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処刑島の受付嬢

『到着しました』


 バハムートの高速飛行であっという間に俺たちは処刑島へ降り立った。

 神聖剣に操られた人たちが大挙してやってくる前に勝負を付けたいから有難い限りだ。まだ本当に行くか迷っていたらそうでもなかったかもだが、今はそんなの解決してるしな。


「……ここに、銀の災厄が」


 災厄の住まう処刑島、それは小高い断崖に囲まれた孤島。島の南側は斜面の先に砂浜が広がっているから、海を渡る場合はここからになるな。

 その砂の坂道を登り切った場所にバハムートは停まった。周囲は背の低い草が生えている草原と、砂浜から一直線に進んだ先に大きな洋館が見える。

 あれが銀の災厄の居城なんだろう。


「あと、カトレアさんもいたぜ」

「お菓子おいしかったよね」


 俺の発言にリィンとヴェナが付け足す。

 そうか、そういえば銀の災厄の偽物と戦った時にカーナ以外の3人は1度、ここに訪れたことがあったんだった。

 前回は協力を要請しに、だったが今回はその逆。彼女の夫である銀の災厄を殺しに来たのだ。

 ……となると、カトレアさんとの戦闘も考慮に入れないといけないのか。


『……やっぱり、怒るかな。お嫁さんなんだし、黙ってるわけないよね』


 シックスもその結論に至ったようで、声のトーンを落として呟く。

 旦那はともかく、あの人はけっこういい人だってみんな知ってるから気まずそうな顔だ。


「ジル、ちなみにカトレアさんの炎は……」

『……聞くなよ。ビスクが言うにはレゼメルよりヤベぇんだろ』


 そして、その力をよく知る俺とジルはもう頭を抱えている。やっぱジルも無理みたいだし。


「……そういえば勢いで処刑島まで直行しちゃったけど、みんなの分の依頼は受けてなかったな」


 なんだか早くも詰みの予感がしてないでもないが、そんな中俺は現実から逃れるかのように別の事を思い出した。

 銀の災厄討伐の依頼を受けたのは俺だけ。みんなは孤児院へ置いて行こうとしていたので、リィンたちは受けていないことになってしまってる。

 まあ別にそれで困りはしない。俺も依頼を受けていなければ報酬が貰えなくなるくらいだが、そこは心配いらないしな。

 ……でも銀の災厄の前にカトレアさんを超えられなさそうだし、うまい事これを理由に帰ったり……できない?


「べ、別に逃げるとかじゃないんだけど……これが最後の依頼になるかもしれないし、どうせだったらちゃんとみんなで依頼を受注しておきたいなー。……ホント、逃げるとかじゃないんだけど」

「あー、それなら心配いらねえぜ。ここにもギルドあるんだよ」

「嘘だろ……」


 退路を塞ぐかのようにリィンがそんなことを言う。あるんだ……銀の災厄の居城なのに。


「人もいたよ」

「いるんだ……。その人なんか悪い事でもしたの?」

『なんだっけ、悪事とか、告発……? みたいなこと言ってたからそうなんじゃない?』


 うろ覚えみたいだが、俺が言った通りみたいだな。

 ギルドで悪事を働いた人がその罪を告発されてこの地に、文字通り島流しされたわけか。


「こんな所に追いやられるってことは相当の極悪人……? リィンたち、なんか変な事されなかったよね」

「変? ……んー、別になんも。そんなに悪そうなやつでもなかったし」

「いい匂いしたよ」


 あれ? 思ってたのとは違う反応だ。2人の印象はシックスとは違うらしい。


「ま、まあ行ってみればわかるか……」

「ん? なんだ、銀の災厄と戦うのではないのか。もしや、逃げるのか?」

「ちちち違うし! ちょっと寄り道するだけだっての!!!」


 館に直行しないのが不満なようだが、ビスクはなんで勝手についてきただけなのにここまで偉そうにしてるんだ。

 まあ壁としてそこそこ優秀なのでバハムートから降ろそうとしなかったのは俺なんだけど。


「そうですね……。わたくしたちのさいごの想い出、……さいごの依頼ですから……」

「うん確かに俺もそうは言ったけど、ならないようには頑張ろうね……」

「なんだ、そういう事か。それなら早く行くがいい。私はここで待っていてやろう」


 なんか後ろ向きな方向の覚悟を決めてそうな顔のカーナを見て、ビスクは勝手に察したようで、腕組みしてここに残る姿勢になった。

 カーナはともかく、こいつも俺たちが殺されるの前提でいるっぽのはちょっとムカつくな……勝ち目が全く見えてないのは事実だけど。

 そんなわけで俺たち5人は処刑島の冒険者ギルドに寄ることにした。






「ふっふふーん♪ きょーおはお魚いっぱい~♪」


 バハムートから降りて崖沿いに西へ進んだ先に小さな冒険者ギルドがあった。

 扉を開けると、いきなり上機嫌な女性の声が、っていうか歌声が響いてくる。ここの受付嬢……なのかな。


「えっ、君は普通のお魚さんだって? 大丈夫! 心配しなくってもこのイリスちゃんの特製ソースをかけたら一瞬で……あ」


 ギルド内には彼女しかいないようだ。テーブルの一角には色んな魚の料理が並べられている。

 焼き魚に話しかけた彼女は踊るように体を一回転させて、特製ソースなるものが入ったボウルを手に取って……そこで俺たちと目があった。


「……えっと、は、はじめまして、イリスちゃん……さん」

「……いらっしゃいませ……」


 その、なんていうか、第一印象は愉快な人って感じだ。

 島流しにされた人だって言うからもっと見るからに邪悪そうな人物像を思い描いてたけど、これなら確かに悪い人でもないような気がしてくる。


「あ、いい匂い」


 匂いに釣られて前に出てきたヴェナを追うようにして、俺たちもギルドに入っていくのだった。

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