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災厄を殺すのは

 気が付くと、朝になっていた。

 俺の返答を待ちもせず、女神は夢の中から消えていってしまったのだ。


「銀の災厄を、俺が……」


 ――俺を殺してみろ。

 あいつは消え去る直前にそう言っていた。シスターを守りたいなら、誰も死なせたくないなら、戦えと。


「……、無理じゃないか?」


 しかし俺は考えた結果そう結論を出す。不死身で、超常的な力を持つ聖剣すら意に介さない相手をどう討てというのか。

 そもそもあいつ、返事を聞きもしなかったんだよな。ああ言ってはいたが、「できるものなら、だけどな」って雰囲気を思いっきり出してたし。

 ……もう向こうも諦めてたりするのかもしれない。ジルには一応隠し玉があるらしいけどそこまで自信なさそうだったしな。

 やはり、今出せる結論としては「銀の災厄を殺せる手段はない」ということにしかならない。

 1回、2回はどうにかできても、銀の災厄は不死なのだ。死なない相手を完全に殺せる力でもなければ話にならないだろう。


『あぁ? んだよ、やる前から諦めようってかぁ? 勝てねぇからって何もしねぇでいたら皆殺しだぞ?』

「それは、そうなんだけど」

「……? ザックさま……」


 俺の声で目が覚めてしまったのか、一緒に寝ているカーナが名前を呼んでくる。


「……もう少し、考えさせてくれ」

『……まぁ、俺も無理強いはしねぇよ。だが決断は早ぇ内にな』


 ジルはそう言って静かになる。

 こんなこと、とても寝起きの頭で決められるような話じゃない。カーナを寝かしつけ、俺はもう少し目を閉じて、どうすべきかよく悩んでみることにした。







「よし、じゃあ行くぞローレナ!」

「うん……!」


 時間はあっという間に過ぎて、いつの間にか朝食の時間になっていた。食事中もずっと俺は銀の災厄と戦うのかどうかを考えていたせいでちゃんと味が分かんなかったな……。

 とか思っていたら、素早く食べ終えた2人が立ち上がってどこかへ行こうとする。


「お、なんだ、どっか遊びに行くのかい? そんな急ぐ事ぁないだろうに」

「ちがうよ、街のみんなと一緒に銀の災厄を倒しに行くんだよ!」

「ッ!!」


 思わず、食べていたものを喉に詰まらせるところだった。リィンたちも、未だにそんな事を言う2人に言葉を失っている。

 ……リュオンも、ローレナも。その眼は本気のようだ。誰も止めなければ孤児院を飛び出して、そして街の人たちと共に、処刑島へ行ってしまうのだろう。


「……お待ちなさいリュオン、ローレナ。街の方々と共に戦いに行ったとして、あなたたちに戦う力はあるのですか?」

「わ、わからないです……。け、けど! 力を合わせて戦わないと、って神様が言ったから」

「その神様と言うのは先日聞こえた声の事ですね。確かにああは言っていましたが、2人のような子供が行く必要はないのではないですか?」

「だめだよ! みんなで団結しないといけないんだから! ていうか、シスターも一緒に行こうよ!」


 名案を思い付いた、とでも言いたそうな顔でリュオンはシスターの方へ来て手を握る。

 まるで全員で行けば銀の災厄に勝てるかのような素振りだ。当然そんなことはないんだろうけど。

 今のリュオンとローレナは、そして世界中のほとんどの人が神聖剣の散り際の「声」を聴いてこんな状態になってしまっているんだろう。

 そして、放っておけば無策に銀の災厄に挑み、その全てを殺した上で銀の災厄が残った人間を皆殺しにする。

 ……。やっぱり、考えるまでもない事だったのかもな。


「リュオン、ローレナ。お前らはそんな事しなくていい」

「……ザック?」


 シスターの手からリュオンの手を離させ、割り込むように俺はリュオンの前に立つ。


「で、でもさあザック! 俺たちが戦わなかったら、誰が銀の災厄を倒すんだよ!!」

「……。おいおい、そんなの、聞くまでもないだろ? だって――」


 深呼吸して、俺は2人へ向けてちょっとした話をする。おおー! と声を上げて、どちらも納得してくれたようだ。

 ……シスターを含む他の5人は、また絶句させちゃったけど。

 でもこれ、もしかして使えるやり方なのかも?







「……おお! 勇者の……ザック様ではありませんか!!」


 どうにかリュオンとローレナを孤児院へ残らせることに成功し、そのまま俺は街へと出た。

 ギルドの前には昨日以上の人が集まっていて、本当に街の住民が全員集結してるんじゃないかと思うほどだ。

 そして、そんな彼らは俺の姿を見ると、昨日と同じく集まってきた。


「もしや、我らと共に銀の災厄を討伐してくださる決意を!?」

「……ふん、誰がそんな事をするか! どけどけ!!」


 乱暴に手を払って道を開けさせる。案外素直に道は譲ってくれたので、俺はそのままギルドの中に入る事ができた。

 掲示板まで真っすぐ進み、1つの依頼の紙を見る。


「なんだ、あんなことを言って、やはり一緒に来てくださるんじゃないか」

「ハハハ、勇者様も人が悪い」


 素早く取ってしまおうかと思ったが、これを手に取ればもう引き返せないのか、と思うと体が震える。

 ……が、意を決して依頼書を掲示板から引っぺがし、そのまま受付へダン、と叩きつけた。


「! ザックさん、この街の皆様と、行かれるのですか?」

「――キャンセルだ」

「……はい?」


 言いたい事が伝わらなかったのか、受付の人が俺に聞き返してくる。


「ここに来てる全員、銀の災厄を討伐するのには邪魔だ。こいつらは、ここに残らせる」

「な、何だって!?」

「いくらこの街を救った勇者様でも、たった1人で銀の災厄に挑むなど……!」


 周囲の人間が口々に騒ぎ立てる。

 そうだ、俺は1人で銀の災厄と戦う。この場にいる誰も、巻き込ませるつもりはない。


「ほ、本当にお1人で? 『銀の孤児院』の皆様でも、危険が過ぎるかと思われますが」

「大丈夫、俺だけでいいです。……あとできれば、他の町とかのギルドなんかにも誰も来ないように通告してください」


 当然だが、リィンたちだって巻き込むつもりもない。戦うのは俺だけだ。……って言ったらみんなは納得いかなそうな顔をしてたけど。


「そんな……我々も一緒に行った方がいいのでは!?」

「そもそも、勝算はあるのですか!?」


 そしてここに集まった住民たちも納得いかなそうに粘ってくる。

 ……仕方がない。彼らを諫めるため、俺は一旦ギルドの外に出て、街全体に響き渡るような大声で叫ぶ。


「お前らは全員ここに置いていくッ!! 実力不足の足手まといなんて必要ないッ!!! 戦うのは俺だけ……銀の勇者、ザックだけだッ!!!!」


 そうだ、冒険者のランクで言えばせいぜいブロンズか、どれだけあってもゴールド辺りが限度の一般人なんて連れて行く価値が無い。意味もなく銀の災厄が殺して終わりだ。

 ここで冒険者として活動しているやつらだって同じ。プラチナ以上のランクのやつはほぼ皆無。付いて来られたからって、邪魔にしかならない。


「……た、ただ1人で、銀の災厄を倒せると言うのですか? 相手はあの、シルバー級の」

「――おいおい、忘れたのか? 俺ならできるだろ。だって――」


 そう、相手は本来、唯一のランクを持つ者。……本来は。

 シルバー級は、この世界にもう1人いる。

 俺はここぞとばかりに、リュオンとローレナにも言ったことを高らかに叫ぶ。


「だって俺は、S級冒険者の、ザックだからだッ!!!!!」

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