俺の方が先だったのになあ
俺たちがトルフェスと別れ、孤児院に戻ったその日の夜。またも女神は夢の中に現れた。
今度は何の用かと思ったけど……よく考えてみれば前回は聖剣諸島の場所を教えただけだったのを思い出す。
俺の方もギルドで資料を見ようとし始めた所だったので、もしかしたら攻略に関するお役立ち話とかを聞かせに来てくれたのかな?
「はぁ~~~~~~……」
「……俺の顔見るなりいきなり溜息かよ」
期待を寄せて女神を見ると、いつものように座った姿勢で、加えて深ーく頭を伏せていた。
この時点で、俺も何となく察しはついた。
「何だよあの野郎、知らねえ女とイチャイチャしてやがって……。あんだけ俺にビビってたのにもう忘れたみたいな顔してるじゃねえか」
そのまま女神はぐちぐちと何事かを呟き出した。聞こえる内容は……トルフェスの話っぽいな。
「つーーか誰だよメダリアって。俺と会った時はあんな女見た覚えねえのに。何長年連れ添った感出してんだよ。なあ?」
「知らねえ……!」
本当に知らない。俺に同意を求められても困る。
「しかも聞いてただろ? あいつ俺の事なんざこれっぽっちも覚えてねえ態度だったろ!? 許せねえよなぁ、ザック!?」
「だから知らねえよ!!」
海で銀の災厄を見た時はしっかり恐怖していたらしいし、忘れられてる事はないと思うが……あ、こっちの女神の時の話かな?
まあどっちにしろ俺の方こそこれっぽっちもそんな話知らないんだけど。
『へっ、なんだぁ? もしかしてお前ぇ、好きだった男にオンナができて嫉妬してんのかよぉ?』
「え……浮気か? またカトレアさんに怒られるぞ」
「そんな話してねーよ! 俺は、ただ……その、俺にした事とか、忘れてるみたいに見えて、ムカついただけだよ」
歯切れ悪く言う女神。嘘は言ってないかもしれないが、別の意図はありそうだなと思う。
……そういえばトルフェス、女神の時のこいつを殺した事があるんだったか。
確かにそれを忘却されてたらムッとするのも分からないでもない。忘れるにしても顔を見たら思い出すくらいはしてほしいよな。
「……でもお前、この前トルフェスを助けた時は銀の災厄の姿で会ってたから、昔に会った時のお前とは別人だと思われてたりしないか?」
『あぁ、それはあるかもなぁ。ここで会うお前ぇと銀の災厄の時だと、顔は似てっけどカラダはかなり違ぇからなぁ』
ジルが言うように、夢の世界で俺たちに見せる女神の姿は銀の災厄と時とかなり違う。
身長もかなり低くなっている。リュオンとかローレナと比べたら流石に大人には見えるが、それでも頭1つか2つ分くらい縮んでいる。
それとやっぱり1番の違いは胸だな。ここを見るだけで同一人物だとはとても思えなくなる。ここも頭1つか2つ分くらいある。
……ともかく、これでは記憶に留めていたとしても思い出せないかもしれないのは間違いない。
「どうしても思い出してほしいならその姿で直接会いに行ってこいよ」
「や……それはもうなあ。今更俺の事思い出させちまったらメダリアとかいう奴との関係にヒビ入れちまうかもしれないし……」
そう言って女神は眉を曲げながら首を振る。
トルフェスとどんな関係だったかは知らないが、あのままメダリアさんと結婚する勢いだった彼の元に、昔なんらかの関係を持っていた女が現れたら面倒なことになりそうなのは事実か。
「なんだ、お前もちゃんとそういうのは考えるんだな」
『俺はむしろ奪い取ってやる、ぐれぇは考えてんのかと思ってたのになぁ』
「するかよそんな事。あいつのを気に入ってたのは事実だけど、そもそもまた殺されねえとも限らないからこの姿で会うの自信ないんだよ」
まさかこの世界最強の災厄から「自信がない」なんて言葉が飛び出すとは思わなかった。
不死身なんだし、嫌われてるくらい気にせず飛び込めそうなものだけどなあ。
「まあいいさ、メダリアとかいう女が死ぬまで守るって言ったんだ、約束を違えるまでは何もしないでおいてやる」
どことなく不満そうではあるが、女神はそう結論を出したようだ。
メダリアさんがあの誓いを破れば何かするつもりのようだが何をする気なんだろうか。いや……考えなくていいか。あの2人はきっと仲睦まじくやっていけるはずだから。
ともかく言いたい事も言い終えたのか、満足そうな顔をしていた女神に今度は俺の方から問いかける。
「ところで聖剣遺跡について詳しく聞いてもいいか?」
「あ? ……あー、そういや何も言ってなかったか。ならついでに教えとくか」
教えてくれるのか!?
完全にトルフェスの話をしにきて帰るつもりだと思ってたから意外すぎる対応に俺は内心で驚いた。ついで扱いなのは、まあ、よしとしよう!
そうして女神は俺たち共通の敵になった存在の居城の詳細を語り始めた……。




