沈む太陽
聖剣遺跡4層の残る聖剣は、思ったよりもあっさりと見つけられた。
例に漏れず広い部屋に安置されたその聖剣は、5層へと続く階段の前にあったのだ。
ただ、階段は橙色の輝きを放つバリアが封印している。聖剣の置かれた祭壇にも同じ輝きを放つ紋様があるため、これがキーになっているっぽい。
『アレをぶっ壊さねぇと先には進めねぇ、ってワケだなぁ』
封印と同じ色の刀身を持つ、橙色の聖剣を見てジルは言う。
6層への道だけでなく、ジルが言うように5層へ向かうにはこの聖剣を破壊しなくてはいけないようだ。
「……よし、それじゃああの聖剣も破壊して、次のフロアに」
「待てザック。そんな無駄な事をする必要はない」
「ビスク……?」
今度はどんな恐ろしい力を持った上位聖剣と戦う事になるのか、意を決して前に出た俺を遮るように、ビスクは俺の前に立つ。
まるで「秘策あり」とでも言いたげだが、一体どんな作戦を思いついたんだ……?
「先の聖剣では活躍どころか参戦すら間に合わなかったようだからな、ここは私に任せるがいい」
時空聖剣ロルカ・ノガと対面する事すら叶わなかったのがショックだったのか、ビスクはずっと俺たちの後をついてきていた。
勇者を名乗っているだけあって、強敵と戦えなかった事をこいつなりに悔やんでいたのかもしれない。きっとこれから名誉挽回する気なんだろう。
「……じゃあ、そう言うなら」
「おいおいザック、マジか?」
『俺もあんま好き勝手させねぇ方がいいと思うがなぁ』
うん、リィンたちの言いたい事ももっともだ。はっきり言って、俺も嫌な予感はするし。
だが死んでもすぐ復活するビスクは下見役には丁度いい。戦闘面では高評価だが、人間面では評価が下がる一方で、心も痛まないし。
そんなわけなので、何かしようというなら罠避けも兼ねてビスクのやりたいようにさせてみようと俺は思う。
「フフフ、物分かりの良い事だ、決して後悔はさせんぞ、ザック!」
そう言って、ビスクは夕焼けのような輝きを放つ聖剣へ向けて走り出した。
「それでー!? どんな作戦があるのか聞かせろよー!!」
「簡単な事よ! この私があの聖剣の主と認められ、その末に封印も解除してやろうというのだ!!」
自信満々に叫び返すビスク。
お前それもうここに来るまでの間に4回失敗してるんだけど。なぜ5戦4敗の戦績でそこまで自分を信じられるんだよ。
『……なぁ、ザックよぉ』
「……何も言うな。俺も早速後悔してるから」
やっぱり止めるべきだったか。また聖剣が起動させられてしまうが、走り出したビスクにはもう追い付けそうもない。
そのまま聖剣へ手を伸ばしたビスクだが、彼女の手に聖剣が渡る事はなかった。
ひとりでに聖剣はふわりと浮き上がり、その刀身を覆うように橙色の光が集まっていく。
「ぬうっ、この輝きは……!」
『な、何……!? ほんとはもう動いてたの!?』
俺たちがここに来る前から聖剣は起動していたのか、巨大な輝く体を構成していく。
それは、上半身だけの巨人だった。床から胴の生えた姿は、それでも見上げなければ頭が視界に入らない。
更に巨人の体から放たれる橙色の光。まるで傾き始めた太陽のような輝きは部屋全体を覆いつくし、地上の光は届かないはずの遺跡内部は、黄昏時のような様相になる。
「ざ、ザック様……! この光、この上なく濃密な魔力を、纏っております……! 長時間浴びるのは、危険です……!」
「そうなのか!? 聖剣の輝きだけあって、ただの夕焼けじゃないんだな……!」
「……なるほど、差し詰め『黄昏の聖剣』とでも言った所か!」
『■■■■■■■――――ッ!!!』
ビスクの呟きを肯定するかのように、黄昏の聖剣は声とも言えないような咆哮を轟かせる。
その音の中には、まるで黄昏の聖剣の銘を伝えるかのように俺たちにも聞き取れるものがいくつかあった。
つなぎ合わせれば、「ア、グ、マ、ニ、ム、ス」と聞こえた。




