時空を操る聖剣
「くっ……!!」
破壊する事ができず、そのもう1つの姿を俺たちの前に見せたロルカ・ノガ。
どうせ攻撃したところでまた時間を巻き戻されてしまえば無意味ではあるが、それでも俺はジルを構える。
『剣はお下げなさい。私に戦闘の意志はありません。……あったとしても、そもこの刃には戦う力などありはしないのですが』
「へぇ、そりゃいいこと聞いたね」
「なら、ヴェナがやるよ」
歯車が組み合わさってできた聖剣、時空聖剣ロルカ・ノガには俺たちと敵対する気がないかのような事を言う。
リィンとヴェナはそれを戦うための能力がないという宣言だと思ったのか、それとも動かない俺の代わりにかロルカ・ノガへと飛びかかった。
リィンの拳と、ヴェナの牙がその手に乗せられている時空聖剣を粉砕、する直前で、驚いたような顔をして2人は着地する。
……顔を見ただけで分かる。きっと、俺と同じように2人は聖剣を破壊したが、時間を巻き戻されてしまったんだろう。
『……? え、どうしたのリィン、ヴェナ? やっちゃわないの?』
「いや、あれ……? ヴェナ、あたし今、ぶっ壊したよな?」
「なんで?」
『言ったはずです、私は時間と空間を操る聖剣である、と』
「ッ!? てこたあ、今のは……!」
その言葉に、リィンもヴェナも察しがついたようだ。
シックスは不思議そうに俺たちを見るが、背中のカーナはちゃんと理解しているような顔をしてるので、多分すぐに教えてもらえるかな。
『で? 俺らと戦う気がねぇってんなら、何のためにその姿見せに来たんだよ。わざわざぶっ壊せねぇのを教えてやるためかぁ?』
『いえ、それも既に言ったはずです。これまで歩んできた時間を見せてもらうと』
「うわあっ!?」
『えっ!? ちょ……何よこれ!?』
『チッ、空間を操る方の力かぁ!? 気ぃ付けろザック、どこに飛ばされるか分かんねぇぞ!!』
ロルカ・ノガは自身の柄を握り、何もない空間へ向けて振るった。
するとそこに、まるで剣閃をなぞるかのような裂け目が生まれ、俺たちは吸い込まれていく。
逃れようにもただ吸引されているだけではないのか、走っても走ってもそこから逃げることはできず、
俺たち5人は謎の裂け目の中へと飲み込まれてしまった。
「ッ、ここは……」
時空聖剣の生み出した空間の裂け目に落ちて、俺は一瞬意識を失い、気が付いた時には聖剣遺跡の外だった。
……いや、正確じゃないかな。聖剣遺跡の外ではあるんだが、ここは……聖剣諸島ですらない。
「……なあジル、お前は何が起こったか、覚えてるか?」
いつものようにジルに話しかけるが、いつまでたっても返事はない。
「……? ジル?」
不思議に思い、手に握っている剣を見る。
「……ッ!? こ、これ」
俺が手にしていたのは、ジルではなかった。よく鍛えられた、普通の鋼の剣だ。
が、それ以上に驚いたのはそこではなく、剣を握る……俺の手の方。
俺の手は、青い色をしていなかった。魔王になる前の、人間の色に戻っていた。
「どういう事なんだ……? なあリィン、ヴェナ。みんなもどうなって……」
聞きながら振り返って、俺は愕然とした。
そこには見知った顔のやつらがいたが、それは直前まで聖剣遺跡にいた4人ではなかったのだ。
それは……。
「リィン? それって俺の事だったりする? ■■■」
首を傾げながら自身を指差す青年。それは俺がかつて一緒に戦った事のある仲間の1人だ。
他の3人もそうだった。狼と、2人の女性。もう昔の事ではあるが、決して見間違えるはずのないその顔。
そして、もう決して出会うことのないはずの4人。
「それより早くトドメ刺しちゃいなよ、お喋りは後!」
「トドメ……?」
少女の言葉に俺は前を向き、足元で膝を突く人物を見て再び驚愕する。
それは、魔王だった。もちろん俺の事じゃない。俺ではなく……俺が倒したはずの魔王なのだ。鎧も仮面も砕け、ボロボロになった魔王がここにいる。
ここまで状況が揃えば、何が起きてこうなったのかも分かってしまう。
これは俺が銀の災厄に勇者として異世界に連れて行かれ、そこで魔王を討つ瞬間の場面だ。
「まさか……過去なのか?」
昔の状況を再現するかのような光景。そしてロルカ・ノガの「時間と空間を操る」能力に、やつが言っていた言葉。
間違いなく、これは時間と空間を遡り、過去の世界に飛ばされてしまったに違いない。
「過去、か。……フ、戻れるものなら、私も戻りたいものだ。そうすれば」
「そうすれば俺たちにも負けなかったって、そう言いてえのかッ!? 認めろよ、お前はもう負けたんだよ、魔王ッ!」
俺の呟きが聞こえたのか、小さく笑う魔王。
「だから認めているだろう。……だが、私が負けたからといって、お前たちの未来は変わりはしない」
……聞き覚えのある台詞だ。確かこの後、俺の仲間がどういう意味か聞いて、それで。
「ああッ!? どういう意味――」
「ッ、ま、待て! ナ」
リィンと同じ、格闘家だった彼の言葉に返すより先に、魔王が動く。俺の持ってる剣を奪って、俺たちを殺そうとしているんだろう。
満身創痍とはいえ魔王を名乗るだけあってこいつは強かった。このまま剣を持ってかれたら俺ぐらいは道連れに持ち込めたと思う。
まあ、あの時は仲間の1人……いや1匹の狼が止めてくれたんだけど。器用に剣を口でくわえて、それで戦う子だったから、魔王を背中からグッサリやって俺たちは勝つのだ。
……でも、そうなってしまうと、俺たちは。
「ッ……」
咄嗟に制止の声を上げるが、そんなものは当たり前のように間に合わなかった。
狼が口にくわえた剣が魔王を背後から貫き、その一撃で魔王は完全に死を迎える。
過去に体験したのと同じ光景。こうして俺は魔王を倒した。
倒して、しまったのだ。




