俺の肯定にヴェナは悩むような顔をする。

 この子としても難しい話だろう。俺といれば道中は安全かもしれないが、最後は魔物の巣のど真ん中に突っ込むし、俺と別れれば不意に敵が襲ってきた場合は危険だし。

 最終的な判断はヴェナ自身に任せたい所だ。女神様は怖いが、彼女が街の方まで行きたいというなら俺も引き返して守ってあげたいとも思う。


「じゃあヴェナも一緒に行く」

「えっ」


 が、返ってきたのは思わぬ答えだった。俺についてくるというのか。


「無理しなくていいよ。ヴェナが安全なとこに行きたいなら俺も引き返してもいいからさ」

「ううん、ザックのこと手伝う」

「……敵討ちって事か。気持ちは分かるけど、危ないよ。デモンソルジャーはゴールド級の魔物だし、ヴェナだって昨日殺されかけてただろ?」

「数が多かっただけ。ヴェナ、強いよ」


 両拳を握って胸の前で構えるヴェナ。強さのアピールだろうか。

 でも魔物3匹に囲まれて絶体絶命って感じだったけどな……。俺についてくるために意地を張っているようにも見える。

 あ、けどその後に俺の剣でデモンソルジャーを倒したりもしてたし、実力はちゃんとゴールド級相当にはあるのかもしれない。


「……不安だけど、分かった。でも怪我してるって事は忘れないでね?」

「うん」


 無力ではないというのを信じ、俺はヴェナを同行させることにした。家族を殺されたのだというし、その無念も晴らさせてあげたいと思ったからだ。

 といっても彼女は手負いなので俺もフォローは忘れないようにする。復讐に囚われては視界が狭まってしまう事だってあるだろう。

 こうして俺はヴェナと共にデモンソルジャーの苗床を目指す事になったのだった。

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