闇を照らす炎
『あ……この扉』
「ついたかな」
シックスとヴェナの道案内に従ってしばらく。俺たちは扉の前までやって来た。
俺とリィンとカーナは真っ暗だからよく見えないものの、2人の反応を見るに上位聖剣の待つ部屋への扉っぽい。
「はぁ、はぁ、こ、ここが、そう、なんだね……」
ちなみに長い事シックスをおんぶして歩いてきたので、俺の方はもうかなり疲れ気味だ。
『……ここからは流石に甘えてらんないかもだし、降りるね』
戦う前から限界になりかけてたのを察してくれたかのようにシックスは俺の背中から降りる。
すごい、まるで急に体が軽くなったような気分だ。
「か、解放されたぁ……!」
『ちょ、何よその反応。……や、分かってはいるけど、私だってこんな体でも女の子なんだからね! 重かった、みたいな感じ出さないでよ!』
「ああごめん。……でも、俺は適度に体重あった方が好きだよ。健康なんだなって思えるし」
『ちーがーうーのー!! そういうのも言っちゃダメなのー!!』
怒られてしまった。確かに俺もちょっと思った通りに言い過ぎたかもしれないが、軽かったと言えばどうしたって嘘になっちゃうからな……。
孤児院に帰ったら、リィンにでも頼んで筋トレとかしようかな。シックスに限らず誰かを背負う場面も増えてきてるし、俺はもっと体を鍛えた方がいいのかもしれない。
とか考えながら、次なる聖剣に挑む前のリラックスもできたので俺は扉に手をかけた。
「よし、行こうか。……ここが終われば、残すはあと1本だ」
みんなの頷く気配を感じ、俺は扉を押し開ける。
先に続く空間もここまでと同様、広く闇が覆い隠していた。
「……お、明かりだ」
真っ黒な部屋の中、奥の方には俺の待ち焦がれていた小さな光が。
祭壇の上にある台座に突き立てられた剣、その刀身が赤熱しているかのような輝きを放ち、時折火の粉を舞い上がらせていた。
闇の中に浮かび上がるその姿はか細い焚火か、ろうそくの火のように儚くも見えるものの、ずっと暗がりを進んできた俺たちには心を落ち着かせるには十分な光量だった。
『……分かってるたぁ思うがザックよぉ、あれが聖剣だからな?』
「わ、分かってるって」
ナビゲーションがあったとはいえ足元すら見えない状態が続いてて、俺がこの輝きにホッとしているのがどう映ったのか、ジルにそう念押しされてしまう。
「せっかく見つけた明かりではあるけど、破壊しないとな」
ジルを抜き、俺は熱を帯びているらしき聖剣へと近付いていく。
例によって何が起こるか分からないので、まずは俺だけ。みんなには入り口付近で待機してもらい、どんな力を持つ聖剣なのかを見極める。
そんな俺の判断は、どうやら正しかったらしい。
『来たか、神に近付かんとする者よ』
進んでいく俺を感知したように、赤熱する聖剣は声を発した。荘厳で威厳あるような喋り方は、まるで王族か何かかと思わせるような力強さがある。
そして、聖剣の周囲を舞う火の手が激しくなる。火の粉は瞬きの間に火炎の渦を作り出し、聖剣を覆った。
だんだんと渦の中で人の形が作られていき、少しして炎が収まると、渦の中には赤熱する聖剣を握る男の姿が。
炎をそのまま纏ったかのような赤い衣服に、時折赤熱する灰色の髪と、溶岩のように赤く滾った瞳を持つそれは、間違いなく聖剣の化身だ。
「やっぱりもうビスクが起動させてたのか!?」
『いや、ドアはしまってたみてぇだから、最初っからコイツは動いてたんだろうぜ』
『貴公らの存在は「時」より伝達があった。今頃、「月」も目覚めていよう』
時、というのは……時空聖剣の事か。ロルカ・ノガはやられる直前に他の聖剣へ俺たちの存在を報せていたのかもしれないな。
「へぇ、ってえことはその「月」とか言うのがあと1本って事かね」
「月の聖剣か……。名前だけだとどんな能力か想像つかないな」
『知る必要もなかろう。貴公らの歩みは、ここで止める』
化身は聖剣を振るう。
その半月状の軌跡には聖剣から放たれる炎が一瞬、燃え盛る三日月を中空に作り上げた。
『この紅蓮聖剣、レゼメルが』




