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悪魔の苗床を破壊せよ!

 俺はその日の朝、孤児院での仕事を済ませると手早く冒険者ギルドへ向かった。

 せっかくだから、これから女神様が倒して来いと言った魔物の討伐依頼がないかどうか探しに来たのだ。


「ザック、これじゃないか?」


 掲示板に張り出されていた依頼書の一枚。一緒に来てくれたリィンが事前に教えておいた魔物の特徴と一致するものが討伐対象の依頼を見せてくれる。


「デモンソルジャーって言うのか……これだな」


 依頼書には毒々しい紫色の表皮と頭に巨大な口だけが生えた手足に長い爪を伸ばした魔物の絵が描かれている。

 それはデモンソルジャーと呼ばれているらしい。女神様から聞いていた特徴と近く、発見された地域も孤児院の南方側の地域だ。

 デモンソルジャーはこの街から山を一つ挟んで反対側の地域で主に生息していたらしいが、最近になって山を越えてきたのか、徐々に北方面へと勢力を拡大しつつあるらしい。

 依頼目標は当然デモンソルジャーの討伐。可能なら殲滅を希望している。討伐した数に応じて報酬が支払われるようだ。

 俺は早速その依頼を受けた。標的そのものは魔物を産み出す苗床の方なのだが、道中で狩っていけばいくらかは金になるだろう。


「……なあザックー。それってあたしもついて行っちゃだめなのかよ?」


 受付で正式に依頼を受けた俺の服をリィンが引っ張ってくる。来る途中で伝えたが、自分が孤児院で留守番するというのが納得いかなかったのだろう。


「ごめん、もしかすると俺がこいつらを倒してる間に何匹かが孤児院に行くかもしれないし、念のため残っててほしいんだ」

「でも生息域っぽい所とは結構距離あるぜ? 勢力を伸ばしてはいるみたいだからあと2、3か月もすりゃあ危ないかもだが、今なら一緒に行ってもいいと思うけどな」

「念のため、ってことで頼むよ。俺がこいつらの苗床を破壊してくるまで待っていて」

「……朝に「依頼を受けに行く」って聞いた時はザックとの初コンビ、楽しみにしてたのになー。……ちゃんと早く帰って来いよな」


 不満というのを隠しもしない返答だが、一応了承はしてくれたみたいだ。

 俺としてもリィンがどれほど強いのか一緒に戦って確認してみたくはあったが、魔物の見つかった場所からして万が一という事はある。

 女神様も全知全能は名乗っていたのでそういう危険を見落としたりしてはいないと思うが……それでも今回は安全策でいきたい。


「……ごめんなさい。でもこの依頼が終わったら、次は俺達2人で一緒に何かの依頼をこなそう」

「へっ、そう言われちゃあたしも張り切るしかないか。孤児院の事は任せときな!」


 今後の埋め合わせをするという約束でリィンも機嫌を直してくれたようだ。流石に気分で腕が鈍るような人ではないと思っているが、これで安心だ。

 ……でも今の俺のセリフってめちゃめちゃ死亡フラグじゃない? え、俺死ぬのか?


「……ところで、よくこの魔物に苗床なんてもんがあるって分かったな。依頼書にはそんな文言どこにもないってのに」

「それは、まあ、そういう情報を得ましたので、それでこの依頼を受けようかなと思いまして……」

「おお、ちゃんと自分で情報筋まで見付けてたのか! いいねえ、そういうのは冒険者やってく上で大事だよ!」


 夢で女神様に教えてもらいました、とか言うのは変な奴だと思われかねないので俺は誤魔化しつつ答えた。

 リィンはしっかり褒めてくれたけど、見付けてきたっていうか向こうから俺に目を付けてきたんだよな。





 そんなこんなで俺はリィンから長旅に必要な物などをアドバイスしてもらいながら旅の支度を整えた。

 とは言っても行くのに1週間、帰って来るのに同じ程度の日数がかかるだろうと言う推測を立てただけなので、実際はもっと早く帰って来られるかもしれない。

 出発の直前、シスターたちみんなが俺の見送りに来てくれた。


「気を付けて行ってきてください、ザック。あなたが怪我せず帰って来るのが私にとっては一番嬉しいんです。怖くなったら途中で帰ってきてもいいんですからね」

「心配しすぎですよシスター。そんなに強い魔物じゃないんですから、ちゃんと倒して帰ってきます」

「なんかめずらしーものあったら持って帰ってこいよな!」

「し、しんじゃやだよ……?」

「ああ、リュオンとローレナも怪我とか病気しないように気を付けろよ」

「……なあザック。行く前にこれだけは言っとくな」


 各々俺に声援を送ってくれる中、最後にリィンは真剣な面持ちで俺を見つめてくる。


「ど、どうしたんですか?」

「……さっき練習がてらお前の服を洗濯してたんだけど、力加減よくわかんねーから、破れちまった」

「…………。うん、できるだけ早く帰ってくるね」

「頼んだぜ。あんまり遅いと、今後ザックは全裸で過ごさなきゃいけなくなっちまうからな」

「どうして執拗に俺の服を洗おうと思ってるの!?」


 脅しなのか懇願なのかよく分からないが、時間をかけすぎたら俺もリィンも孤児院も大変な事になってしまいそうなのは伝わってきた。

 デモンソルジャーを討伐し、そして素早く苗床を破壊しようと俺は強く心に決めながら旅へ出て行くのだった。

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