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なんか懐かれちゃった

「ヴェナね、ヴェナって言うの」


 狼耳の彼女の名前はヴェナというらしい。彼女を抱えて川まで行き、怪我の手当てをしている最中に教えてもらった。


「そうなんだ。ヴェナはどうしてこんな所にいたの?」


 脇腹と足を包帯で巻き、とりあえずの処置はできたので俺は聞いてみる。

 するとヴェナの表情は暗くなった。


「ヴェナの村にね、あいつらが来たの。みんな死んで、パパとママに逃がしてもらってヴェナはここまで来たの」

「デモンソルジャーが……。君のお父さんとお母さんはどうなったの?」

「たぶん、死んじゃったよ。あいつらに囲まれてたし、ヴェナにもいっぱいついてきてたし」

「そっか……それであんな怪我を……」


 可哀そうに。多分この先、もしくは山の向こう辺りにこの子たちが暮らしていた村があったのだろう。

 群れをなしたデモンソルジャーは非常に凶悪だと聞いている。ヴェナたちがどれぐらいの強さだったかは分からないが、なすすべもなかったのだろう。

 こんな被害を出す恐ろしい魔物、やはり放ってなどおけない。一刻も早くその根源を断つべきだという認識を俺はより強くする。

 ……それにしても女神様はもうちょっと早くこういう魔物の存在を教えてくれないかな。そしたらもう少し被害も減らせただろうし、この子の村も救えたかもしれないのに。


「うん。でもありがと、助けてくれて。お前、なんて名前なの?」

「俺はザックだよ」

「ザックか。じゃあザック、助けてくれたお礼はどうしたらいい?」


 かなりの負傷をしているはずのヴェナは真剣な目でそんな事を聞いてくる。

 いやいや、お礼って。こんなボロボロで住む場所すら魔物に奪われたような子からそんなの期待してるわけないだろ。


「いいよ、そんなつもりで助けたんじゃないし。それよりヴェナはどっちかっていうと自分の心配した方がいいよ。家とか帰れないんだろ?」

「魔物に壊されたと思う。でも助けてくれた人に何もしないの、ヴェナはやだよ」


 彼女の意志は固いようで、何が何でも俺にお返しがしたいようだ。

 そう言われてもなあ。物とかお金を貰うにしてもヴェナは大した装備もしていない薄着だし、お金だってあるようには見えない。

 他に要求できる物って……。まあ考えつくのはもう1つくらいあるけど、1番ないわ。少なくとも怪我してる子に言うような事では絶対にないし、確実に女神様にぶっ殺される。

 俺としては断るか、どうにかうやむやにする方向で話を持っていきたいが、どうしたものか。

 そんな時、ヴェナの腹が音を響かせた。……ちょうどいい、これを利用しよう。


「……それじゃあ、しっかりご飯を食べて早く元気になってもらおうかな。それが俺へのお礼って事で」

「ばかにしてる?」


 なんとか丸め込もうとしたが、思いっきりヴェナに白い目で見られた。

 ど、どうしてだよ……これが一番無難じゃん……。

 しかしこのままゴリ押すしかない。本当に俺は見返りとか求めてなかったんだから。


「ほら、これ。リィンが……俺の仲間なんだけど、その人が干し肉用意してくれたんだ。パンもあるから、食べようよ」

「……」


 彼女の言葉は聞かなかったことにして食べ物を差し出す。

 不服極まりない顔をしてはいたがお腹が減っているのは事実らしく、受け取りはしてくれた。

 ヴェナはしばらく俺が渡したパンと干し肉を眺め、観念したかのようにかじりつく。


「……おいしい」

「……よかった。早く元気になってくれよな」

「でもこんなのお礼の内に入んないよ。もっとザックの役に立つことさせて」

「えー」


 うまくまとめられたつもりだったが、まるで納得してもらえていなかった。

 こんな時って、どうするのが正解だったんだろうか。教えて女神様!

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