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乗り越えるためのもう一押し

「ッ、くそっ、これも届かないとは……!」


 死聖剣の力を拡散させる風の聖剣の破壊に乗り出した俺だが、かなりの苦戦を強いられていた。

 ドネの立つ部屋の中で巻き起こる死の風はまさに嵐のようで、付け入る隙が訪れないのだ。

 四隅の聖剣が順番に風を放ち、常に死の力を帯びる黒い霧が渦巻いている。

 何度も俺は飛び込み、せめて1つでも聖剣を破壊しようと試みるが、先に俺が死んでしまう。

 死の風にあたっても数秒は気合で意識を保っていられるが、あと1歩、2歩、どうしてもジルの間合いに届かない。


『幾度の死を迎えても怯まぬその姿勢は見事だった。……だが、もはや打つ手はないと見える』

「それはそっちだって同じだろうが!」


 攻撃と防御を兼ね備えた死聖剣ドネの守りを超えられない。このままではらちが明かない。

 それだけでなく、向こうの策がこれで全部ではない可能性だってある。どこかから、あの死の風をリィンたちの控えた通路側に送り込まれでもしたら、一気に大勢は変わってしまう。

 どうにか突破口を見付けなくてはいけないが、俺だけの力ではもうどうしようもない気がする。


『……ざ、ザック、私が!』

「ッ、駄目だシックス、下がって!!」


 ただ無意味に死んでいく俺を見ていられなくなったのか、カーナを背から下ろしたシックスが前に出ようとするが、手で制する。


『どうしてよ!? 私に任せてくれれば!』

「分かってる、でも……怖いんだ」


 シックスは、破壊されても魔力吸収機構が自動で働いて復活できる。言ってしまえば、俺と同じように死んでも生き返る事が可能なわけだ。

 だから、死聖剣ドネの死の風だって耐えられるかもしれない。ほんの少し、彼女の背中に隠れて風をしのげば、風を生む聖剣を壊せるかもしれない。それは理解している。

 けど……もしもこの死を与える力が、シックスを本当に、永久に死なせてしまったら、と考えると安易に飛び込ませたいとは思えなくなる。

 俺は耐えられているが、もしかしたらシックスでは生き返る事ができないんじゃないか。その考えがふとよぎってしまうので、行かせたくない。


「シックスがもう、動かなくなるかもしれないと考えたら、あそこにだけは行かせられない……!」

『心配してくれるのは嬉しいけど……それじゃ打つ手なくなっちゃわない?』

『困ったモンだよなぁ。せめて死ぬ心配のいらねぇ奴か、死んでも心の痛まなねぇ奴でもいてくれりゃあ助かるんだが』


 ジルの言う通り。ここにいるのは、俺の大切な家族みたいな人たちだ。それをあんな場所へ飛び込ませたくない。

 しかし、俺以外に死聖剣に対抗できる能力を持った存在なんて、今この場所には……。


「なんだ、まだここにいたのか」


 そう考えていると、後ろから声がした。

 リィンたち4人のさらに後方。遅れてきたかのように現れたのは、ビスクだった。


「あ、もどってきた」

「この場にあった聖剣はもうお前たちが持ち去ったかと思ったが、念のため戻ってみれば、何をしているんだ?」

「その聖剣に襲われてるんだよ!」


 俺の方から簡単に今の状況を説明してやると、ビスクは呆れるように笑う。


「……ハッ、聖剣に拒絶されているという事だな。仮にも勇者を名乗る男が聖剣に襲われるなど、聞いて呆れるぞ!」

『……こいつ真っ先に殺されてたよなぁ、ザック』

「だがあの聖剣がまだお前のものになっていないというなら都合はいい。調伏し、私のものとするために手を貸してやろうじゃないか!」


 相変わらず自分に都合の悪い部分は流すビスクだが、どうやら協力はしてくれるようだ。

 懐から1冊の日記を取り出した彼女はそれをその場に放り、腰の剣を抜く。


「……言いたい事がないでもないが、ともかくあんたみたいなやつが現れるのを待ってたんだ、ありがたい!」

「フッ、ザックも私のような勇者に助けられるのを期待はしていたわけか」

「ああ、念のため言っておくと、後者の方だ!」

「? よく分からんが、付いて来い!」


 ジルが言っていた条件に当てはまるやつが来てくれて、今度こそ形勢は俺たちに傾いた。

 ビスク側も俺の心情までは分かっていないようだが頼られたのが嬉しかったのか嬉々として先を行くのでそれに追従する。


「先ずは1つっ!」


 死聖剣を取り巻く風の聖剣、その1本へと向かい、ビスクを壁にして俺が死ぬまでの時間を稼ぐ。

 勇者の体が光の粒子に変わって消えるのに合わせて俺は踏み込み、風の聖剣をジルで折り砕く。


「次だ、ゆくぞっ!!」


 復活した俺を確認してビスクが走るのに続いて、同じように2つ目の聖剣も破壊した。


『こいつでぇ!』

「終わりだッ!!」


 もう半分も簡単に壊せた。ビスクが死んで、消えるまでにいくらか時間がかかるおかげもあったんだろう。どうしても届かなかったあの距離が、楽に詰める事ができた。

 部屋で巻き起こっていた死の風は完全に止まり、再び俺は死聖剣ドネと対峙する事ができるようになったのだった。

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