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闇夜に煌めく銀狼の牙

「マジで……やれんのか、ヴェナ!?」


 リィンの問いかけは闇の中に響き、ほどなくして返答が返ってきた。


「うん」


 いつものような平然とした声。しかしそこにはヴェナの自信が込められているような気がした。


「そっか、やっぱりヴェナにはちゃんと見えてるんだな」

「? ザックたちはみえないの?」

「全ッッ然見えない。やれるって言うならお願いだ、闇夜の聖剣、アグマ・ニムスを破壊してくれ!」


 今アグマ・ニムスとまともに対峙できるのはヴェナだけだ。その彼女自身が「聖剣を壊せる」と言うのなら、頼むしかない。

 俺の叫びと共に、ガァンと何かが叩きつけられる轟音が響く。先程までの床に当たるような音とは違い、もっと別の何かに衝突したような。


「ッ! ヴェナッ!?」

「だいじょぶ。ヴェナに任せて。ヴェナがやるから」

『■■■――――!?』


 ヴェナが斬られたのかと思ったが、彼女の返答と共にアグマ・ニムスの咆哮が。

 何も見えない世界で響くそれはとても恐ろしいが、どこか想定外の事でも起きたかのような動揺が混じっているように聞こえた。

 ギチギチという金属の擦られるような音は、もしかするとヴェナが闇夜の聖剣を掴み、抑え込んでいる音だったりする?


「くうっ、何も見えん! だが確かこの辺りだったはずだ!! おい! いるかザック共!!」


 ……このタイミングでビスクが戻ってきてしまった。どこで復活したのかは知らないが、この階層全体が闇に覆われているんだとしたら大した速度だ。

 ずっと迷い続けてくれていてもよかったのに、ビスクはずんずん俺たちの所までやってくる足音が。


「今はどういう状況になっている!」

「……なんでいちいち説明しなきゃいけないんだよ」


 聖剣の破壊には消極的なこいつにヴェナがアグマ・ニムスを追い詰めようとしているだとか正直に言う気にはなれない。加勢どころか、邪魔されそうだ。

 もし妨害されようものなら「夜明け」が来て、俺たちは全滅してビスクだけが生き残るかもしれないし、絶対に教える気になれなかった。

 が、それはビスクの癪に障ったようだ。


「ほう、貴様がそういうつもりなら……こうしてくれる!」

「ひゃぁぁ……。っ、お、おやめ、ください……」

「おい!! てめぇカーナに何してやがんだ!?」

「む、今のはザックではなかったか。間違えたか、柔らかかったしな」


 やたらと熱っぽい声が聞こえ、ビスクが誤ってカーナに触れたのが分かる。

 ……俺の方が狙いだったようだが、何をする気だったんだ。


「ま、まあそこはどうでもいい!! お前もちょっとは役に立ってこい!!」

「おおなんだ? 勇者として人の役に立つのはやぶさかではないが、この暗さでは……」


 ビスクの首根っこを掴んで、前方に押し出す。

 立ち止まらずにそのまま奥へ進んだらしいビスクは、またも喋っている途中で叩き潰されるような音を響かせて静かになる。

 アグマ・ニムスの、聖剣を握っていない方の手で押し潰されたようだ。

 ビスクは死んで、辺りに光の粒子を立ち昇らせる。


「よし、これで明かりができたぞ!」

『なぁザックよぉ……。……いや、いいか』


 何かを言いかけたジルだがそれ以上は言葉を続けなかった。

 ともかく俺は僅かな光でヴェナとアグマ・ニムスの姿を探す。

 すると、やはり俺が想像していたように、ヴェナは闇夜の聖剣を自分の爪で掴み、闇の巨人と拮抗したような態勢になっていた。


「ヴェナ!」

「……てつだって」


 聖剣を破壊できると豪語した手前だからか、ちょっと申し訳なさそうにヴェナは眉を曲げて俺の方を見てくる。

 任せてくれ、と俺は明かりが消える前にヴェナの方へ走り、聖剣を握るアグマ・ニムスの腕をジルで切り裂いた。


「ありがと!」

『■■■――――!!!』


 これで闇夜の聖剣はヴェナが奪取し、アグマ・ニムスはそれを取り戻すべく残った腕を彼女へ伸ばす。

 だが、俺がヴェナを守りに入るよりも、彼女が手にした聖剣の刃を口に咥え、それをお菓子のように折り砕く方が先だった。

 闇を纏う刀身は破砕し、衝撃で一瞬の火花が散ってヴェナの口元を照らし出す。


『■、■――……』


 合わせてアグマ・ニムスが消滅していく。

 聖剣と同じように体が崩壊していき、部屋の奥の結界もまた黄昏色に強く輝き、ガラスが割れるように飛び散って消えた。


『あ、階段を塞いでたやつもなくなった……?』

『ふぅ、今度こそ勝てた、ってぇ事でよさそうだなぁ、ザック?』

「ま、間に合った……!?」

「やったね」


 闇夜の聖剣を破壊し、アグマ・ニムスとの後半戦で一番活躍してくれたヴェナが俺の元へ駆け寄ってきた。

 まだ辺りは暗いので顔はよく見えなかったが、なんとなく「褒めて」と言いたそうな雰囲気を感じる。

 もちろん、シックスと同じように頑張ってくれたヴェナを、この後たっぷりと褒めてあげたのは言うまでもない。

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