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ただいまシスター!

 孤児院に戻ってきた俺は、入口の扉の前でため息を吐く。冒険者として活躍する前に仲間外れにされた事が今になってひどく情けなくなってきたのだ。

 今朝はギルバーたちと一緒にここを出て行く時、俺はシスターに「期待しててください!」という感じの目線を送ったのだ。

 どこまで伝わったのかはともかく、彼女は微笑んで頷きを返してくれた。その時「無事に帰ってきてください」と言われたが、ここまで傷一つなく帰る事になるとは想定していなかった。すごく恥ずかしい。

 できる事ならこんな場所からは逃げて、家に帰りたいとすら思う。いや、ここが俺の家ではあるんだけど……。


「あら、ザック? お帰りなさい、どうしたのですか?」


 そんな事を考えていると、背後で聞き覚えのある声がする。

 振り向けば、そこにいたのはこの孤児院を一人で運営しているシスター、アーレットがいた。金髪の綺麗な人で、今は水を汲んできた帰りなのか両手に木製のバケツを持っている。

 勇んで出て行った俺が戻ってきたのが不思議なのか、きょとんとした顔を向けている。


「あはは……その……、も、持ちますよ、それ」





「……あらあら、そんなふうになってしまったんですね」


 中に入り、シスターの持っていたバケツを彼女の代わりに厨房に置いてくると、俺は冒険者ギルドでの顛末を話した。

 恥ずかしい事この上ないが、変に隠して後からバレてしまった場合を考えれば、この方がダメージは少なく済むと考えたのだ。

 俺の話を聞き、シスターは困ったようにくすくす笑う。


「す、すみません……。この歳まで育ててくれたシスターに、金銭面で恩が返せるかなってやる気満々だったんですけど、俺だけみんなより弱いみたいで」

「うふふっ、気にしてはいけませんよ。お金も嬉しいですけど、私はザックが怪我せず帰ってきてくれた事の方が嬉しいんですから」


 笑顔でそう言ってくれるが、シスターの顔が直視できなくなり、俺は俯いてしまう。

 俺が育ったこの孤児院は、ひどくボロい。他のみんなもそうだが、自分達が転生者だという記憶を思い出した時から目にするこの室内は、はっきり言ってしまえば貧乏だ。確認まではとっていないが、みんなそう思った事だろう。

 食事も内装に見合ったもので、前世の記憶を得てからはよく今まで生きてこられたな、と我ながら感心するほどだった。

 そんな環境でもなんとかシスターは俺達を育ててくれた。だからこそ、俺は大金を手にすることも夢ではない冒険者の道を歩もうと思ったのだが。

 一応、ギルバーたちよりも劣るシルバー級でも冒険者としての資格はある。その気になれば依頼も受けられるだろうが、単独、それも俺のランク程度でこなせる依頼ではまともな稼ぎは無理かもしれない。


「あれ? ザック? なんでいるの?」

「ザック……? わ、ほんとだ」


 奥のドアが開く音がして、床を見つめていた俺を見たのか小さな子供の声がする。

 顔を上げると、そこには俺達の後に孤児院へやってきた二人の子供、リュオンとローレナがいた。シスターと同じく、俺がここにいるのが不思議らしい。


「ははは……ただいま」

「ザックはですね、私達と共に暮らす道を選んでくれたんですよ」

「へー」

「そうなんだぁ」


 どう伝えたものか悩んでいると、シスターが俺の代わりに説明してくれた。その優しい言い回しに、思わず俺は泣きそうになる。情けなくもギルバーたちのパーティに入れなかった俺でも、シスターは大切に思ってくれているのだろう。

 二人が納得の声を上げたのを見ると、シスターは俺の方へと向き直る。


「しかし、あなたももう子供ではありません。これからは私と一緒にこの子たちの面倒を見ていくの、手伝ってくださいね」

「……はい、そのつもりです!」


 彼女は優しく、それでいて子供だったこれまでの俺を見るものとは違う微かな厳しさを感じさせる瞳で見つめてくる。

 これから俺は、大人としてリュオンやローレナの世話をしていくのだ。きっと、シスターにも大人としての接し方をされるだろう。

 それでも、これは結果的に彼女の負担を減らす事にも繋がっているはずだ。当初考えていたのとは違う形ではあるが、これも恩返しの一種ではあるだろう。

 そう考えて、俺はこれからの代わり映えしない、それでいてどこか新しい孤児院での生活が始まるのだった。

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