死聖剣、ドネ
自らを死聖剣と名乗る敵。その体は全身が骨だけでできていた。
風化して骨だけになった、ってよりも無数の生き物の骨を組み合わせて作られたような感じだ。
自分自身であろう死聖剣を握り、2本足で立つその姿は人間に近いフォルムではあるが、体を形成する骨は人間のものだけでなく、他の動物のものも含まれている。
頭部にあたるだろう場所には一際大きな人の頭蓋骨があり、全身の骨同士の隙間からは黒い霧が漏れ出し、足元に漂っている。
「……これは見ての通り、死を司る聖剣なんだろうな」
名前からして死聖剣だし、触れただけでビスクが即死したりした事からも効果は単純だろう。
触れた者に死を与える。このドネとかいう銘の聖剣は、そういう力を持っている。
『ったくよぉ、んな物騒な剣のどこが「祝福の8聖剣」だってんだよ、ちっとも祝えねぇぞ!』
『我が力を侮辱するか。構わない、死は全てを許そう』
『……やっべぇ、こいつにも俺の声聞こえちまうのかよ』
俺に言ったのかもしくは独り言だったのかジルが放った言葉は死聖剣ドネにも届いたようで、ジルは驚いている。
「許すって、結局殺す気しかなさそうなんだけど」
まあ今の失言がなくとも俺たちを逃がす気なんてないだろうが、これは戦うより他にないっぽい。
「……いきなりおっかねぇヤツと出会っちまったね。さて、あたしはどこまでやれるかね」
「いや、ここは俺が戦う。リィンたちは見守っててくれ」
ドネの待つ部屋に入ろうとするリィンを、俺はそう言って止める。
「な、なんだよザック、一緒に戦おうってんじゃないのか?」
「そのつもりだったんだけど、流石に相性がね……」
触れては死ぬという相手。この前の災厄の眷属みたいなものだ。
しかも今回の死聖剣ドネはとても恐ろしい雰囲気を纏っている。あの骨の体は物理的な、特に打撃はよく通りそうだが、彼女たちに戦わせるわけにはいかない。
それに、リィンは明らかに声も身体も震えてたしな。あのドネの纏う力は俺にだって感じられたのなら、歴戦の冒険者である彼女はより強くそれを感じているんだろう。
戦えばどうなるか、彼女自身も分かっているはずだ。だから、そんな無理をさせる気は俺にはない。
まあ、その辺はわざわざ言わないけど。
「とにかく、ただ死なせるだけなら俺だったら安全に勝てるし。今回は……いや今回もになるか。まあ任せてよ」
災厄の眷属は触れた相手を喰らってその能力を使えるようにする特性がある。だから、俺が絶対に触れてはならない魔物だった。
しかしこの死聖剣はただ死を与えるだけだ。それなら、俺だけで挑めばいい。
「……分かった、死ぬなよ、ザック」
「ごめん……それはちょっと無理かな」
「そ、そうだよな。すまん、癖でつい」
リィンも戦わなくていいと分かったからか、安心した顔をしてヴェナのいる方へと離れていく。
遺跡に入る前は「一緒に戦おう」なんて言ってた手前申し訳ない気持ちもあるが、いくらなんでも触れたら死ぬ敵が相手じゃこうするしかないよな。
それでもリィンたちが即死したら俺は絶望してしまう。俺とは違って生き返る事なんてできないんだから。……シックスは例外だが、それでもそう簡単に死なせたいとは思わない。
だから、俺は単身で死聖剣の待つ広間へと足を踏み入れた。
『おお、死を恐れず我が元へ来るか。その意気は認めよう。……だが、死は決してその力を緩めはしないと知れ』
「関係ないね、俺が死ぬ分には何も怖くないぜ!」
ドネにそう吠えるが、実はちょっと嘘だ。
死ぬのはまあまあ怖い。フッ、と一瞬体の力が抜けて、視界が真っ黒に染まって何も考えられなくなるのだ。俺の場合は即座に復活できるからほんとに一瞬なんだけど。
でもそんなことそのまま言ったらみんなが加勢に来ちゃうかもしれないしな。ここはハッタリを利かせて勇ましくいくしかないだろう。一応勇者だし。
「いくぞジル!!」
『ッしゃぁッ! 死の聖剣ぐれぇ何だってんだ、逆に向こうが死ぬまでぶった切ってやろうぜ、ザックよぉ!!』
俺に応え、ジルは叫ぶ。
魔剣のやる気に呼応するように、俺はそのままドネへと距離を詰め、そのままの勢いで叩き斬る。
音速に迫ろうという速度で軌跡を描く刃だったが、見た目の割に動けるのか、黒い刀身の死聖剣がジルを受け止めた。
『終わりだ』
「まだまだ、こ、こ、から」
2撃目を打ち込むべくジルを引き、また振ろうとするが体に力が入らない。
俺の視界は暗闇の中に包まれていき、声すらも出せなくなる。
なるほど、あの肉体側だけでなく死聖剣本体に触れても死ぬのか。そりゃあそうだよな、どっちも死聖剣ドネなわけだから。
遺跡の床に顔を叩きつけ、俺は死んだ。
「……おおおおおおおッ!!!」
『!!』
俺は死に、すぐにリィンたちの前で復活した。
そして再びドネへと挑む。真っ向から頭部の頭蓋骨へとジルを叩き込むが、それもまた防がれる。
『……なんと、我が死を受けた者と、今1度見えることになろうとは』
「1回じゃ」
また死に、今度は突き。肋骨に迫ったが、横から死聖剣で払われてまた俺は死ぬ。
「終わらないぞッ!!」
死んで、攻撃して、そしてまた死んで、生き返る。
同じことの繰り返しのようだが、少しずつ、俺の攻撃は届きそうになっていく。
このまま続ければ最後に勝つのは俺か、ドネか。その勝敗を、俺は既に確信できていた。




